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「連歌誕生」・・・人は言葉で連なっていく。旅で見つけた物語。


「連歌誕生」

日本武尊(やまとたけるのみこと)は、
長い東方遠征の旅を終えて国に帰る途中、
酒折(さかおり)の村にある大木の下で、
配下の者たちと共に一夜を過ごすことになった。

長旅の果ての戦闘、そして再びの長旅。
尊も配下たちも、疲れが滓のように体に溜まっていた。

段を取るために起こした焚火の炎を眺めていると
くたびれた心の底から里心が湧き上がってきた。

『あれから幾日経ったのであろうか・・・』

尊は普段するように、歌で問いかけてみた。

「新治(にいばり)、筑波(つくば)を過ぎて、幾夜か寝つる」

ところが、尊以上に疲れ果てていた配下たちは、
それに応える余裕が無く、ただ戸惑うだけであった。

尊の言葉だけが夜風の中に消えていき、
雲間から顔を出した月が一行を見下ろしていた。

自分の言葉を無視されたような形になった尊であったが、
歌を返せない配下たちに、怒ることは無かった。

それどころか、自らの至らなさを責めた。

『月日を忘れるほどの辛い思いを、私はこの者たちにさせていたのか』

尊の自責の念が家来たちにも伝わり、さらにその場の空気が重くなった。

その時、焚き火の番をしていた一人の翁が口を開いた。

「かがなべて 夜(よ)には九夜(ここのよ)日(ひ)には十日(とうか)を」

翁が見事に歌を返して、座が一気に和んでいった。

言葉を紡ぎ、歌い連ねていく「連歌(れんが)」の種が生まれた瞬間であった。

人は言葉で連なっていき、言葉は人を連げようとする。

                       おわり

この翁は、その後、重要な役職に登用されたと伝えられて言われています。

酒折(さかおり)は、山梨県甲府市の地名。
日本武尊由来の「酒折宮」や梅園の「不老園」などの旧跡名勝があります。

「連歌」とは、五・七・五の発句と七・七の脇句の、
長短句を交互に複数人で連ねて詠んで一つの歌にしていく
歌遊びのひとつです。

一般に、「連歌」を「つくばの道」と呼ぶのも、この伝承に基づいています。




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