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星降る町の物語 ◆完結◆

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不思議な風琴弾きがいざなう、『ほんとう』を探す旅。 まるで童話の舞台のような、美しいレンガ造りの町に隠された『秘密』とは? 本が大好きな主人公・アイリスと一緒に、少しだけ冒険して… もっと読む
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「星降る町の物語」もくじ

「星降る町の物語」もくじ

全34章、完結。不思議な風琴弾きがいざなう『ほんとう』を探す旅。 まるで童話の舞台のような、美しいレンガ造りの町に隠された『秘密』とは? 本が大好きな主人公・アイリスと一緒に、少しだけ冒険してみませんか?
※各章のタイトルをクリックするとページが開きます。

第1章 イフェイオンという少年
第2章 風琴弾きのヘスペランサ
第3章 ほんとうは、ほんとう?
第4章 出会い
第5章 怪盗リューココリネ

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「星降る町の物語」1章 イフェイオンという少年

「星降る町の物語」1章 イフェイオンという少年

 レンガの舗道を、茶色の革靴が駆けていきます。
まだ昨晩の雨がところどころに水たまりを作っていますが、彼女はステップを踏むようにヒョイヒョイとそれらを飛び越えてゆきます。

 角のパン屋のおじさんが、朝一番の焼きたてを表に並べながら、いつものように笑顔で挨拶をしてくれます。

「おはよう、アイリス!」
「おはよう、おじさん! いいにおいだね」

 おじさんは「ないしょだよ」と言って、アイリスに焼き

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「星降る町の物語」2章 風琴弾きのヘスペランサ

「星降る町の物語」2章 風琴弾きのヘスペランサ

 噴水のある広場から、楽しげな手風琴(アコーディオン)の音色が聞こえてきます。
 子供たちも、夕ご飯の買い物に出てきたおばさんたちも、市場のおじさんたちも、みんな立ち止まって耳を傾けています。
 風琴弾きのヘスペランサです。アイリスも駆け寄っていきました。

 ヘスペランサは、ビロードのような手触りの、深緑色のジャケットを着ていて、赤い手風琴を肩からかけています。
 背は高く、上着と同じ色の帽子を

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「星降る町の物語」3章 ほんとうは、ほんとう?

「星降る町の物語」3章 ほんとうは、ほんとう?

 学校の帰り、アイリスはいつもより急いで広場へ駆けつけましたが、ヘスペランサはいませんでした。
 広場に来ていないときは、彼はたいてい教会の裏の公園で、ひとりでぼんやりしています。
 アイリスは教会へと向かいました。

 教会の裏の公園のベンチには、ぼんやりと空を見上げて、ヘスペランサがひとりで座っていました。

「こんばんは、アイリス」
 ヘスペランサは、かくん、と首をかしげながら言いました。

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「星降る町の物語」4章 出会い

「星降る町の物語」4章 出会い

 教会から家までは少し距離があります。雨はだんだん強くなってきました。
 アイリスは、ヘスペランサがくれた銀の指輪をしっかりと握りしめて、家までの道を駆け出しました。

 近道をしようと路地裏に入り、よその家の軒下で立ち止まって一息つきました。

 制服もすっかり濡れてしまっています。アイリスは、メガネについた水滴を袖でぬぐいました。

(明日が休みでよかった。帰ったら服を乾かして、シチューを温め

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「星降る町の物語」5章 怪盗リューココリネ

「星降る町の物語」5章 怪盗リューココリネ

 アイリスは家までたどり着くと、男をベッドに寝かせて傷の様子を見ました。
 やはり、かなりひどいケガのようです。

 消毒薬で傷口をそっと拭くと、うう、とうめいて、男は目をうっすらと開けました。

「おまえ……どうして……?」
「うわっ、気がついた!」

 大声を上げて飛びのいたアイリスを見て、男はあきれたように笑いました。

「自分で助けといて、驚きすぎだろ。傷が痛むから、あんまり笑わせないでく

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「星降る町の物語」6章 守護隊長イキシオリリオン

「星降る町の物語」6章 守護隊長イキシオリリオン

 アイリスが部屋に戻ると、リューは上着を脱いで、肩の傷に包帯を巻いているところでした。
 本人が言ったとおり、その手つきは慣れていて、アイリスよりもずっと上手でした。

