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12の基本スキル「作る」:提案書の作成方法(2/2)

本ブログ記事は『ビジネススキル 完全攻略 -基本編-』からの抜粋になります。全部まとめて読みたい方は、是非、電子書籍をご購入ください。

「作る」スキルの前編は、こちらからご覧になってください。


社内稟議資料としての位置づけ

提案書は、プロジェクトや取引の開始に先立ち、提案先の社内でディスカッションペーパーとして利用されたり、承認プロセスの一環として使用されたりすることがあります。

これは、組織内でプロジェクトの必要性や戦略的な位置づけを確立し、リソースの割り当てや予算の承認を得るために使用されます。

ここで大事なことは、提案する先が誰かです。

たとえば、取締役や執行役員などマネジメントレイヤーまで直接提案することができるのならば、提案する側はすべてをコントロールすることができます。

しかし、提案する先が課長までで、その上の部長やマネジメントレイヤーまで、直接提案することができなかった場合、提案資料が独り歩きしてもいいように、誰でも理解できる分かりやすい資料を作成する必要があります。

図表.稟議の承認フローと提案書の評価ポイント

提案書の作成手順

より具体的に、提案書を作成するための一般的な資料作成の手順の話しに入っていきたいと思います。

コンペなど、お客様の要求に応じてきちんとした提案書を作成する場合は、2~3週間ぐらいの時間を使って資料を作成していきます。

図表で整理すると、以下の5つのステップになります。

図表.提案書の作成手順

1.提案依頼

図表.提案依頼と想定される作業タスク

提案すると言った場合、お客様側から依頼されて提案する場合と、提案者側が自主的に提案していく場合の2つの場合が想定されます。

ツールベンダーや人材系の会社の場合は、アウトバウンドセールスで、営業が自主的に提案していくことが多いので後者になります。

今回は、お客様側から提案依頼が入った場合を想定して、どういう作業タスクが発生するか見ていきたいと思います。
今まで取引がない場合は、会社のホームページの問い合わせフォームや、コンタクトメールから問い合わせが入ります。

既に取引があり、営業担当者がついている場合は、お客様から個別に相談を受けたり、RFP(Request for Proposal)と呼ばれる提案依頼書を受けたりします。

RFPの中には、提案してもらいたい内容や仕様が細かく記載されています。
特に複数企業でコンペになる場合は、RFPが提示されることが多いです。

2.社内キックオフ

図表.社内キックオフと想定される作業タスク

RFPを受領したあとは、関係者を集めた社内キックオフを開催します。
RFPの内容をみんなで読み込み、提案日から逆算して、どういうスケジュールで提案書を作成していくか時間軸を明らかにします。

また、この段階で、最終的にどのような提案内容にしたいか、アウトプットイメージも具体化しておくことがとても重要です。

「考える」スキルのパートで、提案書は仮説思考で作るという話しをしたかと思いますが、お客様から求められているものに対して、仮でいいので、どういう提案内容にしたいのか、初めの段階で決めておくことが大事です。

提案書の作成で一番やっかいなのは、手戻りが発生することです。
ある程度、提案書が完成した時点で、想定していた内容と違った場合、一番初めのプロセスに戻り、再度、内容をすり合わせしていかなければならないからです

こういう事態を避けるためにも、提案のアウトプットイメージや仮説レベルは、はじめの段階で固めておく必要があります。

提案内容に関しては、全く新規の提案というものは少ないので、過去に作成した資料で使えそうなスライド(ページ)を集めておくことも、作業時間を短くすることにつながります。

3.提案骨子作成

図表.提案骨子作成と想定されるタスク

いきなりパワーポイントで、個別のスライド(ページ)を作りこむのではなく、まずは、大枠から作成していく必要があります。

この大枠のことを「アウトライン(提案骨子)」と言います。

提案書のアウトラインとは、提案内容を構成する大枠や構造を示したものです。
これは、提案書を作成する際の指針となり、内容の整理や流れを明確にするために用いられます。

前段で、「What」「How」「Credibility」の3つの観点から、提案書に盛り込む具体的な項目が10個あるという話しをしました。
項目としては、以下の10個になります。

図表.提案書に盛り込む10項目

こちらの10個が目次の大項目(大見出し)になり、項目ごとに、内容をブレイクダウンしていきます。

ケーススタディでABCソフトウェアの事例サンプルを作成しましたが、あの内容を、具体的にスライド(ページ)に落とせるように、テキストベースでアウトライン(提案骨子)を作成していきます。

たとえば、ABCソフトウェアの「1.戦略・事業理解」のパートを、パワーポイントのスライド(ページ)に落とし込めるように、タイトルとメッセージだけで整理すると以下のようになります。

1. 戦略・事業理解
・タイトル:御社事業に関して(弊社理解)

・メッセージ:御社はクラウドベースのソフトウェア開発ツールベンダーで、エンジニアの社員で構成されている。

・タイトル:営業力の強化と収益性向上
・メッセージ:
営業を強化し、販売代理店ではなく直販比率を現状の20%から40%に引き上げ、収益性の向上を目指している。

・タイトル:顧客数増加の戦略
・メッセージ:
新規顧客獲得には営業とマーケティングを強化、既存顧客維持にはカスタマーサクセスを充実させ、継続利用を促進しようとしている。

