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【不思議な夜のこと】

京都 LIVE HOUSE DEWEY

2022年6月25日(土) 

山下凡情
菅野創一朗
藤山拓

諸事情で延期になった京都4月公演のライブ。
4月は私も都合が合わず見送っていた。
ツーマンから山下凡情さんの出演を加えた
実質スリーマンのイベントとなる。
日程は…よし。チケットも…よし。
あとは行くだけ。いつもと変わらない。

当日午後3時までの野暮用を済ませる。
JR名古屋駅から米沢経由で西に。
道中、醒ヶ井あたりは緑深く、のどか。
梅雨明け前の澱んだ曇り空の中を
少しの雨を受けつつ列車は走る。

酒を飲むつもりで買ったけれど
結局開ける気になれず。家まで持ち帰ることに

山科から、まっすぐなトンネルへ入る。
暗闇の先の光。
出口が近くなるにつれ
期待が広がるのを実感する。
湿度と暑さを含んだ風が吹く京都駅。
何枚か写真を残す。

駅舎の骨組は、あの怪獣映画を思い出す。


京都地検やら科捜研も京都だよなぁ。
そんなことを思いつつ
会場までの移動手段を調べる。
タクシーか。バスか。。
成程、歩いても1時間圏内か。
街を見ていこう。急ぐ旅でもない。

京都へ来るのは中学の修学旅行以来だ。
時代も変わり移ろいも多いのだろうが、
一度訪れた昔の記憶など
覚えていられるはずもない。
全てが、真新しく見える。
古都なのに。おかしなものだ。

梅雨明け前の京都タワー。登らず見上げただけ。

河原町通りを北上する。
道はやや東へ斜に延びている。
辻辻の建物は鋭角に尖る。面白い。
五条大橋が右手に現れ過ぎて行く。
ふらりと通りを一本跨ぐ。
足元には小さな流れ。高瀬川である。
川の両岸には様々な店が軒を連ねる。
カフェ、焼肉、ジェラート…
串焼、串揚、イタリアン、タイ料理…
何でもあるな。京都は…
何でもありなのかな、京都は…
人、人、人。溢れる人。
土曜ってのもあるのだろう。
時間帯は18時。涼み始めるいい時間だ。
誰の耳にも、せせらぎは聞こえていない。
賑わいを抜け目的地「DEWEY」の前に立つ。
夕暮れと呼ぶには、まだ明るかった。

入口外観と看板を撮り、階段を下る。
厳ついスチール扉がデンとある。重い。

厳つい扉。正直、ちょっと怖かった。

短い通路の先にも扉がデン。ここで大丈夫?
扉には「DEWEY」の文字。大丈夫か…。
そっと開けるとマスターが
「カウンターで受付を」と優しく案内してくれた。

店内には菅野創一朗さんが既に来ていた。
物販を並べたローテーブル。
その奥の低いソファから明るい顔を見せた。
お久しぶりです。また会えて嬉しい。
お馴染みの方も来ていた。お久しぶりです。
よくウクレレの練習見てます。
お酒を頼み、しばしの談笑。
2人とも、名古屋近郊に暮らす私が
京都まで来ていたことに驚いている様子。
菅野さんのアルバム「花鳥風月」を所望する。
「サインしますか?」
「是非!お願いします…!」
また1つ、形あるものが増えた。
入口の扉がふわりと開いて
ギターを背負った藤山拓さん現る。
お久しぶりです。また、驚く顔が見られた。
楽しい。

程なくして、ライブ
「不思議な夜のこと」の幕が上がる。

1番手。オープニングアクトは山下さん。
はじめましてのステージ。
山下さんは控え目な出で立ち。
緩やかに演奏が始まる。
音圧はやわらかく、日々の幸福足るを
祈らずにはいられない。
そんな優しさが、歌の端々に垣間見える。

日々をどう暮らしどう生きているのか
お互い知る由もない。
歌とは一方通行なものなのだろうか。
聴き手がたとえ多くなくとも
歌われることで昇華されるものもある。
それは喜びばかりではなくて
生活の中の小さな苦味だったり
些細な後悔だったり。
歌は、それまで知らなかった風景を
中空に、脳裏に、浮かばせてくれる。

そう思いながら静かに聴き入った。
そう、これは僕には意味のあることなのだ。

山下さんの演奏、最後の曲は
「Your life is beautiful」
終わるとアンコールの手拍子がかかる。
「オープニングアクトですよ…」と
困惑とも喜びとも知れない震え声で
ギターを撫でる。
アンコール「昼下がりが通り過ぎて」
それまでの曲の中から一歩踏み出たような
歌声に太さが感じられる。
力強く歌われたからかもしれない。
素晴らしかった。

菅野創一朗

弾き語り始まりの曲「群青かもめ」にホロリ。

今まで見た菅野さんのライブの中では
これまでにない程に淑やかさを感じた。
会場の雰囲気に気を配ったのか
お客や後に控えた演者を思ってなのか
飄々とした表情からは読み取れない。
普段ならもっと"遊ぶ"ようなところも、
確かめるように、情動を引き寄せる。

いつも感じていることではあるが
菅野さんの歌い出すまでの言葉や、歌詞の流れは
詩的というより、文学的なのだ。
背景や想像を掻き立てる、言葉。
元来、物語は抽象的で、何より
想像の先にしか辿り着けないものだ。
先の景色を映す窓や、時には秘めたる覗き穴。
菅野さんの音楽は
それらを脳裏で解放させていく。
艶やかな歌声と、スケベな左手の指使い。
つま弾く右手のスクロールによって、
怪しさも、侘しさも、家族への愛情も
物語として鮮やかに彩られていく。
それは美しいまでに心地よい。

