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欲しい暮らしは自分でつくる。25歳農家の根っこにあるパンクの精神


「わたし、パンクロックが好きなんです」

「パンクって、社会に対するモヤモヤした気持ち、反骨心を地下から叫ぶ音楽だと思うんです。

学生時代に『農業をやりたい』と語ると、ほとんどが否定されたり、違う道を勧められた。農業をやりたい気持ちを否定されることにモヤモヤしたのは、いつも心の中で『農業はかっこいい仕事なんだ。それに憧れて何が悪い』という反骨心があった気がします。

周りから否定されても、自分が思う農業のスタイルで、農業がかっこいい仕事だということを社会で表現していきたい。それが私の原動力だったりします」


岡本夏佳さんの言葉には不思議な力がある。

紫波町の地域おこし協力隊として活動する岡本さんは、若者が農業に興味をもつきっかけづくりをする傍ら、自身の畑で農作業をしている。


畑の愛称は「なつかのおつまみ畑」。「はじまりの学校」のライターとして初めて岡本さんに出会ったのも、この畑でのことだった。

畑にはメキシコを思わせるカラフルな装飾。
日陰のなかで休憩できるカフェスペースまで。


「おつまみ畑で採れた野菜は、名前の通り、お酒のおつまみになる運命です」

お酒が大好きな岡本さんは、自分で収穫した野菜をつまみに晩酌したとき、農業の楽しさを実感したという。

「ビール」の文字と一緒に書かれた秘伝豆(枝豆)。


にこやかな表情で、自由にのびのびと農業をたのしむ岡本さん。そんな第一印象とは裏腹に、彼女が語る言葉のひとつひとつに内省の深さがあった。

そのギャップがどうにも気になって、いつか彼女に聞いてみたい質問があった。


「農業の担い手が減るなか、岡本さんが農業を仕事に選んだのはどうしてですか?」


今回、岡本さんが育てたフレッシュホップを使用した新商品「はじまりのハードサイダー #04」の発売をうけ、インタビューをオファー。

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25歳にして農業で生計を立てると決め、自らの手で欲しい暮らしを次々とかたちにする岡本さん。そんな彼女と農業との出会い、「まじわり×はじまり」の物語をうかがいました。


岡本夏佳(おかもとなつか)
1999年生まれ。大学3年生の時にインターンシップで紫波町を訪れたことをきっかけに大学4年生の夏、紫波町に移住。紫波町の地域おこし協力隊として農村に住みながら、農村と若者をつなぐ活動を行なっている。ぶどう農家として就農するため修行中。




自分の力で生きていける人間になりたかった。


──まずは、普段どんな活動をなさっているんですか?

紫波町の地域おこし協力隊として、農業と若者が関わる場所づくりをしています。畑でイベントをしたり、季節の手仕事を体験できるワークショップをしたり。農業に興味をもってもらうには、農家や畑に触れる機会が必要だと思うので、そういうきっかけづくりができたらなと。


──どうしてそういった活動を?

私自身が農業に興味はあっても、実際に農業をはじめるきっかけを見つけられなかった1人だったので。


──というと?

農業がやりたくて、大学で農学部に通ってたんですが、農学部でさえ農家や畑と関わる機会が全然なくて。農学部を卒業して農家になる人って、ほとんどいない状況なんです。


──そうなんですか。ぜんぜん知らなかった…!

公務員になっちゃうか、農業系の企業にいくか。農業で独立を考えている学生がいても、先生に相談すると「就職しなよ」と勧められる。農業がしたかった私は、大学に居づらい雰囲気で。


──みんな就活するから、農業をやりたい人は浮いちゃうのか…。

そうなんです。そんなとき、インターンで紫波町に来たら、自分のやりたいことにまっすぐチャレンジしてる人や私の活動を応援してくれる人がたくさんいて。私も紫波でならできるかもと思って、自分で畑をやりながら、農業をやりたい仲間を増やしています。

若者が学び続ける場所「YOKOSAWA CAMPUS」。ここでの出会いが大きな刺激になり、インターン後も紫波町に通うように。


──農業をやりたい気持ちはいつ頃から?

高校3年生のとき、自分の進路を真剣に考える時期になって、将来どう生きていきたいかを考えたんです。仕事って、人生の大半の時間を占めるじゃないですか。そうなると、自分がやっていて楽しくて、気楽にできることがいいなと。農業が暮らしの近くにあったので、これを仕事にできたらいいなと思いました。


──暮らしの近くに農業が?

