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フルタイムで働いて、手取り12万だった時の話。(不当な労働環境への対処法)

 突然ですが、皆さんは、手取りでいくらもらっていますか?
 あなたが日常的に接し、貴方の生活を支える、スーパーのレジ担当、生協のお兄さん、新作の春物を勧めてくるアパレル店員、バスや電車の運転士、子どもやご自身の習い事の先生などは、その労働に見合うだけの対価をもらっているでしょうか?

 今回扱うのは、noteを始めた当初からずっと書きたいと思っていた、労働問題と、それに対する対処法の話です。
 少し長いですが、お付き合いいただけると幸いです。


就職の喜び

 私は、以前、某音楽教室に勤める、ピアノ講師でした。
 音楽は、それで食べていくことが難しいと言われる業界の一つなだけに、就職した当初は、雇ってもらったことへの感謝の気持ちで一杯でした。
 これで、教育を受けさせてくれた両親に報いることができる、安心させることができる。
 独り立ちや将来の見通しも立ったと思って、非常に晴れやかな気持ちでした。

 しかし、その気持ちは長くは続きませんでした。

募る違和感

 最初に違和感を感じたのは、明らかな業務、労働に対して、賃金が支払われないと知った時です。
 業務内容は、事務とピアノレッスン。レッスンが無いときは、事務仕事をするという形態で雇用されましたが、レッスンも事務仕事もしていない時間、具体的には、空きコマや、レッスンの前後の時間、研修、保護者対応など、考えられうるこの仕事に付随するほぼすべての業務が無給でした。
 おまけに、給与自体ももともと高くない上に、「時給」と聞いていた報酬の実態は「コマ給」で、事務仕事も30分未満切り捨てという、ひどい待遇でした。
 当然、契約書も、就業規則も、有給休暇もありませんでした。

死と隣り合わせで、会社に通い続けた数か月

 タイトルにもある通り、当時の私の手取りは、約12万円。
 12万円と聞くと、「あれ?そんなに安くないじゃん!」と思われるかもしれませんが、とても都内で一人暮らしできる金額ではありません。おまけに、当時、私は、配偶者を亡くしたばかりの母を支える身でした。
 頼れるのは己だけ。
 その私が、朝8時に家を出て、夜8時に帰ってくる。
 それを週5日間繰り返す。4週間繰り返す。
 それでも、手取り12万円。
 当時の最低時給でフルに働いても17万円弱はもらえるはずなのに、12万円。

 病みました。
 思い返せば、異常はそこかしこに表れていました。
 暴食に続く暴食(私はお酒を飲まないので、暴飲は辛うじて免れました)。それに伴う嘔吐。不眠。安易な男性関係や計画性のないお金の使い方。
 今だから言えることですが、いつ気がふれて死んでもおかしくなかったです。朝のホームで、夜の街中で、電車や車が通るたびに飛び込まなかった自分を心底褒めたいくらいです。
 それくらい、当時の自分は追い詰められていました。
 と同時に、それほどまでに追い詰められていることに気付けないくらい、正常な思考力や判断力を失っていました。

脱却、その後

 その後何があったのか、詳しくは書けませんが、結果的には、不幸中の幸いでその仕事を脱することができ、然るべき専門家や専門機関からの助けを借りることによって、泣き寝入りをすることだけは免れました

搾取されないために今日できること

 さて、冒頭の質問に戻ります。
 皆さんは、手取りでいくらもらっていますか?
 その報酬は、あなたが提供する労働の対価として、見合っていると思いますか?

 見合っていないと感じるとき、それは、一歩下がって自分の状況を客観的に見つめなおすときです。

(※以下、あくまで個人的な意見です。筆者は、法律の専門家ではありませんので、迷った際は、専門家へご相談ください。)

契約書、就業規則の有無を確認すること

 契約書はありますか? 就業規則はありますか?
 労働基準法施行規則にでは、使用者が労働者に対して、労働契約締結時に労働条件を書面で明示することを義務付けています。
 また、同基準法では、常時10名以上の労働者を使用する使用者(企業・個人含む)に対して、就業規則の作成と労働基準監督署への届け出義務を定めています。(なお、この10名には、パートタイマーなどの短時間・非正規労働者も含みます。)
 このいずれか、或いは両方ともが無い場合は、既に、使用者としての意識や、当然知っているべき法律の知識が著しく欠如しており、その労働の実態もずさんだと思ってください。
 また、ある場合も、書かれている内容にも目を通し、疑問点が無いか確認しましょう。

