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有害鳥獣個体を活用した環境教育の実践

1 目 的

 日本各地で里山の荒廃による野生動物の人里への進出や、外来種による農業被害等が社会問題となっているが、こうした鳥獣被害による有害鳥獣駆除の多くは、地方自治体の環境担当課がその業務を担っている。有害鳥獣駆除により、自治体でやむを得ず殺処分された野生動物の死体は、その種の生態的知見を明かにしたり、博物館標本として活用できるにも拘わらず、そのほとんどがゴミとして破棄されている現状にある。
そこで、本研究では、地域で発生する有害鳥獣の死体を市民の環境教育や学校教育の現場(理科教育)で有効活用できるかどうかを検証した。

解剖イベントの風景

2 方 法

 市内で有害鳥獣駆除により捕殺された野生動物の頭部を用いて、頭骨標本を作製する市民向けの体験講座を実施し、アンケートによりその効果を検証した。
体験講座で用いた材料は、ヒグマ、エゾシカ、タヌキ、アライグマなどの野生動物に加え、精肉販売会社から提供されたブタを用いた。また、参加者には事前に本講座の目的と作製方法、鳥獣に関する留意点について説明を行った後、実験室にて標本作りを行った。感染症のリスクを考慮し、参加者にはマスク、手袋、白衣着用のもと、ヒグマを除いて、使用した頭部は、スタッフにより事前に煮沸処理したものを用いた。
参加者は、ピンセットなどで肉を取り除いた後、細かい肉片を取り除くために歯ブラシで骨を洗う作業を行い、頭骨標本を作製した。

エゾシカの頭骨標本を作る子どもさん

3 結 果

 見学者を含めて37名での実施となった。参加者の内訳は、幼児3名(親子で参加)、高校生3名、20代から70代までの一般成人11名と幅広い年齢層となった。実施後のアンケートでは、多くの参加者から好評を得ることができた。

タヌキの頭骨標本を作る親子

 4 考 察 

 アンケートの結果から、高校生3名は、「頭部の構造を知ることができた」、「筋肉について学べた」という感想があり、生物教材として活用できることが分かった。また、幼児が1名、会場の臭いが耐えられず途中辞退となったが、その他の幼児からは「楽しかった」という感想があり、子どもの体験学習としても実施可能であることが分かった。さらに、その他の参加者においても、体験前は気持ちが悪いと不安に思っていたが「やってみると意外と楽しかった」、「とても勉強になった」という感想を得た。
 これらのことから、有害鳥獣個体は、外来種などをテーマとした環境教育の教材として活用したり、理科の指導要領と関連させて学校教育の現場で活用することも可能ではないかと考えられた。こうした取り組みが全国の自治体で実施されれば、地域博物館に標本が効率的に収集されるだけでなく、地域で発生する有害駆除個体を理科教材として、学校教育の現場など、地域の中での活用が期待できる。

ヒグマの剥皮をした地域の生物部の高校生たち

【追記】このイベントでは、以下のように既に骨格標本となった骨の標本も展示し、骨を実際に触って観察してもらう体験も実施した。

エゾタヌキの全身骨格の標本
エゾシカの頭骨標本

※この記事は、日本理科教育学会第63回全国大会in札幌,ポスター発表での学会要旨より引用。

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