おばあちゃんが青森の弘前でりんご農家をやっていて。小さい頃からおばあちゃんの手伝いをしたり、畑で遊んだりしていました。ただ、そのときから農業を仕事にしたいと思っていたわけではなくて。


──そうすると、何かきっかけがあったわけですか?

意識したのは、東日本大震災の経験が大きいですね。当時、小学5年生。震災が起きた日の2週間後に、父親が転勤で盛岡から石巻に引っ越す予定だったんです。一足先に父親だけ石巻へ向かって、母と弟と私の3人だけで生活をしていた短い期間に震災が起きちゃって。


──すごく不安な状況ですね。

電気も水道も止まってしまって。その日からしばらく隣の家に居候させてもらったんです。スカスカのスーパーに買い出しに行ったり、食べられそうな非常食や燃料をみんなで持ち寄ったり。そのときに、生きていくうえで食べものって大事だなと。


──当たり前のものが急になくなって、大切さに気づいたというか。

便利なもの、デジタルなものは、いざというときに信用できないと肌で感じました。それと同時に、「なるべく自分の力で生きていけるような人間になりたい」と思ったんです。そのときですね、おばあちゃんの暮らしが重なったのは。

──農家のおばあちゃんのような生き方がいいと?

そうですね。自分の手に職があると、それって揺るぎない。世の中には仕事に行くのが嫌だという人もいると思うんですけど、農家は自分の手から生まれる仕事だからプライドを持ってる。農業は手を動かして、身体を動かして、何十年もかけて身につけていくもの。そういう手に職がある仕事がかっこいいなと。


──農業はかっこいい仕事だと。

はい。そう思っていても、学生時代に「農業をやりたい」と語ると、ほとんどが否定されたり、違う道を勧められて。農業をやりたい気持ちを否定されることにモヤモヤしたのは、いつも心の中で「農業はかっこいい仕事なんだ。それに憧れて何が悪い」という反骨心があった気がします。


──そこが農業へのモチベーションに?

そうかもしれません。周りから否定されても、自分が思う農業のスタイルで、農業がかっこいい仕事だということを社会で表現していきたい。それが私の原動力だったりします。


収穫した野菜をつまみに晩酌、これだと思った。


──実際に農業をはじめたのはいつからですか?

大学4年のとき、紫波町で体験農園をひと区画借りたのが一番最初ですね。


──はじめての農業はどうでしたか?

種から植えて、大根ができたときは感動しました。お酒が大好きなので、自分が収穫した野菜でおつまみを作って食べたときに「これだ!」って。実際に農業をしてみると、想像以上にしっくりきたというか。さっそく次の年から家の近くで大きめの畑を借りて、「なつかのおつまみ畑」をスタートしました。

畑をやりだすと、近所の人たちが余った苗を勝手に植えてくれて(笑)。畑の野菜が一気に40品種ぐらいになりました。


── 一気に40品種!

育てた野菜を使って酒場でおつまみを提供したり、料理が好きな人とコラボイベントをしたり。2023年から盛岡の「よ市」というイベントにも毎週出店して、出張酒場もやりながら野菜や果物を売ってます。

YOKOSAWA CAMPUSの一角を間借りした「おつまみ畑出張酒場」
毎週出店している盛岡市材木町の路上買物市「よ市」


おつまみ畑やイベント出店は、交流のきっかけづくりとしてやっていて。将来的には紫波町でぶどう農家として独立するのが目標です。


──なぜ、ぶどうだったんですか?

同じ農業でも、野菜と果樹では仕事の内容がぜんぜん違って。シーズンごとに畑をまっさらにする野菜よりも、何年もかけて木をつくっていく果樹のほうが性に合っていたというか。

果樹は木がどんどん成長していくので、手のかけ方で、木の形も変わっていく。一粒一粒を調整したり、綺麗な果実をつくる仕事に職人性を感じるんです。何年もかけて稼げる木を育てるのがおもしろいなって。将来的にはぶどうをメインに、自分のぶどうでワインをつくるワイン農家になりたいと思っています。


──ワインづくりまで!

ただ農業をするのも楽しいですけど、自分の育てたものがお酒になったり、料理になってお酒と楽しめるとよりワクワクする。「なつかのおつまみ畑」をやっていくうちに、「お酒と農業がつながっている」ことに気づいたんです。


──育てるところから食べる、飲むまでを一貫して提供する農業がやりたいと。

はい。私がやりたい農業のスタイルは、「酒場とつながる畑」「畑とつながる酒場」なんだなって。お酒も農業と切り離せないと思うので、お酒を通して農業のことをもっと知ってもらえたらと思っています。


「きゅうり1本30円」の現実。


──農業をはじめて大変だったことはありますか?

