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アスリートにBIG3は必須なのか?


はじめに

前回のnoteの記事で「トレーニング指導にとりあえずはない!」と題して、トレーニングの際の凝り固まった定型の考え方を捨てよう!と言う提案をさせていただきました。

まだの方はぜひそのnoteも併せてお読みください。

今回はそのテーマの延長線上として、トレーニングプログラムの選択において「とりあえずBIG3をやらなきゃ」という凝り固まった考え方は本当に効果的なのかについて書きます。

このnoteでは、BIG3の特徴や利点を紹介しつつ、ファンクショナルトレーニングの観点から、個々のアスリートやスポーツ愛好家に合わせたトレーニングの重要性をお伝えします。

BIG3の概要と利点

BIG3とは、ベンチプレス、スクワット、デッドリフトの3つのウエイトリフティング種目を指します。
これらは特に力の発展、筋肉量の増加、そして体の大部分を鍛えることができるため、多くのトレーニングプログラムに採用されています。

以下にそれぞれの種目の特徴を簡単にまとめます。

1.ベンチプレス

上半身の押す力、特に大胸筋、上腕三頭筋、三角筋前部を強化する種目です。

2.スクワット

下半身の強化の基本と言われる種目で、「しゃがむ→立ち上がる」動作に負荷をかけることによって、特に大腿四頭筋、ハムストリングス、臀筋に効果的です。

3デッドリフト

全身を使う運動で、背中、腰、脚、握力などの筋肉を一度に鍛えることができます。

BIG3の共通点

・主にバーベルを利用することは多い
・多関節運動で複合的に多くの筋群を使う種目である
・そのため高重量を扱うことができ、基本的な筋力、関節の安定性、可動性、代謝能力を向上させることができる。
・動作面は矢状面と言う前後の面のみを使う
 (ベンチプレスの肩関節動作は水平内転/外転と言う「横断面(水平面)」の動作ではあるが力の発揮する方向は矢状面である)

ファンクショナルトレーニングの視点

私が指導で用いるファンクショナルトレーニングでは、アスリートやスポーツ愛好家一人ひとりの具体的なニーズに合わせたきめ細かな指導を提供します。

ファンクショナルトレーニングでは、日常生活や特定のスポーツのパフォーマンス向上を含め、人の機能の向上をさまざまな要素から捉え、それに直接的に役立つ運動を重視します。
このアプローチでは、個々人の体の使い方、必要とする動作、そして目標に応じてトレーニングプログラムをカスタマイズすることが重要です。

BIG3のような基本的なトレーニングメソッドもその一部として取り入れることはありますが、それだけに依存するのではなく、個人の目標達成に最も効果的なトレーニング種目やプログラムを慎重に選択し、推奨します。

特に以下の個々のニーズへの対応の考え方は非常に重要です。

個々のニーズへの対応

ファンクショナルトレーニングは、アスリートやスポーツ愛好家が直面する独自の問題点と解決方法、そしてゴールに焦点を当てると言うアプローチを行います。

このアプローチの目的は、個人の体力レベル、過去の怪我、特定のスポーツで求められる技術要素に合わせて、トレーニングプランを最適化することにあります。

体力レベル

初心者から上級者まで、体力レベルは大きく異なります。
さらに一言で体力レベルと言っても、その要素は代謝能力、筋力、可動性、安定性、神経系の能力など多岐にわたります。
ファンクショナルトレーニングでは、個人の現在の体力レベルを評価分析し、基本的なトレーニングから始めて、徐々に強度や難易度を上げていくことで、安全かつ効果的に体力を向上させ、目的達成に導きます。

傷害歴(既往症)

過去の怪我や現在の痛みがある場合、特定の運動が制限されることがあります。
このため、トレーナーは怪我のリスクを最小限に抑えながら、回復を支援するような運動を選択します。

スポーツごとに求められる能力の差異

スポーツを含めた身体活動ではそれぞれの種目に応じて求められる能力も必要な動作も異なります。
ファンクショナルトレーニングでは、その身体活動特有の動作パターンを分析した上で何が必要なのかを見定め、トレーニングプログラムを綿密に立てて、ゴールに直結するトレーニングを指導します。

「とりあえずBIG3」への問題提起

経験や情報の少ないトレーナーや指導者が「とりあえずBIG3」と推奨することに対する問題は、そのアプローチが一部のアスリートにとっては有効かもしれないが、全員にとって最適とは限らない点にあります。

特に、特定のスポーツの技術的要求や個人の体力レベル、トレーニング目標に合致しない場合があります。

BIG3の何が問題か?

1.動作面が矢状面に限定されている

日常生活も含めて、動作面が矢状面で完結することは極めて稀です。
もちろん強い筋力が求められるスポーツの場合、そのスポーツの動作には水平面や横断面(水平面)が多く含まれる場合でもまず矢状面において一定以上の筋力がない段階でその他の面の強化をすると、効果が出ない、怪我につながるなどの問題が発生する場合があるので、初期段階でBIG3で筋力強化をすることもあります。

しかし矢状面の筋出力が突出してしまうことで、動きの中での筋バランスが崩れ、水平面や横断面(水平面)の動作中に怪我をするリスクが上がる場合があります。

それを防ぐためにも段階を追った計画に基づいてBIG3を取り入れ、BIG3以外のエクササイズに移行するプログラム計画が必要です。

2.必要以上の筋肥大・体重増加につながる

BIG3では使用重量を漸進的に上げていくと、全身の大筋群の筋力が向上すると共に筋肥大もしやすくなります。
もちろんこれは特定のスポーツでは有効ですが、ウエイト制のスポーツ、例えばボクシングやキックボクシング、MMAなどの格闘技の場合、矢状面の動作よりも複雑な動作が求められ、さらに過酷な体重制限が求められるため、体重増加を避けるためにBIG3を取り入れたとしても使用重量を抑え、それが筋力強化に繋がらないと言う矛盾が生じます。

それを防ぐためにも「筋力を高めて、パワーやスピードの向上につなげる」だけでなく、伸長反射を最大限に活かしたトレーニングプログラムを組むことによって、過度の筋肥大を抑えながら競技能力に直結したパワーやスピードを養成すると良いでしょう。

3.疲労と回復

今書いたようにBIG3の特性を活かすのなら高強度で行うべきです。
ただそうすると全身の疲労度が高くなりすぎ、回復が間に合わず、本来の実践的な能力を身につける練習やトレーニングに支障をきたすことにもなりかねません。

それを防ぐためには「ピリオダイゼーション」のコンセプトに基づいた長期的なトレーニング計画を立て、BIG3に集中的に取り組む時期とそうでない時期を明確化し、それによってオーバートレーニングを避けるようにすると良いでしょう。

今回の結論

アスリートも含めて筋力強化が必要な人たちにとってBIG3が有効な種目であると言うことは疑問の余地はありません。
ただ「有効」ではあるが「絶対」でも「基本」でもありません。

BIG3に関わらず、ある運動種目を取り入れる場合、それがどんな「ベネフィット」と「リスク」を持っているのかを細かく精査し、適材適所で採用したいものです。
例えば「デッドリフト」を取り入れる際に「このクライアントにはバーベルではなくヘックスバーの方が有効」だと判断したら、すぐに前提となる器具も変更するべきです。

やはり何よりも大切なのは「とりあえず」と言う思考停止をやめて、理論的・段階的に物事を思考し、その思考に基づいて答えを出すことでしょう。

今後このnoteではそういった「トレーニングプログラム」を段階的に進める「ロードマップ」の手法について具体的な方法を詳しくお伝えしますので、気になる方はぜひフォローしていただければとても嬉しいです。

今日も最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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