02_c三角西港全景

02|三角西港(熊本県宇城市)

<技術の手触り> 土木学会誌2013年2月号表紙

 土木学会・土木の日実行委員会では、土木の魅力や奥深さを一般市民に実感していただくことを目的に、2008年から土木構造物の貴重な歴史資料や図面、写真などを展示する「土木コレクション」を日本各地で開催している。実際の展示では、きわめて緻密に描かれた大判の図面を、あたかも美術作品のようにじっくり鑑賞することができる。「技術の手触り」シリーズは、その一端を異なる形式と媒体で表現しようとする試みである。今号では、有明海と不知火海が結節する海域に築かれた三角西港に迫る。

 明治維新後の新政府は、アジア地域で植民地を拡大させていた列強諸国の社会システムや各種技術を半ば強引に適合させるという、現在では考えられない大胆な国家戦略により、急激な近代化を断行した。その実現のためにさまざまな国から第一級の人材が破格の好待遇で招聘され、彼らは「お雇い外国人」としてそれぞれの方面で近代日本の礎を築き上げた。

 1887(明治20)年に竣工した三角西港は、わが国で最初期の本格的近代港湾であり、オランダから来日した技師のローウェンホルスト・ムルデル(Rouwenhorst Mulder)によって計画・設計された。埠頭や岸壁だけでなく、後背地の土地利用計画の骨格をなす道路や排水施設なども一体的に整備された。それらには肥後・熊本のお家芸とも言える高度な石造技術がふんだんに用いられ、現在もその魅力的な姿をとどめている。つまり、西洋の近代技術と日本の伝統技術が融合した港湾なのである。

 表紙の写真は浮桟橋が設置されていた埠頭の石積みの細部、裏表紙はムルデルによる平図面と埠頭構造図からなるコラージュである。公園として再整備されている現地には、ムルデル(ムルドルと表記)への敬意が溢れている。

文・写真:八馬 智 HACHIMA Satoshi

土木学会誌2013年2月号目次

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