迷ったら記録をすること

 「あれ?おかしいぞ」や「これは明らかに不当だ!」など、少しでも違和感を感じたら、できるだけ速やかに記録をしましょう。
 例えば、賃金・残業代不払いの場合は、タイムカードのコピーや写真。給与明細も保管し、念のためコピーも取っておくこと。タイムカードが無ければ、出勤退社時間などのメモでも何でもいい。とにかく、証拠になりそうなことを、集めること。
 パワハラなどであれば、言われた言葉、言った相手、日時、場所などの記録なども有効だそうです。(2024年X月XX日。会社オフィス。上司の〇〇さん。「お前は使えない無能だ。」)
 自分の記憶が薄れない内に、できるだけ速やかに(かつ密やかに)記録をしましょう。

できるだけ速やかに専門家に相談すること

 人は、追い詰められていくと、どうしても、視野狭窄、無感情になっていきます。その状態では、他者から見たら明らかに不自然や不当なことも、「そんなものなのかな……」と流してしまうことあります。
 まずは、誰でもいいので、身近な人に相談しましょう。
 信頼できる家族や友人、難しければ、労働相談ホットラインや市区町村の相談窓口を活用するのも手です。とにかく、第三者に聴いてもらいましょう。 

 次に、専門家に相談しましょう。
 具体的には、弁護士や労働基準監督署が実施している無料相談あたりが最も足がかりが得やすいです。
 相談に行くときは、最初に提示された労働条件と、実際の待遇の証拠となる物をもって行きましょう。余裕があれば、書面にまとめられていると、時間を有効に活用できます。

死なないこと、離れること、生きること

 少し矛盾しているように感じるかもしれませんが、この問題に対する唯一にして最善の解決策は、最終的には、離れること(休む→退職する)だと、個人的には思っています。

 ここを辞めたら再就職できないかもしれない。
 お金が無ければ生きていけない。
 家族を路頭に迷わすことに……。

 そういった不安はもっともですが、ブラックな労働環境に居続けることは、それ以上にあなたに害を与えることだと考えてください。
 「まだ大丈夫」と考えていたり、そもそも考えること自体を放棄していたりするのであれば、それはかなり危険なサインです。今すぐ休みを取って、最終的には、逃げる(退職する)ことを検討してください。

 あなたを一番大事にできるのは、他ならぬあなた自身です。
 あなたの心身の健康も、今という時間も、お金では決して買えません。
 元気な心と身体があれば、仕事なんて、また探せます。
 お金だって、また稼げばいいんです。
 一時、行政やNPOに頼ったりしてもいいんです。
 守られる立場になっていいんです。
 あなたを大事に思っている人が望んでいることは、あなたが社会的強者や成功者であることなどでは決してなく、あなたが、日々やってくる今日という一日を、幸せに生きていることです。

 あなたを大事にしない企業や個人のために、あなた自身の大切なこれからを捧げる必要は一切ありません。

 大丈夫。
 「人生の不安や心配事の96%は起こらない」と言われているように、「この先、ずっと再就職先が見つからないんじゃないか」「収入が無くなったら生きていけなくなるかもしれない」というような不安も、高確率で起こりません。
 それでも不安なら、アルバイトでも何でもいいから、とりあえずできそうなことから始めてみて、リハビリやリチャージが出来たら、ステップアップしていけばいいんです。

 私は、無職で貯金を切り崩して生きていた期間(半年以上)を経て、パートタイマーとして再就職しました。その後、パートを掛け持ちして収入を増やし、今年4月にようやく、フルタイムの契約社員としての勤務が叶う予定です。
 ここまで来るのに、2年かかりました。最終学歴を卒業してからは3年の月日です。(逆に言えば、3年間、固定給とは無縁の生活でした……。)

 でも、それでもいいんです。
 だって、今、私は生きていますから。

 労働者を大事にしない会社に未来なんてありません。長い目で見たら、きっと淘汰されていきます。
 だから、いい勉強になったと思って、大腕を振って、これからを生きていけばいいんです。
 (因みに、私は、同じ轍を踏まないために、今でも、就職する際の求人情報から実際の契約書、月々の給与明細に至るまで、すべてハードコピーで保存しています。)

 長くなりましたが、ここまでお付き合いくださった方々、ありがとうございました。
 この世から不条理がなくなることはきっとないけれど、小さくてもいいから、一人一人が、それぞれ幸せに生きていける場所にたどり着けることを、切に願っています。


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