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「終電車の二人」・・・盛り上がり過ぎて、終電を逃す事はよくあるけれど。 あっという間に読める超ショート怪談。


「終電車の二人」 


「だからもう出ないとヤバいって言ったじゃない」

走り去る最終電車の赤いランプを目で追いながら
容子は俺に文句を言った。

「あの時はお前が、もう一杯だけって言うから・・・」

「又、あたしのせいにして!
あんたがその一杯をチビチビチビチビ、貧乏臭く呑んでたからでしょう!」

友達以上恋人未満と言えば聞こえはいいが
その頃の俺と容子は、些細な事でもイラついて口喧嘩をし、
歴史サークルの核爆弾と呼ばれていた。

『うるさいな! そんなに俺が嫌なら・・・』

と言いかけたところで、列車がホームに入ってきた。

「ほら見ろ。やっぱり次が終電だよ」

思いっきりドヤ顔になっていたのだろう、
終電に間に合ったのに、容子は目も合わせずに黙りこくっていた。
こいつのこういう素直じゃないところが嫌だ。

だが、入って来た電車を見て、俺たちは奇妙な感覚を覚えた。

目の前に滑り込んできたその列車には、
通勤時間のように乗客がたくさん乗っていたのだ。

路線によっては、終電に近いほど混雑する事もある。
しかし、都心の繁華街に繋がっている訳でもなく、地方都市の一角から
過疎寸前の町までという路線では、朝の通勤時間以外に
満員になる事はまれだ。

しかも、その乗客たちは全員、真っ黒な帽子をかぶって俯いたまま、
僅かに見える口元は、全員にやにやと笑っている。
真っ赤な唇。黄色く染まった歯。どろどろとしたよだれも垂れている。

「な、なあ・・・。き、今日はやっぱりホテルにしないか」

「そ、そうね。そうしましょう・・・」

喧嘩ばかりの二人だが、その時は素直に意見がまとまり、
その夜、駅前のシティホテルを探して泊まった。

結果的にこれが妻との最初の夜になった。

今では俺は、どんなに誘われても
絶対に終電より早く帰る良い夫になっている。

     おわり



*加筆再録

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