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「迷走から妄想へ」・・・舞台「妄想先生」。事前に情報をカットしていて裏切られた件。


プレオム劇「妄想先生」下北沢スズナリにて 2023年4月30日まで

2019年に亡くなられた中島敦彦氏の戯曲だが
5日間6公演が前売りだけでほぼ完売という盛況である。

「妄想先生」終演後の舞台挨拶

タイトルから想像できるように、キーワードは「妄想」である。
卒業式を目前にした教師の悩みや葛藤が、妄想と共に舞台に登場する。

昔、『妄想や回想がいくつも入ると、分かりにくくなるから避けるように』とシナリオの先生が語っていたが、
この舞台では大胆に舞台装置を使い、スパッと切り替えたり、
シンプルにセリフを辿って過去の人物が登場して
妄想と現実のどっちだろう、と思わせながら妄想世界に引き込むなど、
様々な手法が舞台上に展開して、迷走することは無かった。

それどころか、『次はどんな方法で妄想世界に連れていってくれるのだろう』と楽しみになってくる。

勿論、妄想の見せ方だけで引っ張っていくような単純な舞台ではない。「人間喜劇」と銘打つだけあって、現代社会の問題を練り込んだ骨太のコメディだ。

教職員と生徒がほとんどで印象が似通ってしまいそうなのに、それぞれが背負う問題や葛藤さえも、魅力的に思えて、キャラ付けがはっきりしている登場人物。
シンプルだが、立体的で意外性もある舞台美術。
ケレン味のあるクライマックス。
戯曲の持つ広がりと深みに真摯に寄り添った、すっきりとした演出。

見どころはたくさんある。完売も当然だろうと思った。

うらやましい限りである・・・いいなぁ。

ついでだから告白してしまおう。
通常私は、観に行くと決めたらなるべく情報をカットする。これが裏目に出た。

「妄想先生」、同じタイトルの漫画がある。
そしてもう一つ、「絶望先生」という漫画がある。
(正しくは『さよなら絶望先生』。勿論どちらもこの芝居には関係ない)

お恥ずかしい話だが、この芝居が始まるまで、チラシに書かれたタイトルだけでコミック原作だと信じ込んでいた。全く適当な奴である。しかもタイトルは「妄想先生」で、「絶望先生」の内容を思い浮かべていたのだから、始末が悪い。

勘違いしているのに、チラシすら見直さず、原作漫画(絶望も妄想も)を読み返さないのだから当然、開演すると同時に、その変な思い込みが修正されていく。
アレ? アレアレ?と感じながらも意外に楽しかった。
(負け惜しみではなく)

とにかく、今回の舞台は、次々に裏切られていくのだ。
登場する人物の妄想や想像が裏切られ、
構成の面白さや謎解きで、観客の予想も裏切られる。

思い出は、心の中にあるうちは思い出だが、
現実に引き出した瞬間、裏切りという名前に変わる。

まさにそんな体験であった。

プレオム劇「妄想先生」下北沢スズナリにて  脚本:中島敦彦 演出:嶽本あゆ美(メメントC)
出演:矢野陽子 大西多摩恵 伊東由美子
福島マリコ 梶原茉莉 保谷果菜子 槌谷絵図芽 
澤山佳小里 井上カオリ 南波有沙 馬場奈津美



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