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自己肯定感は高めるな。【"自己肯定感が低い"と感じてるあなたへ】定義と正体編①

■はじめに

これをご覧のあなたは自己肯定感が低いですか?

まず下の文章を読んでみてください。

"『自己肯定感』は心理学的な装飾品として年に数十億ドルを産む一大産業になっています。"

また以下の文章もお読みください。(一部抜粋)

"自己肯定感を高めるプログラムのほとんどは機能しません。

調査によると、ほとんどの人の自己肯定感はプログラムやセミナーを完了した後でも変化がまったくありません。"
"プログラムを通過した後、受講者は以前の自己肯定感がもっと低かったと記憶を歪める傾向があることがわかりました。
実際には変化しなかったにも関わらず、プログラムやセミナーのおかげで自己肯定感は改善したと考えています。"

これはアメリカの心理学者Guy Winchがフォーラムに投稿したコラムを邦訳し一部抜粋したものです。[1]

心理学に"自己肯定感"という概念は確かにあるのですがまだ研究中で、
巷にあふれる「自己肯定感を高めよう」的なプログラムは根拠のないただのビジネスだと彼は言っています。

■いやいや

──いやそんなこと言われても"自己肯定感が低い"し…

そうですよね。別にそんなこと言われても心のモヤモヤが消えるわけではない。
この記事では順序立てて"自己肯定感が低い"の改善法を説明していきます。

〇自己肯定感の定義を知る
〇"自己肯定感が低い"の正体を知る
〇"自己肯定感が低い"の改善法を知る

まずは自己肯定感の定義から確認しましょう。

■そもそも自己肯定感って?[定義編1]

実は自己肯定感は日本人が1994年に提唱した比較的新しい概念です。

提唱者の高垣忠一郎は自己肯定感をこう定義しています。

"自分自身のあり方を肯定する気持ちであり、自分のことを好きである気持ち"

高垣は子どもの心理を専門に研究しており、
"子どもが没個性化している状態"を説明する際に自己肯定感を用いました。[2]
高垣の提唱した自己肯定感はどちらかというと学習性無力感に対するものとして使われていると感じました。

学習性無力感は、"自分の行動が環境に影響を及ぼさないことを学習してしまうと「どうせなにをやってもムダ」と考えて行動をしなくなる"という心の動きを表す言葉です。
これが子どもに起きた場合、感情の鈍化・行動量の低下が見られ、その原因はネグレクトや騒音、育成環境等に要因があるとしています。[3]

同じように子どもの心理を研究していた波多野誼余夫はその著書[3]の中で、
学習性無力感に対するものとして自己効力感を挙げています。
自己効力感とは、"自分の行動で自己や環境を変えられるという信念"のことを指します。

一方現在、ビジネス書等で使われている"自己肯定感"は、
自尊心の意味で使われていることが多いと思います。

自尊心
他人からの評価ではなく、自分が自分をどう思うか、感じるか。

自己肯定感・自己効力感・自尊心…
どれも似ているようで少し違ってとてもややこしいですよね。

その通り以下のような批判がされています。

■自己肯定感への批判[定義編2]

類似概念との弁別化がはかられていない

自尊心・自己効力感・自己有能感など色々な概念がありますが、
それらと自己肯定感が明確に定義されて区別されているわけではありません。[2]

自尊心のことを指して自己肯定感と言われることもあれば、
他の人間が自己肯定感自己効力感の意味で使っていることもあります。

自己肯定感は学術的にもまだまだしっかりと定義されていないのです。

それにも関わらず、自尊心・自己効力感・自己有能感など色んな意味を包括した単語として使われすぎています。

巷には自己肯定感に関する情報がたくさんあります。
自己肯定感を高めるには。自己肯定感が低い人の特徴…
なんて題名のページや書籍、雑誌がたくさん。

定義があやふやなものをどうやって「高められる」のでしょう?
なぜ「低い」と思うのでしょうか?
どういう意味で「自己肯定感が低い」と感じていますか?

次の章からは包括的過ぎている"自己肯定感が低い"の正体をひも解いていきます。

まとめ
・自己肯定感は学術的にも定義があやふや
・定義があやふやなものを低いと感じたり、高められたりするものなのか?
・自己肯定感はビジネスと化している

■"自己肯定感が低い"の正体[正体編1]

■1.「ポジティブ思考が出来ない」

いつも自分についてネガティブな思考をしてしまうという意味で
"自己肯定感が低い"を使っていますか?

