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「若返りの泉」・・・旅先で見つけた物語。


『若返りの泉』

淡い光の中に岸壁のシルエットが浮かぶ頃
俺は、プエルトリコ最大の街、サンファンの港に到着した。

かつてカリブ海は、海上利権と労働力や資源の奪い合いで、
常に争いが絶えず、その多くの島々は幾度と無く支配者が変わっていった。

その中でプエルトリコは、
400年近く、スペイン一国の統治が続いた珍しい島国である。

港を歩いていると、目をぎらつかせた老人が話しかけてきた。

「若返りの泉を探しに来たのか?」

老人は、震える指で天を差した。

そこには、サンファンに入植した最初のスペイン人、
ポンセ・デ・レオンの像があった。

「ああ。ポンセ・デ・レオンですね。
プエルトリコの統治者でありながら、生涯若返りの泉を探し続けた、
と言われている人ですよね。でも、結局泉は見つからなかったんですよね」

俺は、ガイドブックで仕入れたばかりの情報を自慢げに披露した。

老人は皺だらけの笑顔をこちらに向けてこう言った。

「だが、決してポンセ・デ・レオンは、不幸ではなかった。
探し当てた幸運より、探し続ける幸福を選んだのじゃから」

老人は像を見上げた。
俺は老人の目線を追うように像を見返した。
ポンセ・デ・レオンの像はどこか笑っているようにも思えた。

「もしかしたら、そうだったのかもしれないですね・・・」

と俺が振り返った時、そこにはもう誰もいなかった。

「追い求める夢こそが若返りの泉なのだ。」

波音に混じって、そんな声が聞こえたような気がした。

たどり着けるかどうかを心配して、旅を止めることはできない。
それが旅人というものだ。

                 おわり


プエルトリコ(プエルト・リコ)は、カリブ海の北東部に位置するアメリカ合衆国の自治的・未編入領域で、保護領とか自治領とか言われている立場にあります。
長くスペイン領でしたが、1900年、パリ条約によってアメリカ合衆国の領土となりました。アメリカ本土での成功を夢見て、この島国から多くの移民が渡っていったと言われています。
成功を夢見るのが、当然の世界がそこにあったんですね。

ところで、昨今流行りの企業ものの小説やドラマは、一見夢を追い求めているように見えるが、その多くは、些末な足の引っ張り合いである。
世界に、そして未来に転がっている大きな夢を追うような物語は、好まれないのだろうか。もしそうなら、それはこの国にとってとても不幸な事なのかもしれない。



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