群島語(ことばの学校第二期)

言葉の共同性をテーマとし、言語表現の新しい在り方を試みる文芸誌『群島語』。佐々木敦が主…

群島語(ことばの学校第二期)

言葉の共同性をテーマとし、言語表現の新しい在り方を試みる文芸誌『群島語』。佐々木敦が主任講師を務める「映画美学校言語表現コース ことばの学校」第二期生を中心に2023年11月に創刊。/ Online Store:https://guntougo.booth.pm/

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  • 修了展示 『Archipelago 〜群島語 〜』

    ことばの学校2期修了展示『Archipelago 〜群島語 〜』 佐々木敦が主任講師を務める、ことばと出会い直すための講座:言語表現コース「ことばの学校」の第二期の修了展が開催された。展示されるものは、ことば。第二期修了生の有志が主催し、講座内で執筆された修了作品だけでなく、「Archipelago ~群島語~」というコンセプトで三種類の企画をもうけ、本展のための新作も展示された。2023 年8 月10 日と11 日に東京都三鷹のSCOOL で開催。

最近の記事

小説|乳の雨ふる(小映)

 闇を厭い、光を求める。生存本能がそう欲する。闇を恐怖する。真の孤独は光から生じるのに。視野へ見とめたわずかな昏がりを闇と錯覚し、ただひたすらにそれを恐れる。その闇は影にすぎず、影のつくる輪郭だけがあなたなのに。だからこそあなたは恐れている。その通り。現にいま、闇を欲望さえするあなた自身を。そうでしょう? そう。ほんとうのところ、あなたは光を恐れている。「光あれ」神は云われた。  すると光があった。  インドシナ半島の中央やや南、カンボジア最大の湖トンレサップの北岸十数km

    • エッセイ|甘やかせ、年の瀬(林 恭平)

       二〇二三年が終わろうとしている。パーティーピープルなほうではないのだけど、ささやかな忘年会を毎年行う集まりがある。引っ越しが最近ひと段落ついたという友人Mのリノベマンションで、飲み食いすることになった。そうして私は脊髄反射で思う。  ――ホテルのクリスマスケーキを買うしかない。  都内にひしめくあまたの高級ホテル。しがない会社員なんかお呼びでないだろう。宿泊の発想すらしない領域である。けれど各ホテルご自慢のクリスマスケーキに関しては、複数人でお金を出し合えば決して手の届かな

      • エッセイ|酒の人はあなた、糖の人は私(林 恭平)

         はいはい私がやればいいんでしょ、と、もはや自暴自棄な感じで、仕事に忙しく立ち回っていた師走の初旬。この日だけはゆずれまへん、と有給をとった。友人Fと一緒に、劇団四季の『ウィキッド』を観に行くためだ。  日本では約十年ぶりの上演らしい。私は社会人になり上京してからミュージカル趣味に目覚めたわけだけど、ずっと『ウィキッド』を拝む機会に恵まれなかった。ツイッター上の信頼できるインフルエンサーがたびたび不朽の名作だと言及していたこともあり、想いが募っていた。今回の東京公演の情報を虎

        • 詩|いつもみたいに(今津)

          風が血の息吹を立て 地が忘れられた故郷の歌を思い出して 海が遭難した骨の哀愁を感じて 時間が陽光の暖かさをひさしぶりに思い出させてくれた 朝、目を覚まし 砂浜の匂いは黴の匂いに類似し 痛くないのに痛みの記憶だけはある その足で 駆けるだけのことはとりあえずして 欠伸をしたら 涙が溢れて 欠伸は止まらず 涙は 砂と合流して とりあえず履きならしたスリッパを探そうとした 夜 になっても 涙はやまず 欠伸はやまず 退屈まぎれに指を数えて 時間を待った 佐藤さん の 声は 

        小説|乳の雨ふる(小映)

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        • 修了展示 『Archipelago 〜群島語 〜』
          25本

        記事

          エッセイ|杏仁豆腐、その後(林恭平)

