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カラフル

あ〜もう、うんざり。
こんな雨の日に外回りなんて最悪!
傘を差してはいたがこの雨でどうしても足元が濡れてしまった。
濡れた舗道を
慣れないヒールで滑らないように歩くのにもてこずっているのにストッキングが濡れてまとわりついて気持ちが悪い。

4月から入社してなんとか滑り込みで社会人になり2ヶ月がたった。
私は童顔なのでスーツ姿がまだ面接に向かう学生に見られているのではないだろうか…。
いや、その方がまだ何にでもなれるような曖昧な存在でいられる。
でもその季節はもう通り過ぎてしまったのだ。
ビニール傘に落ちる無数の
水滴越しにぼんやりと
私は空に目をやった。

今週から梅雨入りしたお天気は私の心をあらわしたかのようにどんより灰色空だ。
そして社会人になり社会人とゆうもの会社員とゆうものが
これほど突然、降り出す雨のように
自分の力ではどうにも出来ないような
実際、戦ってはないが勝手に敗北感を私は抱いていた。

だけど、どんな時でも腹は減る。
私は駅ビルに入り、学生時代から通っているカフェを目指した。
だがいまいましい湿ったストッキングを脱ぎ捨てる為、トイレに私はまずたち寄った。

カフェは駅ビルの8階にあり。
私のお気に入りの席は窓ガラスが一面に広がっている窓際の席だ。
お昼前なので空いていて良かった。
私はお気に入りの席にどっと
座り込んだ。
この場所から窓の外の景色を見るのが今でもとても好きだ。
私は温かい、カフェオレとホットサンド
とチーズケーキを頼んだ。
温かいカフェオレが冷えた体にじんわりと染み渡る。
はぁ〜。私は深いため息を1つ吐いた。
そして椅子の下で湿ったヒールの靴をすぐ脱ぎ捨て
裸足になって足の指を広げてみた。
なんて解放感!
私は家の中では裸足でぺたぺた歩くのが大好きだ。
寒くても靴下を履くのが小さい頃から
なぜか苦手で冬場の本当に足が冷えた時しか靴下を履かない習慣がある。
早く家に帰ってお風呂にゆっくり浸かって裸足で歩きまわりたかった。

私は両手で温かいカップを挟みながら持ち、窓の下を眺めていた。
こう高い場所から世界を見ていると
神様から見た景色ってこんな感じに見えるのかなぁ…。とこの景色を眺めるといつも思ってしまう。

今日は灰色の世界に赤、黄色、ピンク、まるで花のように傘の花が開いていき
いろんな色達がまばらに地上に散らばっていっている。
私達って、上から見たらこんなにカラフルに見えているんだろか?
1人、1人が色を持って生きている。
そんなカラフルな世界。
こんな感じなら良いなぁ。
こんな風にみえていたら。
そんなに悪くはない世界かもしれない。

私はしばらく行き交う傘の花を眺めながらデザートのチーズケーキを食べ終えた。

さぁ。休憩時間は終わりだ!
私は新しいストッキングを買って
トイレで履き替え、持っていたビニール傘を広げてまた雨の中、外に出ようとしたが
その時、私の目の前に一組の親子が通り過ぎた。
まだ学校には行ってないぐらいの女の子がピンク色の傘を差してピンク色の長靴を履いて、笑いはしゃいでいた。雨の日のお出かけを楽しんでいるようだ。
そっかぁ、きっと雨の降る日を心待ちにしていたんだろうな。

私はもう一度駅ビルに入りなおし
雑貨屋に向かった。
よし!私の頭上にパッキリとした
赤い色が視界に入った。
私は幼い頃、赤い傘が大のお気に入りだった。
その傘を早く使いたくて、使いたくて。
青空の下、傘を差して
雨降らないかなぁ。
と空を見上げ雨の日を待ちわびていたそんな無邪気な頃が私にもあったのだ。

私は赤い傘と
ともに雨の中を歩き出した。
そして雨音に耳を澄ましてみる。 
雨粒が傘の上でポン、ポン、ポンと
飛び跳ねている。
今は雨音がまるでポップな音楽を奏で
てくれているように聴こえてくる。

まだ、雨は止みそうにもない。
今日はすぐには家に帰れず
また会社に戻らないといけないが
私の視界はいつのまにかカラフルに
彩られていた。
















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