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【店づくり相談室 vol.7】地球は私たちがいただいた「かけがえのないギフト」


脱炭素化に向けた地産材・地域材を活用した店舗

<パタゴニア>が紡ぐ新しい消費

米国発のアウトドア用品ブランド<パタゴニア>。1973年にクライミングの道具を売る小さな会社として創業しました。今では「過剰消費社会に戦いを挑む」世界をリードするブランドです。<パタゴニア>の店舗では、来店客に「必要ないモノは買わないで」と投げかけます。その理由は、消費を減らし、修理しながら同じモノを長く使う消費文化を育てたいという想いからです。彼らの考えのベースにあるのは「どうすれば環境負荷を減らせるかは、どうすれば儲かるかと同じ」だといいます。

リサイクル素材の利用が進むアパレル業界において<パタゴニア>が力を注ぐのが、リデュース(削減)、リペア(修理)、リユース(再利用)。地球への負荷を減らすために新品は長持ちする素材やデザインにし、古着と修理で消費者の買い物行動を変えようとしています。企業認証制度 〈B Corp(B Corporation)※〉もいち早く取得し、これからの「新しい消費の形」=「消費者の欲望の矛先を変える」であろう今最も注目すべきブランドのひとつです。

※B Corp=米国の非営利団体B Labによる国際認証制度。厳格な評価のもと、環境や社会に配慮した公益性の高い企業に与えられる。「B」は「Benefit(ベネフィット:利益)」を意味し、社会や環境、従業員、顧客といったすべてのステークホルダーに対する利益を表す。

自然環境と調和する店舗デザイン

出典:軽井沢経済新聞


<パタゴニア>の直営店は日本国内に23店舗(2023年10月時点)あります。その中で2023年春にオープンしたのが、軽井沢駅から徒歩1分の好立地にある軽井沢店。売り場面積287㎡で、そのうち約10%が資料展示やフィルム上映が可能なコミュニティスペースになっています。

出典:Dig-it

品揃えは、クライミングや登山、トレイルランニング、フィッシングなどのテクニカルウエアからライフスタイルウエア、キッズ/ベビー用品、「パタゴニア プロビジョンズ」の食品に加え、アウトレット品までと幅広い構成になっておりギフトニーズにも対応しています。

出典:OCEANS

山並みの稜線と調和する、折り重なるような屋根が特徴的な木造のこの店舗は、鉄骨造を想定していたそうですが、<パタゴニア>からの要望と材料及び工賃の高騰が重なり木造建築になりました。設計のポイントは、中と外の境界を感じさせない風が抜けるような環境と調和するデザイン。木漏れ日の影を連想したトラス梁で、店舗全体を軽やかな印象にする構造になっています。木造のメリットは、工期短縮とコスト削減にもあります。強度を補うためのブレース構造(筋交い)や、柱なども店舗デザインと融合して独特の雰囲気を醸し出しています。


出典:PR TIMES  ©HIROSHI KUMAZAKI

自然光がたっぷりと入る木のぬくもりを感じられる店内は、浅間山の麓にある雄大な自然や軽井沢の歴史からの着想です。エントランスのステンドグラスには浅間山と白樺が描かれ、試着室の奥には、かつてこの場所に草軽電気鉄道の新軽井沢駅舎があったことを伝えるボードが掲示されています。


地域コミュニティのハブ的存在

出典:Men’s NON-NO
出典:Men’s NON-NO


<パタゴニア>は、その地域で暮らす人々やアウトドアスポーツを楽しむ人とのコミュニティをとても重要なものと位置づけ、コミュニティづくりにも力を入れています。

出典:Karuizawa Web


軽井沢店のコミュニティスペースは<パタゴニア>の創業者がクライミング用のギアを作るために立ち上げたシュイナード・イクイップメントの工場を模したデザインになっています。ここではフィルムの上映や、環境保全活動と連動したイベントやワークショップなどを開催し、ローカルコミュニティが集うスペースとなっています。店舗スタッフが、この土地で暮らす中で、地域の人々との交流を通して相互理解を深めながらコミュニティの深化を探っています。そのため、店内にはスタッフとのコミュニケーションの一助となるような地域のエネルギーや食、農業に関わる団体と<パタゴニア>との取り組みなどを紹介するコーナーも設けられています。


