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「相談者の声」・・・怪談。力を持つ者に共通することは。



『相談者の声』


「きっかけ」に関するお話をもう一つ。


「それまで見たことが無かったのに、ある日突然幽霊を見るようになった」

霊の姿が見えるという人に話を聞くと何割かの人は、こう答えます。

そのきっかけについては、
心霊スポットや著名な神社仏閣に行ってから、とか、同級生と肝試しやこっくりさんをしてから、などと人それぞれですが、比較的共通するのは、親や祖父母など、親類縁者に、そのような力を持っている人がいる、
という事でしょうか。


加美栖裕美さん(仮名)は、遠い親戚だという美恵子さんに
小さい頃から憧れを抱いていました。

美恵子さんは、どこにでもいる普通のおばさん、という印象の中年女性ですが、お香を焚き込めているのか、いつもその周りには白檀のような香りが漂い、背筋の伸びたスタイルの良さと、黒を中心としたファッションで、品の良さと神秘的な雰囲気を醸し出していました。

そんな美恵子さんですが、親戚の間で解決しがたい事や、もめ事が起こると、誰からとも無く、

「美恵子さんに聞いてみようか」

という話になるそうです。

相談を受けると美恵子さんは、
いつも持ち歩いているハンドバッグの中から
小さな匂い袋を取り出し、深呼吸してその香りを嗅ぎ、

「ゴーホーゴーカ! センザンコーソーウ! ウレイハライテノチタテマツル」

と聞いたことも無い大声で天に向かって叫び、
誰かの声を聴くように二三度頷くと、解決方法を語り出すのです。


裕美さんは、その叫びがカッコよく思えて、
まるでヒーローの必殺技を真似するように、
自室で匂い袋の香りを嗅ぐ仕草をしては、同じように叫んでいたそうです。


裕美さんが五歳くらいの時、両親が美恵子さんに相談事があって
家に呼んだらしいのですが、別室で大人同士の話をしている時に
裕美さんは、好奇心に勝てず、美恵子さんのバッグから匂い袋を取り出して
嗅いでみました。

そして、いつもやっているように

「ゴーホーゴーカ! センザンコーソーウ!  ウレイハライテノチタテマツル」

と、やってみたのです。

その途端、
裕美さんの耳に、たくさんの人のざわめきが聞こえ始めました。
それは、何十人何百人もの老若男女の人の声でした。

「私の心配を聞いてちょうだい」
「聞いてくれ! 俺の悩みを」
「息子たちに教えてやってくれ」

そんな悲痛な叫びで、皆、何かを訴えてくるのです。

あまりの五月蠅さに裕美さんは怖くなり、
耳を押さえてしゃがみ込んでしまいました。

しかし、声は消えません。
鼓膜のすぐ横で話しているように耳の内側で聞こえているのです。

「やだあ。わああああ~」

いくら叫んでも声は消えず、益々大きくなっていきます。
ついに叫んでいる自分の声も聞こえないくらい、
訴える声以外の音は全く聞こえなくなってしまいました。


耐えきれなくなった裕美さんは涙を流し、
何度も掌で両の耳たぶを押さえたり叩いたり、
引っ張ったりもしてみましたが何の効果もありません。

動かし過ぎた耳たぶに少し血がにじんできた時、
叫びを聞いたのでしょう、美恵子さんと両親が部屋に飛び込んできました。

美恵子さんは、両手で裕美さんの耳を塞ぐと、そのまま目を閉じて
何か呪文のような言葉を唱えているようでしたが
音の聞こえない裕美さんには何も分かりませんでした。

やがて美恵子さんが目を開けると裕美さんの耳に添えられていた手を
勢いよく左右に広げたそうです。

その途端、訴える声は消え、心配する両親の声と
自分の泣き声が聞こえてきたのでした。

すぐにお母さんにしがみ付いて泣き続けた裕美さんは、
その後の事をあまり覚えていないそうです。

ただ、二度と匂い袋を嗅がない、という約束をさせられた事と、
美恵子さんが、

「この子は○○歳になったら、私のところへ修行に来させなさい」

と両親に話していたことだけが、鮮明に頭に残っているのです。
肝心の何歳という部分は曖昧なのですが。


その後、裕美さんのご両親が、美恵子さんの事を話題にすることは無くなりました。
裕美さん自身も、この時の恐怖を思い出すのが怖くて何も話しません。

しかし、毎年誕生日が近づくたび、
恐怖と不安に震えて眠れなくなるそうです。

               おわり





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