礒部晴樹

横浜生まれの工業デザイナー。絵画、小説、詩画集、絵本、体験記、を投稿します。 夢幻の絵…

礒部晴樹

横浜生まれの工業デザイナー。絵画、小説、詩画集、絵本、体験記、を投稿します。 夢幻の絵画。魔法や闘いとは無縁の別世界ファンタジー小説。3度のガン手術から生還した80歳の私の世界観は詩画集に。老講師時代のチョイときめき体験談。ラジコンヨットと自転車、そしてコッソリ酒の日々。

記事一覧

「夕日の国」 短編小説 ファンタジー絵物語

 「コトン」と小さな音がして白い封筒がドアの下に落ちた。  「郵便だ。陽子からかな?」  バラの花を描いていた絵筆をおくと、カップに熱いコーヒーをそそぎ、手紙をと…

礒部晴樹
1日前
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「百合の王国」 ファンタジー小説

あらすじ  神秘の秘境にオープンしたテーマパーク[リリーパーク]へ、ぼくはバイクで向かっていたが、到着直前、崖から落ちて気を失った。  見知らぬ少女に助けられ、百…

礒部晴樹
3日前
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「ガーリン号の冒険」 SF小説 空想冒険航海記

あらすじ  ぼくナツオは、古代生物の宝庫カラカラ島探検のガーリン号に乗り組む。  船長のオットー博士以下全6名を乗せて船は出航。  コンピューターの天才少年テオが、…

礒部晴樹
5日前
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[エッセイ] 「ドス・アギラス号の冒険」椎名誠 空想冒険航海記の珠玉の傑作

  これはSF短編小説である。 見開きごとに挿絵が入っているので大人が楽しめる絵本である。 たむらしげるのイラストがすばらしく、椎名誠の軽妙な文章と響き合って、稀有…

礒部晴樹
9日前
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この絵はこの物語から生まれました ──物語の世界をアートに [第89回]

また、「緑の館」W.H.ハドソン からのインスピレーションで描いた作品です。 84回、86回に続き3回目となります。 今回はすべて最新作です。 「神秘の森の娘」というテーマ…

礒部晴樹
2週間前
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この絵はこの詩から生まれました ──詩の世界をアートに [第88回]

漢江         かんこう 溶溶漾漾白鴎飛    溶溶漾漾(ようようようよう) 白鴎飛ぶ 緑浄春深好染衣    緑浄(きよく)春深くして 衣を染めるに好し 南去北…

礒部晴樹
2週間前
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この絵はこの物語から生まれました ──物語の世界をアートに [第87回]

今回は、「みずうみ」シュトルム です。 ドイツの短編小説で、高校生のころ読みました。 たぶん、私にとって最初の外国文学だったと思います。 古風な淡い初恋物語で、老…

礒部晴樹
2週間前
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この絵はこの物語から生まれました ──物語の世界をアートに [第86回]

今回も前回[第84回]に引き続き、「緑の館」W.H.ハドソン からインスピレーションを受けたモチーフの作品です。 ただしどれも40年ほど前に制作したアクリル画です。 当初の…

礒部晴樹
2週間前
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[エッセイ] ラジコンヨット三つの楽しみ ──設計、製作、帆走

私はラジコンヨットを楽しんでいます。 ディズニーランドとどっちが好きといわれたら、近くの公園の池で、ヨットで遊ぶ方が好きですね。 このヨット、ハル(船体)全長23cmと…

礒部晴樹
3週間前
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この絵はこの詩から生まれました ──詩の世界をアートに [第85回]

香炉峰下新卜山居    香炉峰下 新たに山居を卜(ぼく)し 草堂初成偶題東壁    草堂 初めて成り 偶(たま)たま東壁に題す 日高睡足猶慵起     日高く睡り足…

礒部晴樹
3週間前
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[エッセイ] 盆栽風の盆栽 ──盆栽まがいを楽しむ

盆栽風の盆栽まがいを三鉢育てている。 なぜ盆栽風というのかというと、 これは盆栽ですと名乗るのが、少々おこがましいからである。 幹は細いし、ほとんど手を加えていな…

礒部晴樹
3週間前
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この絵はこの物語から生まれました ──物語の世界をアートに [第84回]