地産材・地域材を活用した設計

釿(ちょうな)加工 出典:日本ダブテイル協会


“自然環境と共生する”ようにデザインされた木造建築は、環境への負荷軽減だけでなく、カラマツ、クリ、古木、鉄平石、浅間石などの長野県産の資材を使用することで地域の環境建築の活性化を目指しています。また、日本の伝統的な木材の加工方法である釿加工(ちょうな加工=木材の表面を粗削りする加工法)を取り入れ、波状の木肌の表情を創り出しています。

出典:YAHOO!ニュース
出典:山翠舎オアシス
出典:PR TIMES ©Patagonia, Inc


ファサード看板は、戦前80年以上前に建てられた古民家を解体したときに出た松の古木を使っているそうです。あえて着色していない木材や、構造をデザインに組み込んだ店はシンプリシティを重視する<パタゴニア>の哲学とマッチしています。


木材の地産地消


日本は、世界的にも有数の森林資源に恵まれた国です。戦後一斉に植樹された木々は樹齢60年を越し、木材として今まさに収穫期を迎えています。しかし、残念ながらその森林資源の多くは活用されておらず、建材については、ほとんどを安価な輸入材に頼っているのが現状です。

そこで国を挙げて推進しているのが「地産材」や「地域材」の活用です。地産材や地域材が推奨される理由や使うメリットについては正しく理解されていないのが実情ですが、社会的・環境的意義だけではなく、施工の工程を円滑に進められるというメリットもあります。


地産材・地域材の定義

昭和後半に入ってから国産材の使用率低下や価格の低落が深刻化しています。特に、建築資材における国産材利用率は40%前後と低いのが現状です。日本は森林資材が潤沢なのにそれらを活用できていないという問題に対して、近年、国は国産材の需要拡大を目的とした「地産材」「地域材」の活用を推進しています。

「地産材」や「地域材」はその名の通り建設されるエリアに近い場所で伐採・製材された木材を指します。一般的には都道府県単位で産出されるものを指し、産出地と同じエリアの建物に使用するという意味で「地材地建」という言葉もできました。しかし、国内においては林業が盛んな地域と木材を安定的に消費する地域は異なるため、あまり木材の産出地にこだわり過ぎず、「国産材」を使うという広い視野を持つことも大切とされています。


国産材の活用が推奨される理由と使うメリット

近年、国や自治体で国産材や地産材利用に対して補助金を設けていることからも、その必要性は明らかです。国産材を活用するメリットは以下の通りです。


理由① 脱炭素化・カーボンニュートラルに効果的

「脱炭素化」「カーボンニュートラル」は、二酸化炭素などの温室効果ガス排出を抑えて地球温暖化を阻止するための考え方や活動を指します。実は、国産材や地産材を活用することは、これらに大きな影響を与えます。

木材の伐採や加工にはエネルギーをあまり使わないため「エコマテリアル」として認識されていますが、それらを運搬するにはどうしても多量の燃料エネルギーが欠かせません。これを指標化したものを「ウッドマイレージ(木材輸入量×輸送距離)」と呼び、建材の多くを輸入材に頼っていた日本はウッドマイレージが世界でも1・2を争う数値となっています。

つまり、日本の建築業界は資材の運搬において、たくさんの二酸化炭素を排出しているということです。出来るだけ建設場所から近いところから材料を取り寄せることで、運送時のエネルギー量を削減することができます。公益財団法人 日本住宅・木材技術センターの調べによると、住宅に使う木材の全てを地産材や国産材にするだけで、大幅に二酸化炭素排出量を減らすことができるというデータが出ています。

引用:一般社団法人 ウッドマイルズフォーラム|ウッドマイルズ関連指標


理由② 木材利用促進法が民間施設も対象に

環境的視点からも、近年住宅以外の建築物における木材の利用促進が急激に進んでいます。その一番の理由が、「木材利用促進法」の改正です。公共建築物の床面積ベースの木造率は上昇傾向にありましたが、民間建築物については、非住宅分野や中高層建築物の木造率は低位にとどまっていました。その後、令和3年に「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行され、対象が公共建築物から建築物一般に拡大しました。つまり、公共建築物に限定されていた木材利用促進法が、改正に伴って一般建築物全般も対象になり、木材の利用促進がさらに強化されたのです。