「着替え、ここに置いておくね」
 アイリスが言うと、リューは包帯の一端をくわえたままうなずきました。

 アイリスは居間に行き、シチューを温めることにしました。
 焦がさないように時々かき混ぜながら、暖炉のそばで本を読んでいると、

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「星降る町の物語」7章 魔女

「星降る町の物語」7章 魔女

 一夜明けて、前日の騒動が嘘のような、穏やかな休日がやってきました。
 昼間はすっきりと晴れて日差しが心地よく、普段は家で本を読むことの多いアイリスも、その日はレンガの町をのんびりと散歩したりしました。

 それでもやはり、日が暮れると、ぽつ、ぽつと雨が降り始めました。
 雨音を聞きながら、アイリスはヘスペランサの言葉を思い出すのでした。

「ほんとうは、ほんとう……?」

「おはよう、アイリス」

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「星降る町の物語」8章 窮地

「星降る町の物語」8章 窮地

 アイリスは必死の思いで、大きく張り出した屋根によじ登ると、端っこの方で小さくなって身を隠しました。

「どこだ、探せ!」
「魔女を捕まえろ!」
「処刑しろ!」

 恐ろしい声が聞こえてきます。
 ついさっきまでの平和な学校が、まるで嘘のようです。

(私、そんなに悪いことを言ったの?)
 アイリスは泣き出してしまいました。

「いたぞ、あそこだ!」

 向かいの棟の窓から、学生たちが叫んでいます

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「星降る町の物語」9章 選択

「星降る町の物語」9章 選択

 講堂の屋根からアイリスのいる校舎の隣の建物へと、黒い影が飛び移りました。
「アイリス! 大丈夫か?!」
「リュー!!!」
 アイリスは、声の限り叫びました。

 守護隊は、アイリスのことも忘れて騒ぎ出しました。
「リューココリネだ!」
「捕らえろ!」

 守備隊は、今度はリューに向かって矢を構えます。
 それには目もくれず、リューはアイリスの方へ駆け寄りながら言いました。

「立てるか?!」

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「星降る町の物語」10章 ほんとうのこと

「星降る町の物語」10章 ほんとうのこと

 空き家の床下から地下道へ入り、少し歩いたところにリューの隠れ家がありました。

 リューはランプに火を灯し、アイリスを座らせて言いました。
「腕、見せて。ケガしただろ」

 アイリスが腕を出すと、リューは傷の様子を見て、顔をしかめました。

「痛いか?」

 本当は、リューのほうがよっぽど痛そうなケガをしていたのですが、彼はアイリスの傷の手当てをし、清潔な布を巻きつけてくれました。

 傷の手当

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「星降る町の物語」11章 フローラ

「星降る町の物語」11章 フローラ

 リューは目を閉じたまま、続きを語りはじめました。

「フローラには、婚約者がいた。
彼は雪山の救助隊員だった。体の大きい、優しい男だったよ。
彼も、フローラの書く物語が好きだった。早く物語の続きを書いてくれと、笑いながら急かしていたもんさ。

突然、彼は行方不明になった。仕事中に事故にあったらしい。
フローラは真っ青になりながらも、必ず生きて戻ってきてくれると信じて、ひたすらに待ち続けた。

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「星降る町の物語」12章 ほんとうを求めて

「星降る町の物語」12章 ほんとうを求めて

(……この世界は『未完成の物語』――私は、その世界を守る『剣士』とともに旅をする『読者』……)

 長い話を終えたリューは、いてて、と顔をしかめました。
 アイリスのケガの手当てはしましたが、自分のケガの事は後回しにして話し始めたので、忘れていたのです。

 慣れた手つきで薬を塗っているリューに、アイリスはたずねました。

「ねぇ、リュー。剣士はどこにいるのかな?」
「それが分からないんだよな。け

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「星降る町の物語」13章 きっとこれが、最後になる

「星降る町の物語」13章 きっとこれが、最後になる

 霧のような雨が、ふたりの髪や肩を音もなく濡らしていきます。
 闇にまぎれるようにして、アイリスとリューは公園へと向かいました。

 公園のベンチには、雨に濡れるのも構わず、ヘスペランサが座っていました。

「ヘスペランサ!」
「アイリス。無事でよかった」

 アイリスはヘスペランサに飛びついて、手をとりあって無事を喜びました。

「ヘスペランサ、俺たち、『剣士』を探しているんだ」
 リューが言い

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