確かに一時期「ポジティブシンキングこそ大事」「楽観主義者が成功する!」みたいな説が流行しました。
プラス思考をしよう!というビジネス書が本屋にたくさん並んでいた記憶があります。

結論を言うと「ポジティブ思考」はオススメしません。

-ネガティブ思考の原因

実はネガティブな思考をしやすいのは脳にその原因があります。

人の脳に扁桃体という部分があります。
この部分はヒトの「本能」を司っていると言われていて不安や恐怖という感情もこの部分で感じます。

先天的にこの扁桃体が普通より過敏に反応しやすい人間がいるそうです。

また人の脳には前頭葉という部分もあります。
この部分は「理性」を司っていると言われていて不安や恐怖という感情をこの部分で抑制すると言われています。

虐待・いじめ等の挫折やうつ病等を経験すると、
この部分のはたらきが弱くなってしまうそうです。
(不安や恐怖という感情を抑える力が弱くなっているということ)[4]

-ネガティブ思考は性質

つまりネガティブな思考をするのはあなたの脳構造が原因かもしれません。
つまり、あなたの"性質"です。
それに逆らうのは、それこそつらいことです。

実際に『ポジティブ思考をすると逆に精神が不安定になる』という研究があります。

ポジティブ思考をした人間は最初の方はモチベーションが上がっていますが、次第にどんどんモチベーションや行動量が減っていきます

ポジティブ思考は未来の理想的な自分を思い描きますが、
それは同時に今のダメな自分に絶えず批判的な目を浴びせることになるから

ではないかと考察されていました。[5]

──じゃあネガティブな思考しやすい脳を持ってるのはしょうがないから諦めろっていうの?
──生まれつき劣っているということ?

-ネガティブな思考をしやすいは悪いことではない。

ネガティブな思考しやすい=悲観的な人間は『世界をより正しく・賢く把握しているのではないか』という説があります。
これを抑うつリアリズム説と言います。[4][6]

今までネガティブ・うつ傾向にある人は物事に悲観的であると考えられていましたが、

実は彼らこそ世界を正しく捉えていて、
逆に普通の人が世界を楽観的に歪めて認識しているのではないか?

という考え方です。

この正しく認識出来るという性質は意外と重要でして、
前述の「楽観主義者(オプティミスト)は成功する」が指す楽観主義者は、
正しくは「楽観的現実主義者」のことを指すらしく、
そのような人たちは悲観主義者と同じように物事をより現実的に把握します。
もちろんネガティブな部分も。

ここからが異なっていて悲観主義者がそれに打ちひしがれてしまうのに比べて、楽観的現実主義者はネガティブな部分の解決策を探すそうです。

逆に楽観主義者はネガティブな部分から目を背けて解決策を講じないため大きな失敗をするリスクがあるとのこと。

この楽観的現実主義者には現実を正しく認識出来ている悲観主義者の方がなりやすいと言われています。[4][7]

なぜなら楽観主義者はそれになろうと思わないからです。

あなたは"自己肯定感が低い"という現実を正しく認識したため、解決法を求めているとも言えます。

それはあなたの大事な"性質"であり、短所ではないのです。

まとめ
・先天的or後天的に人より不安になりやすい人もいる
・悲観的なのが必ずしも直すべき欠点とは限らない。

■2.「自己否定が多い」から

いつも自己否定をしてしまうという意味で"自己肯定感が低い"を使っていますか?

例えばいつも自分を卑下する言葉が頭の中ですることがありますか?
または物事が完璧に出来なかった時に自分を責めたりしますか?

自己否定は他者から肯定されなかったことが根本の原因である、とされています。
他人から肯定されなかったのが、自分を肯定出来ない原因というわけです。

-家族が原因の場合

○○出来ないと認めてもらえなかった、のような条件付きの愛情しか与えられなかった場合、自己否定の度合いが大きいとされています。[9]

例えば親が思う「理想の子供」ではない行動は激しく禁じられ、
理想に沿った行動をした場合のみ褒められた等もこれに該当します。

・あなたのため
・周りに見せて恥ずかしくない人になって
・もっとできるはず
・頑張らない子は嫌い
・良い成果出せたら~あげる。

このような言葉に心当たりはありますか?
愛された経験はあるが、それは条件付きの愛だったというパターンもあるそうで、
必ずしも親との関係がギクシャクしている人だけの問題とは限らないそうです。

またいわゆる虐待を受けた経験がありましたか?