理由③ 地域経済活性化ができる

森林大国である日本においても、今までは安価な輸入材に依存してきました。そのため、国内の林業は衰退し、近年は従業者の高齢化や人材不足が否めません。そのような中、地産材・国産材を積極的に利用することで、再び林業に活気が戻り、その地域の経済活性化が期待されています。2019年には「森林経営管理制度」が制定され、個人では管理しきれない山林を市町村主導で整備できる仕組みができました。このことからも、国内の林業や製材業に再び活気を取り戻すことが国を挙げたプロジェクトとなっていることが分かります。

理由④ 森林の循環・保全ができる

森林を健全な状態で維持し高品質の材木を作るには、森を常に“循環”させなくてはいけません。『植林→間伐→伐採→利用→植林』のサイクルを維持することで、今まで停滞していた人工林も若返り、樹木がきちんと成長し材木の品質向上に繋がります。また、コンスタントに植林ができれば、森全体の寿命も長くなると言われています。

引用:近畿中国森林管理局|健全な森林づくり


理由⑤ SDGs推進につながる

森林大国である日本は、常に多くの木材ストックを持っており、国産材の活用は経済的にも大きな可能性を秘めています。国産材を積極的に利用することは「脱炭素化」「地方の経済活性化」「森林の若返り」につながります。それこそがまさにSDGsを達成する大きな要素となるのです。



これからのトレンド「地材地建」の意義

国内もしくは同地域内で製材された木材を使うこと、いわゆる「地材地建」は日本だけではなく世界の建築界においてトレンドとなっています。その主な理由は以下の3点です。
・建物や企業のアピールポイントになる=CSR的メリット
・利用者や周辺住民にとって愛着の湧く建物になる=地元愛
・材料供給が安定化する=ウッドショック対策

まず、地産材や国産材の活用は環境問題に積極的に取り組んでいるという印象を社会に与え、高い意識を持った建物や企業であることをアピールできます。そのため、CSR(企業の社会的責任を果たすための活動)の一端として、国産材利用に取り組んでいる企業は少なくありません。
また、地域にゆかりのある木材を使うことは、その建物の利用者や周辺住民の共感を得る上でも効果的です。“地元愛”を掻き立てることができ、その建物が人々から長く愛され、使い続けられるものになると考えられます。

出典:林野庁・農林水産省作成資料


これら社会的意義のあるメリットの他にも、「材料供給の安定化」という利点があります。新型コロナウイルス感染拡大を機に世界中でリモートワーク化が進み、特にアメリカでは住宅需要が高まりました。その影響により2021年から木材の高騰化や材料不足、納品遅延が深刻化しました。これを「ウッドショック」と呼びます。さらに、ロシア・ウクライナ情勢によって、木材の輸出大国であるロシアはアメリカや日本を含めた非友好国に対して2022年3月から単板・丸太・チップの輸出を禁止しました。そのため、需要と供給のバランスが崩れて更なる価格高騰につながりました。この現象は、今まで輸入材に頼っていた日本の住宅業界にも大きな影響を及ぼしました。輸入材への依存を止めることで、このような事態にも対応できるようになります。つまり、国産材を使う「地材地建」の動きは、単なる一過性のトレンドではなく、中長期視点からも大きな意義を持つのです。

軽井沢町は「自然と共生した環境の保全と育成」をビジョンに掲げ、人々や町全体が環境に配慮した取り組みを行っています。<パタゴニア>の軽井沢店は地域コミュニティと環境保護活動を行ったり、その情報を発信したりする拠点になることが期待されています。地産地消の木材を使った店舗は、地域との相互理解にとって重要な役割を果たしています。

端材でも家具を作るカリモク家具(愛知県東浦町)やウニの価値を高めて海の砂漠化を防ぐウニノミクス(東京・江東区)など、新しい消費文化の創造に挑むブランドは日本でも増えてきました。倫理的消費と聞いてピンとこなくても、知らず知らずに欲望の矛先は「何を買いたいか」から「どんな物語を伝えたいか」に変わっています。誰もが地球を愛し、新しい景色を見たいと思っているのです。

私たちがギフトとしていただいたかけがえのない地球。そこに住む私たちが持っている「人を想い、人を愛し、人に感謝する」という気持ち。それが「ギフトの心」。「ギフトはこれからの時代の共生社会、地域社会の豊かな営みを創生する礎になる」と私たちは確信しています。


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