学生時代、「緑の館」W.H.ハドソン という本を読み、 一読、一生の付き合いになってしまいました。 政変をのがれて、アマゾンの密林に逃げ込んだアベルという若者が、 そ…

礒部晴樹
4週間前
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この絵はこの詩から生まれました ──詩の世界をアートに [第83回]

清明          清明時節雨粉粉    清明の時節 雨粉粉(ふんぷん) 路上行人欲断魂    路上の行人 魂を断たれんと欲っす 借問酒家何処有    借問(しゃ…

礒部晴樹
1か月前
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この絵はこの詩から生まれました ──詩の世界をアートに [第82回]

江村即事 罷釣帰来不繋船    釣りを罷(や)め 帰り来たりて舟を繋(つな)がず 江村月落正堪眠    江村 月落ちて 正(まさ)に眠るに堪(た)えたり 縦然一夜風吹去 …

礒部晴樹
1か月前
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[詩] ぼくは旅人 きみも旅人 この花も旅人

ぼくは旅人  きみも旅人  この花も旅人 火球が冷えた 太古の海の 渚の奥の岩陰で 泡が重なり分裂し 無限にくりかえす 偶然と必然の中から 生まれた私たち生命 火山…

礒部晴樹
1か月前
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この絵はこの詩から生まれました  ──詩の世界をアートに [第81回]

春江花月夜     張若虚 前回の続編、この甘美で長い詩の後半で、 結末の四句です。 斜月沈沈蔵海霧    斜月沈沈 海霧に蔵(かく)れ 碣石瀟湘無限路    碣石…

礒部晴樹
1か月前
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「夕日の国」 短編小説 ファンタジー絵物語

 「コトン」と小さな音がして白い封筒がドアの下に落ちた。  「郵便だ。陽子からかな?」  バラの花を描いていた絵筆をおくと、カップに熱いコーヒーをそそぎ、手紙をとりにいった。  ぼくは、美術学校を出て半年の、絵描きのたまごだった。  近所の画材店で絵を売ってもらい、どうにか暮らしはじめたところだった。  まだまだとても、まともに生活していくほどの収入はなかったが、こうして好きな絵を描いてさえいられれば、ぼくは幸福だった。ほかには何もいらなかった。  「やはり陽子からだ。しばら

「百合の王国」 ファンタジー小説

あらすじ  神秘の秘境にオープンしたテーマパーク[リリーパーク]へ、ぼくはバイクで向かっていたが、到着直前、崖から落ちて気を失った。  見知らぬ少女に助けられ、百合の原の少女の家に連れていかれたが、そこは外界と孤絶した別世界だった。  そこで少女と平和で静かな生活を送るが、どうしても[リリーパーク]が忘れられない。 ある日、村を抜け出し[リリーパーク]を発見した。  この吉報を知らせようと、村まで戻ろうとしたが、道は消えていた。  あの百合の原、あの少女は幻だったのだろうか。

「ガーリン号の冒険」 SF小説 空想冒険航海記

あらすじ  ぼくナツオは、古代生物の宝庫カラカラ島探検のガーリン号に乗り組む。  船長のオットー博士以下全6名を乗せて船は出航。  コンピューターの天才少年テオが、タイムマシン「Nボックス」を操作し、カラカラ島に到着。  凶暴な怪獣ゴンタウロスや、動物捕食の植物岩からのがれ、美しい音楽をかなでるパイプオルガンの樹に憩う。  空飛ぶクラゲを探しに入った森で、不気味なコピー植物に遭遇。  反重力の池での不思議な生物達、五つ目ギガドロンや火山の噴火から、ジャンプ滑空飛行で退避、急遽

[エッセイ] 「ドス・アギラス号の冒険」椎名誠 空想冒険航海記の珠玉の傑作

  これはSF短編小説である。 見開きごとに挿絵が入っているので大人が楽しめる絵本である。 たむらしげるのイラストがすばらしく、椎名誠の軽妙な文章と響き合って、稀有の作品となっている。 ちょっと注文をつけるならば、お話が短いのである。 もう少し長く、そしてぜひ続編を書いてほしいと思う。 おいしいごちそうは、たいていもっと食べたいと思うものである・・・ 椎名誠は行動の人、旅の人、焚火キャンプ愛好家である。 きのう北極圏の極寒の地にいたかと思うと、あしたは南米の辺境パタゴニ

