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「3本立て」・・・超ショートホラー。妻は続けて映画を観た?


2本目の映画を観終わった妻が、
寝転がっている私の顔を覗き込んだ。

「もう一本見ておくかな~」

悲劇のラブストーリー映画のDVDを2本見た後で
妻がプレーヤーに入れたのはやはり悲恋の物語だった。
情熱的な恋に落ちた二人が花嫁の死によって引き裂かれる。
泣かせる映画で有名な往年の巨匠がもっとも脂の乗り切った頃に撮った
大ヒット作だ。
古臭い浪花節だと馬鹿にしていたくせに、こんな時だけ当てにするのか。

2時間後、私はもう顔の筋肉を動かす力も無くなり、
薄れていく意識の向こうで、妻がようやく電話を掛けるのを見つめていた。

「あ、119番ですか? すみません。
今見たら、主人がリビングで倒れてて、
声を掛けても起きて来ないんです・・・」

激しい頭痛がして、脂汗が出てきたのが9時頃、
吐き気がして、トイレで嘔吐したのが、9時半。

めまいがすると言ってソファーに横になったのが10時。
身体が思い通りに動かず、水が口からこぼれ、
ろれつが回らないと伝えたところで、
妻は、ホラー映画を観始めたのだ。

私の意識は朦朧としていたが、
こんな新聞の記事を思い出していた。

『脳梗塞の男性死亡。患者医者がわざと治療を遅らせる。
脳梗塞では発症後3時間を過ぎると脳細胞のダメージが激しくなって、
治療が難しくなる。遅くとも4時間以内に治療を開始すれば、完治は可能だが、この医者は治療すると見せかけて放置した疑い』

もうずぐ午前3時になる。

4時間半はゆうに経っている。

「すみません。すぐ来てください。とにかく大変なんです。
目を覚ましたら主人が倒れてて、はい。今気づいたんです・・・」

電話をしながら、妻は私に向かって指を立て、拳銃を討つ真似をして見せた。
慌てる声を出している口元がニヤリと笑った。

悲恋の映画が3本。
最初の2本で笑いを納め、3本目で涙を用意する。

頼むからもう悲恋の映画は止めろ。お前にはホラーの方が似合う。

          おわり



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