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幕開け【自由詩】


主人公は相変わらず誓いを果たし損ね
瞳を閉じたままのストーリーは続く
痛みの多い悲喜交々の劇中のヒロインは
冷たい雨ばかりをこの街に降らす


「本来の姿を見失ったかの様に見えた
 なぜあなたはそこにいるのですか」

「考えたこともありませんでした」

涼しい暗がりに沈んだ時間は
退屈なリズムを一定の安定に解く
並列する街路灯が世界を制御する

形の無い淡い光が私を包み込む
星の代わりに煌めくディスプレイ
一瞬でも開けば揺らぐ陰影

街行く人々の孤独など知る由も無く
祭準備の囃子の音が残響している
未だ夏めくより春の花々が咲く


「恵の雨もこの都市では鬱陶しい
 太陽すら暑いからと陰りに身を追いやる
 ビルの長く伸びた影が極楽となる」

「自然とは矛盾しているなと思いながら
 ここの生き方に従って過ごす日常は
 窮屈でありながら少しの安心感はあった」

煙に撒かれるように現れた陽炎が
決して静まる事が無いように祈る

適度に冷たい風が額を撫でると
消えて久しい記憶が解れて行く


「続く日々が永く行方知らずでも
 揺蕩うこの魂は褪せる事なく
 忙しく本当を探し続けるのだろう」

石礫の多種多様な形を見詰めると
声の無い言葉だけが溢れて来る
曖昧でも大切なのは心に届くかどうか

怒濤の如く流れ行く日々に
忘却した思い出が数多くある事に
突き動かされては月夜に物思い耽る

憂いなどはなく手で撫でてみると
誰もがきっと手に入れる筈の幸せを
失っても人生は終わらない事を知る


「何時からか幕引きを忘れている
 誰かの想い人と心に残した御伽話
 巻き込まれた私は最期まで夢を見ない」


朽ち落ちた首飾が
この物語の結末となる事を
私は絶える迄知らないままだった


——- Calm but restless days ——-


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