この絵はこの物語から生まれました ──物語の世界をアートに [第89回]

また、「緑の館」W.H.ハドソン からのインスピレーションで描いた作品です。 84回、86回に続き3回目となります。 今回はすべて最新作です。 「神秘の森の娘」というテーマ、モチーフは、私にとって汲めども尽きぬ創作の泉です。 手元にある紙に、つい手をのばし、思いついたアイデア、イメージを描きつけてしまいます。 雑誌、それも建築雑誌のすばらしい写真などからヒントを得られることが多いのはどういうわけでしょうか。 おかげでいつもメモ用紙とボールペンは、バックに入れてあります。 ま

この絵はこの詩から生まれました ──詩の世界をアートに [第88回]

漢江         かんこう 溶溶漾漾白鴎飛    溶溶漾漾(ようようようよう) 白鴎飛ぶ 緑浄春深好染衣    緑浄(きよく)春深くして 衣を染めるに好し 南去北来人自老    南去北来(なんきょほくらい) 人 自から老ゆ 夕陽長送釣船帰    夕陽(せきよう) 長く送る 釣船の帰るを 杜牧 ようようと ゆらめき流れる川面を 白い鴎が飛んでゆく 緑の水は清らかに 春深まって 衣服も染めてしまいそう 南へ北へ 行き来しながら 人は老いてゆく 赤い夕陽が 釣り船の帰りを ど

この絵はこの物語から生まれました ──物語の世界をアートに [第87回]

今回は、「みずうみ」シュトルム です。 ドイツの短編小説で、高校生のころ読みました。 たぶん、私にとって最初の外国文学だったと思います。 古風な淡い初恋物語で、老年になった主人公ラインハルトが、遠い昔、幼き頃を回想する場面から始まります。 村の子供たちが、皆で森へイチゴ摘みに行きますが、ラインハルトも少女エリーザベトと二人でイチゴをさがします。 自然描写が美しく描かれています。 その後成長したラインハルトは、勉学のため故郷をはなれますが、母からのたよりで、エリーザベトの結婚を

この絵はこの物語から生まれました ──物語の世界をアートに [第86回]

今回も前回[第84回]に引き続き、「緑の館」W.H.ハドソン からインスピレーションを受けたモチーフの作品です。 ただしどれも40年ほど前に制作したアクリル画です。 当初のモチーフ「神秘の森の娘」から、かなり変容したものもあります。 上の2点などは、当初のモチーフからは変化し、「娘と樹、葉、舟」といったテーマになっています。 40年後の今も、このモチーフ、テーマが私の動力源となっています。 私の、 神秘、夢幻、静寂、といったものへの志向は、一生変わらないようです。 見果て

[エッセイ] ラジコンヨット三つの楽しみ ──設計、製作、帆走

私はラジコンヨットを楽しんでいます。 ディズニーランドとどっちが好きといわれたら、近くの公園の池で、ヨットで遊ぶ方が好きですね。 このヨット、ハル(船体)全長23cmという超ミニサイズで自作です。 私は数年前から大きな手術を3回しましたが、その退院の合間に作りました。 ステージ4の大腸がんで、大腸1回、肝臓2回切除しました。 人は命の危機にさらされると、人生を考えます。 自分が一番好きなこと、一番楽しいと思うことはなんだろうと考えました。 それをやらなくちゃ生きてる意味がない

この絵はこの詩から生まれました ──詩の世界をアートに [第85回]

香炉峰下新卜山居    香炉峰下 新たに山居を卜(ぼく)し 草堂初成偶題東壁    草堂 初めて成り 偶(たま)たま東壁に題す 日高睡足猶慵起     日高く睡り足りて 猶(な)お起くるに慵(ものう)し 小閣重衾不怕寒     小閣に衾(しとね)を重ねて 寒きを怕(おそ)れず 遺愛寺鐘欹枕聴     遺愛寺の鐘は 枕を欹(そばだ)てて聴き 香炉峰雪撥簾看     香炉峰の雪は 簾(すだれ)を墢(かか)げて看(み)る 匡廬便是逃名地     匡廬(きょうろ) 便(すなわ)ち是

