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調査の現場⑤:グローバルスタディーズ学科

今年度の第3クオーター(2022年10月~11月)に、グローバルスタディーズ学科の2年生は全員「フィールドワーク方法論」という授業を受けました。今回は、この授業の一部と、授業で学生のみなさんが学んだ「方法」を実践した私の調査の一部を紹介します。

私自身が大学二年生であったころ、初めてのナイジェリアでのフィールドワークの前に当時の教員から教わったことは二つだけ、「日記を毎日つけること」と「現地の人たちの写真を撮ったら必ずその写真を次にその人たちに会う時に渡すように」でした。ちょうど今から20年前の2003年は、スマートフォンはまだなく、ナイジェリアでは、デジタルカメラで撮影した画像のデータをパソコンや携帯電話に簡単に送ることもできませんでした。

「フィールドワーク方法論」の初回の授業では、私自身が20年前から実践している大事なこの二点を紹介しました(冒頭の写真:2003年から2011年までのナイジェリアでの緒方の日記)。最終回では、15回の授業で学んだことをふまえ、学生のみなさん自身が2023年に海外で初めてのフィールドワークを行う際、大事にしたいことを二点を挙げてもらいました。「インタビューの書き起こしをすること」「数をきちんと数えること」「体調管理に努めること」「聞き上手になること」「その場で不要だと思ったデータも全て持ち帰ること」「先入観をもたないようにすること」「相手との差異に向き合うこと」「調査対象の人と共有する時間を楽しむこと」「すべての人や物事をリスペクトすること」など、授業での実践を通して、みなさんそれぞれが大切なことを見つけていました。

2006年、緒方がナイジェリアの調査対象トインに送った写真に同封した手紙。それを保管していたトインが、2022年11月4日に懐かしんでその画像をスマホで緒方に送ってくれた(2022年11月、トイン撮影)。

さて、フィールドワークに欠かせない道具として、ペンとノートがあります。今では手書きよりもスマホに打ち込むほうが早い!という人も多いですが、スマホを見る・触るという行為は、調査対象の人の目には、自分の話を聞いたりそれについてメモをとったりしているのではなく、別のことをしているように映るかもしれません。相手に敬意を払い、コミュニケーションを積極的にとるという意味でも、ペンとノートは役に立ちます。ノートなら、レシートやチラシ、名刺や葉っぱなど、調査地で得たものをクリップで挟んだりマスキングテープで貼ったりすることもできます。とはいえ、ノートを濡らしてしまったり、失くしてしまったりすることもあるでしょう。ノートに書きとったことや日記は早めにパソコン(やスマホ)に打ち込み、クラウドに、そしてUSBフラッシュメモリやポータブル外付けハードディスクなど、複数の場所に保存しておくと安心です。

調査地での晩は、疲れ果ててなかなかパソコンに向かうことはできないものですが、丸一日や半日は部屋にいる時間をつくり、こうしたデスクワークをすることもフィールドワーク中に欠かせない仕事の一つです。誰にも会わずにひとりで部屋で過ごしたり、寝たり、よく休むこともそうです。

緒方の国内フィールドノート(2023年2月4日撮影)。

私自身は、日本では京都精華大学のある京都市左京区を中心に、芸術に携わる人びとについて、飲食店での人びとの繋がりをたどって調査しています。この国内フィールドワークでもペンとノートとカメラは欠かせません。撮影した写真は、飲食店やアーティストやミュージシャンなど調査対象の名前を記したフォルダをクラウド上のドライブに保存し、調査対象のみなさんそれぞれと共有しています。写真を撮る前に、「撮影してもいいですか」と尋ねることも大切です。国や地域、政治や宗教、世代などによって、写真撮影に対する認識は異なります。日本の日常ではスマホでなんでも撮るのが当たりまえになっていますが、カメラを向ける前に、調査対象の人にひとこと声をかけるだけで、その後のコミュニケーションと調査が穏やかに進むこともあります。

左京区の喫茶ハチドリでの調査対象の方の写真。ご本人のご意向に沿い、手元だけを撮影させて頂いた(2023年2月2日撮影)。

2年生のみなさん、今月末から順次、海外フィールドワークを楽しんで、元気に帰ってきてください。

2023年2月6日
緒方しらべ(グローバルスタディーズ学科教員)



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