それをチェックする簡単なテストがありますのでやってみてください。

-生い立ちの影響判断テスト

ACES Screening
主観的な判断で良いので以下の10項目に関して経験したことがあると感じたらチェックしてください。[10]

□身体的虐待があった
□精神的虐待があった
(言葉によるものも含む)
□性的虐待があった
□身体的ネグレクトがあった
(十分な食事を与えない、必要な衣服を買い与えないetc)
[これらが家庭の経済的な問題でなされなくても当てはまります]
□精神的ネグレクトがあった
(子の「~したいを無視する」、親の思い通りに子を動かす)
□なんらかの依存症を患った家族がいた
□家庭内暴力(DV)を見た
□家族が犯罪者になった
□家族に精神疾患がいた
□家族が離婚または家庭内別居をした、何らかのネガティブな理由で離れ離れになった。

例)父親が『アルコール依存症』でよく『母親に手を出す』のを見たし『自分も手を出された』り、『なじられたりした。
最終的に『両親は離婚』し、数年後『母は精神障害を患った。

このような場合6点です。

4点以上だと人生の不利に生い立ちが影響しているかもと判断されます。

自尊心の低さと生育環境の悪さは相関があり、

-いじめが原因の場合

子ども・大人時代問わずいじめの被害者になった経験はありますか?

自分が正しいはずなのに理不尽を受け入れられざるを得ない環境に身を置いていましたか?
自分の今までの「常識」が通じない状態を長く経験していましたか?

いじめを受けた人間は長期的な抑うつ、不安障害、社会的孤立、自尊心の低下に陥るリスクが高まるという研究もあり[11]、
いじめを受けていた経験は自己否定に繋がると明確に示されています。

-挫折や失敗経験や心的外傷になるような経験をした

例えば恋人に浮気されたとか仕事で大失敗をした、
大災害を経験したり犯罪に巻き込まれた。
そして前述のいじめ虐待等で心的外傷(トラウマ)を受けた場合、
PTSD(心的外傷後ストレス障害)になっている可能性があります。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)
精神的衝撃を受けるトラウマ(心的外傷)体験に晒されたまたは目撃することで生じる、特徴的なストレス症状群のこと。
トラウマの記憶が頭の中に割り込んでくるように繰り返しよみがえることを特徴とする。

一般的なイメージとは異なり常時不安に苛まれているわけではなく、ふとした瞬間に鮮明に嫌な記憶を思い出すような感じ。
自分がそうだと気づいていないパターンもあるのが難しいポイントです。

症状として

・感情が麻痺する
・自分が他者から切り離されたような感じがする
・抑うつ
・以前は楽しんでいたことに対する関心の薄れ
・罪悪感
・不安障害
・人を愛せなくなる

などが挙げられます。


症状が1カ月以上続いていて、重大な苦痛が生じているか、日常生活に大きな支障をきたしている場合[12]、医師の診察を受けることも考えてみてください。[12]

次回予告

■3.「自信がない・やる前に諦めてしまうことが多い」から
■4.過去の挫折や失敗を引きずっているから
■5.成功しないといけないという執念や社会に対する負い目を持っているから
■6.虐待やいじめの経験があることが理由かも

こうご期待

続く

参考
Guy Winch「10 Things You Didn't Know About Self-Esteem」[1]
吉森丹衣子「大学生の自己肯定感における対人関係の影響 」 『国際経営・文化研究/Cross-cultural business and cultural studies』21(1)、淑徳大学国際コミュニケーション学会、2016年12月1日、 179-188頁。[2]
波多野 誼余夫『無気力の心理学 改版-やりがいの条件』、中央公論新社、2020改版[3]
Elaine Fox,森内薫訳『脳科学は人格を変えられるか?』、文藝春秋、2017[4]
Sam Portnow, et al. “Pleasure Now, Pain Later Positive Fantasies About the Future Predict Symptoms of Depression”[5]
Alloy&Abramson,"Judgment of contingency in depressed and nondepressed students: sadder but wiser?"[6]
Southwick, et al. 森下愛訳『レジリエンス:人生の危機を乗り越えるための科学と10の処方箋 』、岩崎学術出版社、2015[7]
Britta K. Hölzel et al.,"Mindfulness practice leads to increases in regional brain gray matter density"[8]
市橋秀夫『自己愛性パーソナリティ障害 正しい理解と治療法』、大和出版、2018[9]
Meryl&Alexandra,"Screening for Adverse Childhood Experiences and Trauma"[10]
Stephens, et al."Childhood Bullying: Implications for Physicians."[11]
MSDマニュアル家庭版/ 心的外傷後ストレス障害 (PTSD)[12]

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