[エッセイ] 盆栽風の盆栽 ──盆栽まがいを楽しむ

盆栽風の盆栽まがいを三鉢育てている。 なぜ盆栽風というのかというと、 これは盆栽ですと名乗るのが、少々おこがましいからである。 幹は細いし、ほとんど手を加えていない。 盆栽作りには、一定のセオリーがあるが、私の盆栽はそうしていない。 盆栽の鉢を使っているだけなのである。 しかし私は十分満足しているし、楽しい。 盆栽と書は、美の評価点がよく似ている。 どちらも造形の感性とセンスが問われる。 素人が、白い半紙に筆で文字を書けば、一応これは書である。 ただしなんの感動もないし、魅

この絵はこの物語から生まれました ──物語の世界をアートに [第84回]

学生時代、「緑の館」W.H.ハドソン という本を読み、 一読、一生の付き合いになってしまいました。 政変をのがれて、アマゾンの密林に逃げ込んだアベルという若者が、 そのジャングルで神秘的な娘リーマと出会います。 一口でいえば、密林を舞台にしたラブロマンスです。 まず、出会うまでのプロセスに引き込まれます。 鳥の声やサルの呼び声とも違う不思議な声、 高い樹々のむこうにちらりとみえた白い影、 そして圧倒的な緑の世界の描写に魅了されました。 以後、「森の奥の神秘な娘」というモチー

この絵はこの詩から生まれました ──詩の世界をアートに [第83回]

清明          清明時節雨粉粉    清明の時節 雨粉粉(ふんぷん) 路上行人欲断魂    路上の行人 魂を断たれんと欲っす 借問酒家何処有    借問(しゃもん)す 酒家は何処に有ると 牧童遥指杏花村    牧童 遥かに指さす 杏花村 杜牧 気持ち良い清明の時節というのに あいにくの雨ざんざん降り 春をさがして散歩にでた私は 魂も消えいらんばかり 通りがかりの牧童に 雨宿りの飲み屋はあるかとたずねると 遥かかなた 杏の花咲く村を指さした *李白ほどではないとして

この絵はこの詩から生まれました ──詩の世界をアートに [第82回]

江村即事 罷釣帰来不繋船    釣りを罷(や)め 帰り来たりて舟を繋(つな)がず 江村月落正堪眠    江村 月落ちて 正(まさ)に眠るに堪(た)えたり 縦然一夜風吹去    縦然(たとえ) 一夜 風吹き去るも 只在蘆花浅水辺    只 蘆花浅水の辺に 在(あ)らん 司空曙    川辺の村の即興の詩 釣りをやめて帰ってきて 舟も繋がず陸に上がった 川辺の村は月も落ちて ちょうど眠る時間 もし夜中 風が舟を吹き流しても ただ 蘆の花咲く浅瀬のあたりに 引っかかっているだけ

[詩] ぼくは旅人 きみも旅人 この花も旅人

ぼくは旅人  きみも旅人  この花も旅人 火球が冷えた 太古の海の 渚の奥の岩陰で 泡が重なり分裂し 無限にくりかえす 偶然と必然の中から 生まれた私たち生命 火山が噴火し 大地が震動し 天空を隕石が大声で飛び交い 恐竜たちが駆けぬけていった 砂時計は果てしなく流れ続け 生命の樹は成長分枝し、 哺乳類にまでたどりついた この星は時をはこぶ舟 この舟は人と花の積み荷を載せて 銀河のかなた走り去っていく 銀河の潮騒に洗われ 時間の波に洗われて 舟は青い宇宙の夕暮

この絵はこの詩から生まれました  ──詩の世界をアートに [第81回]

春江花月夜     張若虚 前回の続編、この甘美で長い詩の後半で、 結末の四句です。 斜月沈沈蔵海霧    斜月沈沈 海霧に蔵(かく)れ 碣石瀟湘無限路    碣石(けっせき)瀟湘(しょうしょう)無限の路 不知乗月幾人帰    知らず 月に乗じて 幾人か帰る 落月揺情満江樹    落月 情を揺るがして 江樹に満つ 斜めにかかった月は 静かに沈み 海霧にかくれた 北の果て碣石から 南の果て瀟湘まで はてしない道 この月のもと 何人の人が家路をたどっているだろう 落月は私の