           お友達と臨んだ初めての文フリ出展。人海戦術によるてんやわんやの校正作業まで終え、ギリギリ崖の上を行くように印刷会社へと原稿データを代表者が提出してくれる頃合いだった。巻末に各自のプロフィール文をねじ込めないかとダメ押しの原稿依頼がグループラインに展開されたのを、私は寝不足の通勤電車で確認した。  ゼロから合同誌を作る大変さを経験し、達成感、虚脱感で考えは回らない。でも急速に膨らむ表現欲求と、他者からの目線に対する過剰な自意識との折り合いをどうつけるか、脳の離れた部位が交互に

          エッセイ|杏仁豆腐、その後(林恭平)

          『群島語 0号』 巻頭言 | 離陸するための準備

          以下オンラインストアで販売中の「群島語 0号」から「巻頭言 | 離陸するための準備」を無料公開します。 小説は一人で書ける。一人でしか描けないこともある。しかし言葉は一人のものではない。 誰かの言葉が、別の誰かの言葉を触発する。それは私たちの日々に溢れる普通のことです。 そんな言葉の力を小説を共同で作ることで加速させてみたら? そんな実験的な試みが「言葉の共同制作」。 まずは巻頭言をぜひお読みください! 巻頭言 | 離陸するための準備(今津祥)  小説は〈ひとり〉から

          『群島語 0号』 巻頭言 | 離陸するための準備

          我々の教科書

          企画: 05. 我々の教科書 言葉を使って表現をするわたしたちは、言葉を通して自らの生存を形作ってきました。そんなわたしたちの教科書と言える作品を紹介いたします。 今津 祥 『プレーンソング』保坂和志 『ガラスの街』ポール・オースター 『夢判断』フロイト  深夜の間違い電話をきっかけに私立探偵になる『ガラスの街』の主人公は、次第に依頼の目的から脱線し、NY という都市の迷宮の中で自己を解体させてゆく。フロイトは精神分析治療の実践の中で発見した、無意識が蠢く夢を、『

          泣けるキウイ (小瀧忍)

          パース、オーストラリア  ホストマザーのミセス・ヘザーが昨日の晩に教えてくれた通りに、僕は冷蔵庫に入っていたペースト状のクッキーの「もと」を取り出し粘土のように形を作っていく。こんな時に例えばミッキーやドラえもんみたいな形にするっていうのも「あり」かもしれないけど、そしてこの家の末っ子、ルーカスが大好きな「忍者タートルズ」なんてものがクッキーで表現できたとしたなら、それは今のこの僕にとってちょっとした「きっかけ」みたいなことが起こるかもしれないけど、それら全部を今は脇に置き

          泣けるキウイ (小瀧忍)

          輝けるプリズンホテルと再監獄化する世界 (小映)

          巣鴨プリズン, 1947年  強要された自白をもとに取調官の右手から調書が析出されるのではなく、おのが肉筆による自白書を要求されるこの場所はいかにもありふれた監獄の一室という態で、そのあまりにも殺風景で典型的な部屋のつくり、と文書作成を強要してくる男たちの権威主義的欲望を露わにした典型的に凡庸な顔つき、が互いに馴染みすぎており、心の底でこれは笑うべき箇所なのだと確信され、同時に笑ってはいけない要所なのだと自制され、まずは真顔で料紙と向き合い今にも筆を執ろう、という仕草を一瞬

          輝けるプリズンホテルと再監獄化する世界 (小映)

          高橋利明自転時点自伝 (高橋利明)

           5歳まで広島に住んでいた。  だけど、広島時代の記憶はほとんどない。父の仕事の都合で、10 歳まで静岡にうつった。静岡に行ってから幼稚園に通いだした。私は12月生まれだし、背も低かった。年中さんまでは、おうちで両親とべたべただったので、同級生の中ではちょっぴり「おくれた」子供だったのではないかと思う。 1  小学生になってからは、コロコロコミックを読むようになった。テレビゲームに夢中になったり(ポケモンとミニ四駆が大ヒットしていた)、釣りをしたり。  ぼくも男子の群れに

