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円高だったが、感覚は今より円安だった

円高だった●円高だった  円高だった。1ドルが90円を割り、80円台にも突入していた。  それでも節約するために、南回りの航空券を手に入れた。タイ・バンコク経由のチューリヒ行き。ヨーロッパを周遊しようと、ユーレールパスも持っていた。学生だから、もちろん、2等車のみに有効のパスだ。  そんな一人旅だったが、最終目的地の北欧の物価高に備えて節約の日々だ。だが、最初のチューリヒでいきなり難題にぶち当たった。空港から中央駅へ列車で向かい、駅の売店でコーラを購入した。円高だったが、日本

    • ヒースロー空港

       ロンドンを初めて訪れた時のこと。飛行機でヒースロー空港に到着した。  イギリスは入国審査が厳しいと聞いていた。案の定、入国審査には長蛇の列が出来ていた。どんなことを聞かれるだろうか、何と答えようかと自分でシミュレーションしながら順番を待った。  自分の番が来て、審査を受けた。パスポートを見せると日本語でこんにちはと言われ、あっさりと入国スタンプを押してくれた。日本からの直行便でなく、他国で乗り継いだ経由便だったから、日本人は少なく目立ったはずだった。  とにかく、入国

      • 京都と北海道

         京都と北海道  京都で知り合った人と、北海道で再会したことがある。  高校を卒業した私は、山陰へと向かう夜行列車に乗っていた。島根へ向かうためだった。各駅停車だったが、車内は満席で通路まで乗客であふれていた。向かい合わせのボックス席に、4人でぎっしりと座る。その中に、中学生の男の子がいた。その中学生と気が合い、島根に着くまでおしゃべりに興じた。  その日限りで廃線になるという路線に乗った。その後、私は一人で出雲大社へと向かい、中学生と別れた。  それから1年が経ち、春に北

        • 掃除

           大学入学前に、新幹線の車内を掃除するアルバイトをしていた。大学受験費用を貯めるためだ。  朝早くに家を出て、夜に帰ってくるという決まった生活を送った。もちろん、その後に自宅で受験勉強をしなければならない。疲れ果てていたものの、将来のために歯を食いしばって続けた。  一両をひとりで担当する。通路や座席間をほうきで掃いてモップ掛けする。窓やテーブルを水拭きする。座席カバーを交換し、反対方向に回転させる。シートポケットにあるごみも取る。喫煙車では灰皿もきれいにする。トイレや洗面所

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