・タイトル:顧客単価向上の戦略
・メッセージ:
クロスセル・アップセルによる収益向上。製品ラインナップの拡充を通じて顧客単価の増加を目指している。

この場合、「1.戦略・事業理解」のパート(章)が、4つのスライド(ページ)で構成されることになります。
同じように、10個の項目をタイトルとメッセージレベルで構成をまとめていきます。

実は資料作成の一番の肝は、パワーポイントの作成ではなく、タイトルとメッセージだけで、論理構成に矛盾なく、提案骨子(提案シナリオ)を作成することができるかどうかです。

実際に作成してみると分かりますが、これが意外に難しく、業務知識やノウハウが乏しい領域だと、提案に深みがなかったり、的外れな提案になってしまいます。

アウトライン(提案骨子)が作成できたら、次は、タイトルやメッセージを具体的に表現する図表の作成になります。

こちらは、過去に提案した資料で使えそうな図表を流用したり、新規で作成する場合は、ホワイトボードなどで、手書きで作成し、アウトプットイメージにずれがないようにしておきます。

その後、個別スライドの作成に着手できるよう、メンバーに作業の割り振りを行い、パワーポイントの個別スライドを作成していきます。

また、アウトライン(提案骨子)を作成していく中で、顧客に追加で質問したい事項がでてきたりします。
これらは、質問シートにまとめて顧客に送付し、万全な体制で提案内容を作り込んでいきます。

4.提案書の作り込み

図表.提案書の作り込みと想定される作業タスク

複数メンバーで資料を作成していると、使用するフォントやフォントの大きさ、文字の体裁や図表の大きさなどが、バラバラになることがよくあります。
こういう問題を避けるために、事前にフォーマットやレギュレーション(約束事)を決めておくことが大事です。

レギュレーションとは、使うべきスライドのテンプレートやフォントの統一・フォント数、使う色などを事前に決めておくことです。

その後、各自が作成したパワーポイントのスライドを合算し、スライドの内容に一貫性があるか、内容に間違いがないかチェック(レビュー)していきます。

5.提案書のファイナライズ

図表.提案書のファイナライズと想定される作業タスク

最後に、資料全体のトーン&マナーを合わせて資料を完成させます。

また、「実行計画の具体化(Howの部分)」に関して、本当にスケジュール的に実現可能なのかどうか、メンバーをちゃんとアサインできるのかどうか、見積もりが妥当なのかどうか、最終チェックしていきます。

以上が、提案書の作成手順になります。

提案書を作成することは、非常に生産性が低い業務なので、いかに手戻りなく資料を作成していくかがポイントになります。

スライドの作成方法

最後に、スライドの構成と、1枚のスライドに盛り込むべき情報に関して、解説しておきます。

スライドの全体構成

図表.スライドの構成

 一般的なスライド構成は、はじめに、表紙がきます。ここでは、提案する内容をタイトルとして記載します。
 たとえば、「〇〇のご提案に関して」などと記載します。

 次に、目次のスライドを入れます。
目次は、提案書に盛り込む10個の項目にとどめるか、各項目の章立て(大見出し)をさらにブレイクダウンした項目(小見出し)まで入れるか判断します。
小見出しまで入れたほうが、目次を読んだだけで、どういった内容なのか理解しやすくなります

スライド数(ページ数)が多くなってしまう場合は、読み手が迷子にならないように、フェイサーを入れます。こちらは、章立て(大見出し)の項目と、小見出しを記載します。
最後に、個別のスライドを作成していきます。

提案書も、本格的に作りこむと100~200ページになることもあります。
その場合、全てを読むのが大変なので、表紙のあとに、提案内容を要約した「エグゼクティブサマリー」を入れて、スライド1枚で、どういった内容が書いてあるか理解できるようにします。
スライド(ページ)の枚数が少ない場合は必要ありません。

また、アンケート結果や調査データなど、全体の資料構成を補足する情報などは、Appendixとして、最後のページに補足情報として入れておきます。

スライド1枚の作成

次に個別スライドの作成方法に関して説明したいと思います。

図表.スライド1枚に盛り込む要素

まず、タイトルは簡潔に表現する必要があります。また、タイトルとメッセージ間で内容に整合性が取れていることが大事です。

メッセージとはタイトルをブレイクダウンしたものであり、通常、タイトルとメッセージのみを読めば、提案書の内容(アウトライン)が理解できるものでなければなりません
メッセージは通常2行程度で記載します。

4行程度になる場合は、複数のメッセージになっていることが多いので、スライドを分割してみてください。

また、メッセージで「〇〇は、以下のとおりである」という書き方をする人がいますが、メッセージになっていないので、ちゃんと文章にしましょう。

図表(チャート)とは、それぞれのスライドで説明したい内容を図式化したものです。
基本的に、タイトルやメッセージを補完する内容であることが望ましいです。
よく、「ワンスライド、ワンメッセージ」という言い方をしますが、1枚のスライドにたくさんの情報を盛り込むのではなく、ひとつのメッセージに限定したほうが、読み手も理解しやすいです。

以上、「作る」スキルに関して、提案書を題材に、どういうテクニックが必要になるか解説してみました。

資料作成は、プランニングスキル全般のスキルが求められるので、それぞれのスキルが高まってくると、「作る」スキルのレベルも高まっていきます。

昔、上司から、2,000枚ぐらい資料を作成すると、資料作成のポイントが理解できると言われたことがありました。
たとえば、100ページの提案書だとすると、20本の提案書を作成することになります。

質も大事ですが、たくさん資料を作成することで質も高まっていくので、少しずつレベルアップを図ってもらえればと思います。


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