悲劇的バーベキュー

 それ、もう焼けてるよ? 
 しっかり焼くのが好きなの。
 焦げちゃう。牛肉はちょっと赤いくらいが一番うまいんだ。
 知らないよそんなの、あたしはちゃんと焼きたいの。
 いい肉なのに、もったいない。

雄介と焼肉をするといつもこうだ。彼は焼肉奉行で、椎茸の焼き方にもこだわるから、あたしが醤油を勝手に垂らすとひどく怒る。
「まだ!」
本当、面倒臭い。だから焼肉も、雄介のことも、好きなのに、雄介と食べる焼肉は嫌いだ。バーベキューなんてもっての外だ。ランタンの置き場所、野菜の切り方、串の打ち方、酒の飲み方にまで雄介のこだわりはある。
「まずビール、がっつり肉食ったら、野菜と海鮮焼きながら日本酒だ、そして一番最後にウィスキー。もう腹いっぱい、っていうタイミングでさらっとしたウィスキーで口を滑らかにするんだ」
それは、雄介が勝手に飲めばいい。あたしはあたしのタイミングで好きなお酒を飲むから。まず、ビールが美味しいという彼の気持ちがわからない。あんなに苦いのに。
 彼は口が上手だ。だからあたしの機嫌が悪い時も、すぐ惚気てしまう。食事以外の相性はぴったりなんだ。今日、給料日だから、って大好きなモンブランを買って来てくれるし、休みの日曜日はショッピングに付き合ってくれる、あたしの大好きなバンドに一緒にハマってくれる。だけど、食事だけはダメなんだ。あたしもこだわりがあるから合わないんだけど。それはわかってる。雄介はあたしが言いなりになると思ってるんだ。
 「いま!ひっくり返して!」
 「うん」
 「よーし、もう食えるよ、ほら食べな」
 「うん」
 「そろそろ日本酒だな。エビ焼こ」
 「うん」
 「ちょっとトイレ行ってくるからエビ見てて、赤くなったら反対側焼いて」
 「うん」

あーあ。昭和臭い。めんどくさい。イタリアンいこー。ワイン飲もー。って、普通にお願いしたら多分雄介は来週の予約をとってくれるだろう。
機嫌の悪い時のあたしって、ほんと、ひねくれてる。わかってるんだけどね、言えないよ、ムカつくもん。察して欲しい、わかって欲しい、あたしがバーベキュー嫌がってること、気づいてよ。

「あー!エビ!まだだよ!仕方ないなあ。あ、そうだこの後うちで映画見ない?いい洋画があるんだ。君の好きそうな」
「……うん」 

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