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とあるバンドマンの官能夜話 ~第六夜~

プロミュージシャンの定義

2016年はビートルズ来日50周年と言うことで沢山のトリビュートバンドの企画などが開催されていますね。私もいくつかのトリビュートバンドのライブを聴く機会がありました。音楽活動をやっていると、お付き合い的に知り合いのライブを観に行かなければ、自分のライブに来てくれないのではないかと言う強迫観念に襲われるのですね。ちょっと近い感覚はスナックのママさんが近くのライバル店が新装開店する時に花を贈って、お客さん連れて同伴でお店を訪れるようなものでしょうか。

さて、そんなトリビュートバンドに限らず、色々な立場、音楽への関わり方のミュージシャンがいて、プロとアマチュアの線引きがとても難しくなっています。メジャーからアルバムを出しているとか、スタジオミュージシャンやメジャー歌手のバックバンドとして仕事をしていると言うのは明らかにプロですが、地道に営業(演奏)活動をして音楽で飯を食っている人も何人も知っています。また、音楽教室の先生であったり、昔同じバンドでsaxを吹いていたのが、今では芸大で学生に楽器を教えていると言う人も居て、こう言う人達はゴルフで言うところのレッスンプロと言うことになります。

一方でアルバイトやサラリーマンなどをしながらミュージシャンを続けている人達が居ます。私も含めて「本業」と自覚する職業を別に持っていて音楽をやっている人達は自覚的にアマチュアミュージシャンと言う立場にあると言えます。ところが今やっている音楽以外の仕事が「本業」だと自認しない人達も居るのです。そう言う人達は「自称」プロミュージシャンと言うことになりますが、50歳代以上で前述のトリビュートバンドなどをやっている方に多い傾向です。

私は学生時代に芸能プロダクションに登録して、お金を貰って演奏をしていましたが、その当時は本業はあくまでも大学生でしたので自称セミプロでした。周りに居たミュージシャン達は別にアルバイトをしながらバンドマンをやっている人達が多くて、その人達の定義は当時の私の中では「プロ」でした。自分の周りに居たのはジャズやフュージョン系のミュージシャンがほとんどで、そう言う人達は譜面を渡されてお金を貰って演奏する、所謂「仕事」と、芸術活動とは全く切り分けて活動していました。彼らの志の先には芸術としての音楽=演奏を高めることにあって、そのを貫くために音楽に関わる仕事をしていると言う風に見ていたのです。

その頃は「仕事」で出逢ったミュージシャン同士の繋がりで、自分もいくつかのフュージョン系のバンドをやっていましたが、ある程度演奏を極めていくと自分の限界と言うのが見えてきて、そのまま「プロ」として残ることをあきらめました。その限界と言うのは鍛錬とかではなかなか解決出来ない部分、タイム感とかリズム感とか創造性とかと言う部分で、克服する努力をいくら積んでもどうにもならない部分がずっと先にあるのが見えて来たのです。

そんな自分の技量のことだけではなく、当時学生ミュージシャンに回ってくる仕事はかなり場末の仕事が多く、それこそ自分の母親位の年齢のオネェさんがダンサーをしているヌードショーのバックとか、ドサ回りの演歌歌手のバックとか言う仕事も多くて、当時既に大阪の大きなキャバレーのほとんどはつぶれていましたが、そんな昔の有名店のビッグバンドから流れて来た未払い給料の係争中のやくざなバンドマン達とも仕事をする機会があって、そんな姿と自分の将来を重ね合わせたと言うこともあります。

そして自分が一人っ子と言うこともあって、親からハッキリと「バンドマンなどと言うやくざな仕事ではなく、きちんとしたところに勤めてくれ」と言われてしまいましたので、それが決定打となって大学卒業と共に音楽からしばらく離れることになります。

そんな自分がセミプロ時代に周りにいた「プロ」ミュージシャン達と、今、割と自分の周りに居るトリビュートバンドの「自称」プロって何が違うんだろうって思うのですが、それは音楽ジャンルの違いにも一因があると思っています。ジャズと言うのはアドリブを極める音楽で、ジャズとはなんぞやと言う問いには「ジャズ=即興演奏」と言うのが1つの正しい解だと思っていますので、その高みを目指すと言う芸術活動と、トリビュートバンドとして演奏している行為の差が歴然とあるものと考えます。

こんなことを書くとトリビュートバンドをやっている人にはとても失礼だと思いますし、自分のバンドは何かのトリビュートバンドではありませんが、オリジナル曲をやっている訳ではありませんので、自分自身にも当てはまる部分もありますが、トリビュートバンド=コピーはいくら極めても原本は超えられないと言うことに突き当たります。

立場を変えて、トリビュートバンドを聞きに来るお客さんと言うのは、オリジナルをかなり聞き込んでオリジナルの音楽以外の周辺のことにも詳しいマニアが1割、その連れが1割、オリジナルが結構好き2割、割と好きとビートルズ好きっていうのがオヤジファッションとしてカッコ良いと思っている軽いのが2割、それぞれの連れが各2割程度だと思います。この中でマニアと結構好きの3割の人がトリビュートバンドの牽引力となっていると思いますが、これらの人達はオリジナルと寸分違わない演奏を最上として、その差を減点法で聴いている人達だと思います。

こう書くと、聞きに来ている人達の3割は楽しんでいないのでは?と感じた方もいらっしゃると思いますが、それは人それぞれの楽しみ方と言う部分だと思います。そんな減点法に耐え続けられる図太い神経の持ち主しか、トリビュートバンドでプロとしてやっていけないと言うのも真実だと感じています。

第六夜 完




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