最たるものはアンコールの
「アイスクリーム」だろう。
お馴染みの短い曲。
スケベな言葉がないのに
こんなにスケベな歌はない。
そう感じている俺も、きっとスケベなのだ。


藤山拓

そっと裸足になる。
藤山さんの演奏は山から湧き出す水ように
即興から始まり「引き出しの中の手紙」へと続く。
溢れる思いが夏草の原を吹き抜ける。
高原の風ような爽やかな響き。
できることなら晴れた朝に、裸足で、
芝生で何も考えずに、跳ね回りながら聴きたい。
心のシャツが真っ白になる。

「ひかり」
「愛ってなんだい」
想い届かぬ切なさと裏腹の多幸感がある。
愛と出会えた喜びが、詞に滲み出ている。
「港」を通り、ラストの曲「夏の庭」へ。
ドラマチックな歌のフレーバーで満ちる。

アンコールの手拍子に
「2人にアンコールきていて、
 自分に来なかったらどうしよう。
 来なかったらきっと泣いてた」
などと、冗談ぽく笑わせた。
彼は祖母からの手紙なるものを取り出し
即興でギターを奏で始める。

「これを歌詞に…」眼鏡の奥があやしく光り
「あとで二人にも、やってもらいましょう」
と突然のご指名をする。
客の期待と反比例したような、演者二人の
小さな悲鳴が聞こえた気がする。

藤山さんの即興演奏は、冗談なくいつも熱い。
「ある魚屋の1日」
彼の好きに描ける世界、好きに歌える世界。
ステージから溢れる魚屋の世界。

「つぎは、菅野創一朗!」
ステージに立つ菅野さん。
「藤山拓のライブで最も恐れていたことが…」
かぶりをふって。ギターをつま弾く。
歌の調子は、明朗な光景に乗っていく。
初めて見る歌詞を歌い上げる。
思わず唸るほど、相変わらず盛り上げるのが巧い。

「最後は山下凡情!」
ステージに立つ山下さん。
「ほんまどうしたらええんや…」
困惑の表情で。ギターをつま弾く。
歌の調子は、魚屋の店主の心象をなぞる。
気だるい日常。自分へのご褒美。
ちいさな失敗。包み込むような柔らかな音楽。
人それぞれの音色に違った魚屋がいた。
「流石だなァ」と、感嘆する。
藤山さんは自分の出番が終わると
めちゃくちゃ楽しそうに
ステージ奥のドラムセットに座し
指先でリズムを刻んでいた。
演者は戦々恐々だったかもしれないが
それもまた「不思議な夜のこと」
音楽の波乗りは終幕を迎える。

幕後のお三方
左から藤山拓、山下凡情、菅野創一朗

その後、各々時間まで談笑となる。
客同士でも話ができたのは良かった。
色々と思い思いの話をした。

後悔したくないなら
老齢の音楽家の演奏は時機を逃さず
観覧したほうがいい。なんてことや

叶えたいことは
「いつかやりたい」じゃなくて
具体的にいつやると決めてしまった方が
自分で自分を動かしてくれる。なんて話。

思ったことは
演者も客も店員も人間に変わりなく
笑いながら生きていたいのだ
単純で簡単なことを体験することで
肌身から実感していく。

やがて。1人、1人と帰路へついた。
この後、予定は朝まで未定だった。
藤山さんは明日、長野らしい。車で向かうと言う。
少し京都を歩きたく思い、駐車場へ行く途中まで
ご一緒させてもらうことにした。
菅野さん、山下さんへ、別れを告げる。
いずれまた。どこかのライブハウスで。
マスターへ「また来ます」と短く挨拶し
店を後にした。

高瀬川の流れる道に出て、北へ。
修学旅行ではまず来られない、夜の繁華街。
飲み屋飲食店が多く、まだかなり人が多い。
藤山さんは「少しありますよ?」と気遣う。
この後、何も予定はないこと
物書きできる静かな場所を探すことに
宿も決めてはいないから、なんなら
「ホテル鴨川」で休息することなど伝えた。
「ガリザベンみたい。彼も前、鴨川泊だったよ」
ガリザベンさんは大阪のミュージシャン。
彼のライブへもまた時間を作り聴きに行こう。
どれみふぁといろはやハニバニで拝聴している。
しあわせジョンの歌はこどもたちも大好きだ。

煌めく繁華街を抜ける。
もう23時になろうかというのに
鴨川河川敷は若者たちが
やいのやいのとやっている。
三条大橋を東へ渡る。

交差点。
京阪電車の三条駅舎が向かいに見える。
ここでお別れすることに。
長野までの道中の無事を祈りつつ
「よい夜だった」と告げる。
またの再会を楽しみにしたい。

1人。鴨川の東の街道を南下し京都駅へ向かう。
対岸やそこかしこで恋人たちが
互いの愛を確かめあっている。
「愛ってなんだい」別れたばかりの
藤山さんの歌が頭を廻り
少しだけほくそ笑む。
鴨川の東と西とでは、光の量が違う
人の数も同じくらい違うように見えた。
京都駅へ向かっているこの時は
「不思議な夜のこと」が
もう終わったのだとばかり思っていた。

この後、barカウンターで隣になった
知らない女性へ、グッナイ小形さんのCDを
布教したり、チェーン外れた自転車なおしたり、
妖怪たちと朝を待ったりした。
それはまた、別のお話。


不思議な夜のことは色々ありました

次はいつ、京都に行けるかな。
楽しみはたくさんあってきりがない。 はぐぱぱ


この記事は既にアップしていた
【不思議な夜のこと】の内容を
ライブレビュー中心に再構築したものです。

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