「浴室」・・・ホラー。酔って帰って来た夫は。
若い頃は、よく酒の席で、武勇伝を自慢し合った。
「その店にいた初対面の男10人の飲み代を払ってやった」
という勇ましいのから
「電車の席が空いたので座ったらそのまま寝てしまい、その路線を
気が付いたら3往復していた」
という情けない話まで、酒にまつわる話は多種多彩である。
だけど中には、もうお酒はやめようかな、と考えたくなるような
話もある。こんな話だ・・・
『遅い帰宅』
ストレスが溜まっていたのだろうか。
毎晩毎晩、お酒を飲んで帰ってくる夫に、今夜はちょっと冷たく当たってしまった。
「お風呂入ってないわよ。入りたいなら自分で入れてよね」
「う~ん。わかっちゃよ~、むにゃむにゃ」
ろれつも回らない程酔っ払った夫は、
ふらつきながらひとり浴室に向かった。
『キュキュ。ザ~ッ』
お湯の線をひねり、浴槽に水を張る音がしたと思ったら、それきり静かになった。
「どうしたんだろう」
しばらくして、気になって覗いてみると、空の浴槽に頭を突っ込んで
倒れ込むように眠っている。
「ああ。仕方ないなぁ」
その時、浴室に入ろうとして、なぜか一歩踏み出した足が止まった。
理由は無い。
家庭でも外でも優しい夫・・・
そう、外でも優しかったのだ。
『ザ~ッ』
水は今も蛇口から流れ出し、浴槽に溜まり続けている。
もうすぐ眠ったままの夫の頭が、全て水に浸かる・・・
浸かる・・・
浸かる・・・。
おわり
*加筆再録
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