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ノスタルジー

そんなに多くはないが、年に何回かは「昔やっていた〇〇というケーキがほしい」という声をいただく事がある。

まあ、何だかんだで50年以上やっている店なのでケーキや焼き菓子の数はそれなりに膨大だ。

お客様からすると思い入れのある商品なのでよくわかっておられるワケだが、正直こちらとすると「?」となるケースも多々ある。

レシピがわかっているものなら対応の仕方もあるが、たまたまその期間だけしていたものとかだとレシピ自体が残っていないものも多い。

そして、この昔を懐かしむ「ノスタルジー」というのは結構厄介だ。

そのままレシピをなぞって作ればいいものではなく、そこには「ノスタルジー」という名の「美化」がプラスされている。

これはお客様の生き方によって「美化」加減が違うので、そのあたりは我々の知るところではないので難しい。

この考え方の参考になる漫画がある。「味いちもんめ」というビッグコミックスペリオールで連載されていた(今もしているのかな?)漫画だ。

(これからのエピソードは上記の巻ではありません。)

内容はざっくり下記の通りなんですが、セリフとか文脈は若干違うかもですがご容赦ください。

この漫画の主人公が働く料亭の親方の元に、小学校の同級生が訪ねてくる。訳を聞くと「昔食べたすいとんを再現してほしい」という。何でも、そのすいとんを食べることで、昔の苦しかって事を思い出してもう一回頑張るきっかけを掴みたいとか。当然、戦時中のものなので「不味い」のだが、それがいいのだとか。

「美味いものを作ってくれ」という注文は数あれど、「不味いものを作ってくれ」という注文は初めての親方は困惑しながらもその戦時中のすいとんを「再現」したものを作る。

約束の当日、集まって同級生は親方の作ったすいとんを顔をしかめながらも「そう、これだよ」と言いながら食す。周りの弟子達も同じように顔をしかめながら食す。

同級生達が帰った後、主人公の弟子が「さすがは親方、当時のすいとんを見事に再現されましたね」というと、親方は目を閉じて弟子に「これを食ってみい」と別の鍋からすいとんを出し、主人公に食させる。

「うえっ、これは」先のすいとんより遥かに不味いすいとん。「当時のものをそのまま再現したらこれや。だが、みんな時が経ち思い出も美化されている。その分を味付けしたのがさっき出したもんや。」

ケースとしては違うかも知れませんが、思い出「ノスタルジー」の部分を味付けする、というのは料理やお菓子の部分においても頭に入れて置かなければいけないところですね。

ケーキだと、「昔一生懸命に働いていた時代に食べていた」「子供がまだ小さい頃家族みんなで食べていた」など思い出と共にあり、その思い出は時を経て美化されているものですから、作り手の我々はそれを加味して作らないといけないんですね。

材料だけ今の時代のものに置き換えればいいものではなく、レシピも当時そのままではなく今の食習慣に合わせて調整が必要な場合があったり。

かように、「ノスタルジー」というのは美しい思い出なのですが、それを再現するのは結構大変なのであります。

#ノスタルジー #ケーキ屋 #ケーキ #味いちもんめ #思い出













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