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【短編小説】蝉 かまびすしく

蝉(せみ)が いっせいに鳴き始めた

「俺は、ここに居る」「私は、ここよ」
と主張するように…

まったく…
うるせぇよ…

その生命力の押し付けは
俺にとっては キツい

薄ら笑いを浮かべて
ペコペコ 謝って

上辺だけの人付き合いして
薄っぺらい恋愛して

刺激のない毎日の繰り返し…
くだらない毎日の繰り返し…


蝉しぐれ
鳴り止まず


ああ、うるせぇな
わかってるよっ

お前たちは 今しかないんだよな
わかってるさ…

お前たちは 知ってるのか?
わずかしか生きれないことを

知っていて 鳴いているのか?
だとしたら…
しんどいよな

でも なんだか
羨(うらや)ましく思う

俺も はかない命ならば…
懸命に がむしゃらに

必死になれただろうか
生きるということに…


蝉しぐれ
かまびすしく


うるせぇ ぐらいに鳴く蝉たちは
俺に当てつけるように

かまびすしく
鳴き続けた

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