          高橋利明自転時点自伝 (高橋利明)

          桃食まぬ子ら (近藤真理子)

          桃太郎  このあいだは、あのなんというか、大変な無礼をいたしまして、その……どう言えばよいか……。謝られたって、腹に据えかねると思います。あれから、なぜこんなことになってしまったのか、どこで間違えてしまったのか考えていたのですが、分からないんです。いえ、どこでだって正せたはずなのに、できなかったんです。わたしは、自分をまさに鬼だと思いました。これからどうすればいいのかまったく分からなくて、ここでぼんやりしていたんですが、あなたにしてみればこんな所でわたしに会うなんて、肝を冷

          桃食まぬ子ら (近藤真理子)

          二〇二〇年九月八日@函館 (林恭平)

           この世で一番おいしいソフトクリームがどこにあるか、ご存知だろうか? 私は知ってしまった。  函館の中心地から、海沿いの「いさりび鉄道」に乗ること四十分。北海道みやげの定番・トラピストクッキーでおなじみの、トラピスト修道院がある。  そこに通じる並木道がえらく写真映えするらしいと聞き、訪れていた。雄大な草原をあらかた映 ば え終えると、小さな売店のソフトクリームを食べることにした。炎天下に無人駅からたどり着き、五百メートルほどの一本道を十分かけて歩いて、汗だくだった。  純白

          二〇二〇年九月八日@函館 (林恭平)

          見知らぬ土地からの手紙 (樋口貴太)

          拝啓  忙しなく鳴いていた蝉の音も絶え、朝夕の涼しさに秋の訪れを感じます。新潟ももうだいぶ涼しいでしょうか。  今月分の養育費が先日届きました。毎月、必ず月初に届けていただいてますが、大変ではありませんか。少しくらい遅れても私たちは平気です。どうぞご無理ないようにしてください。  先日、息子を連れてあの場所に行きました。涼しくなってくるこの時期、あそこの水音を思い出してつい足が向いてしまいます。あなたとは四季問わず、本当によく行きました。あなたは新潟を思い出すのだと言い、私に

          見知らぬ土地からの手紙 (樋口貴太)

          明るい町 (磦田空)

          またこの町に来ることができたので、あなたに手紙を書いています。 気がついたのですが、この町にはいつも白く小さい花がたくさん咲いています。道路の植え込み、誰かの家の軒先、普通なら雑草が群生しているような公園の隅、ポストの根元、立ち並ぶ家家のカーテンと窓ガラスのあいだ、思えば白い花が視界に入らないことがないような気がして、それにどうして今まで気がつかなかったのか不思議に思うくらいです。街はいつもとても静かなのに明るい気がするのはその白い花が咲いているせいかもしれません。 さきほど

          無題 (草村多摩)

          お誕生日おめでとう、元気にしていますか? バイトの都合はまだつかないの? 五十にもなるのに また住込み? なんで今度は熱海なの?  スマホは持たなくていいと気がついたなんて バカなこと言ってないで。ママはもう長生きしないよ。 ご飯、たべてる? アジがおいしいんだってね。 お金も少しずつでも返しに来なさいよ。 ほたる公園のお祭までに一度帰ってきたら。母より p.s. こう言ってるけど、ママは手紙たのしんでる。 会うたびにハガキ買ってきたかって聞かれるし、 あんたからのは全部飾

          港に囲まれた村 (西山唯)

          港に囲まれたこの村では 船の軋む音が休みなくこだまする。 僕は8階建ての小屋に住み クージを育てている。 ここでは白い月しか昇らないから 植物がよく育つ。 最近はクージを乾燥させて 織物も織るようになった。 いつからか僕は ここから動けなくなってしまったのだ 夜になると村人は釣りとダンスをはじめる。 竿先についたネオンが 一斉に弧を描き人々を楽しませる。 僕は窓からそれを見て、 君の元へ戻るか このまま逃げ続けるか 決められないでいる。 午前2時 イェジ島の外れより

          港に囲まれた村 (西山唯)