それは常に感じます。せっかく育てた野菜が猛暑で駄目になったり、1回の霜にやられたり。前回はあんなに美味しくできた枝豆も、今回は鹿に全部食べられちゃって…。


──農業のシビアなところですね。

あとは、農業でお金を稼ぐのはやっぱり大変です。野菜は値段を高くすると、本当に売れなくなる。せっかく育てたきゅうりも1本30円でしか売れないのか…とか。


──ああ…。

育てた野菜はお客さんに直接売りたいとか、全部自分でやろうと思ってましたが、自分の人件費を考えるとまったく稼げない。実際に農業をはじめて、そこは諦めがつくようになりました。現実的に考えなきゃなって。


──稼ぐことに向き合うようになった。

はい。それでいま、経営を学ぶために岩手大学の農業経営を勉強するコースにも通って、事業計画をつくってます。売上を上げるために畑の面積を広げると、人手が必要になる。数字を出して、全部自分でやるのはやめようと決めました。得意な人にお願いしたり、仲間をつくっていくのが大事だなと今は思っています。


──実際に農業をやって、考え方も変わってきたわけですね。

最初は農業が好きだから農業をやりたい、単純にそれだけでした。でも、農業に関わってくれる仲間が増えて、仲間と農業をやる時間の楽しさを知って。農業をこの地域でやっていくと考えたとき、仲間になってくれる人の働く場所を、自分がつくれるようになりたいと考え方が変わってきました。誰かとやると、思いもよらない可能性につながっていったりするので。

──そういう意味では、今回「はじまりの学校」ともご一緒させていただいて。

はい、お酒の原料に使うホップを栽培しました。原料の割合として少しになると思うんですが、自分のつくったものがお酒になるのはうれしいです。

栽培したホップ。自宅で市販のビールにホップを足す「追いホップ」で、クラフトビールのような香りを楽しむのだそう。


──ホップはどういった経緯でつくることに?

全国でも珍しい個人にホップの苗を売る苗屋さんが、たまたま隣の隣の畑にあって。「紫波の地域は、ホップの栽培にも向いてるんだよ」と聞いて、試しにやってみようかなと思い、栽培をはじめました。


──次々とチャレンジをしてますね。

そのぶん、失敗もしてますけど(笑)。ホップも1年目は思うようにいかなくて。今回はリベンジも込めて、4品種を4株ずつ合計16株を植えました。ホップは上へ上へと伸びるので棚の整備が大変で、棚は私の父(ホームセンターでDIYアドバイザーを担当)にお願いしてつくってもらいました。

──仲間に頼ってますね。

はい、ちゃんと得意な人にお願いしました(笑)。


農業で楽しく稼ぐ姿をみせたい。


──今後はどんな活動を?

先輩のぶどう農家さんのもとでぶどう栽培をガッツリ学ぼうと思ってます。まずは農家として、質の良い農産物をつくれるようになりたいので。で、研修をしながらぶどう栽培ができる畑を探して独立したいなと。


──先輩農家さんのもとで研修を。

はい、安定してぶどうを育てられるようになったら、ジュースをつくったり、ワインをつくったりしていきたい。最近、花巻市のアールペイザンワイナリーで、ぶどうの収穫からワインの仕込みまでをひと通り体験させてもらいました。


──すでにワインづくりまで経験してるんですか! 実際にやってみて、どうでしたか?

ワインづくりって、工程としては単純なんだなって。ぶどうを潰して、濾して、数日するとぷくぷく発酵してくるので、あとは瓶詰めをするだけ。瓶で30本、20リットルぐらいのワインを仕込みました。

絞ったあとに出る赤ワイン粕は、「はじまりのハードサイダー#01 2024」の原料として使ってもらいました。

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──岡本さんが携わるお酒がどんどんできていますね。

ありがたいです。ゆくゆくは紫波でぶどう農家をやってる方と一緒に、自分たちで育てたぶどうを使ってワインをつくりたいです。


──ちゃくちゃくと自分のやりたいことを実現させていっていますね。

自分が農業でしっかり稼げるようになって、農村でも楽しく稼いで生きていけるという姿を見せていきたい。そういう姿を見せることで、農村で暮らすことを選ぶ若い人が増えたらなって。

岩手県内の市町村が地元の魅力を紹介する「ふるさとCM大賞」で、岡本さんが出演するCM「欲しい暮らしは自分でつくる」が熱演賞を受賞。


──農村で楽しみながら稼ぐ背中を見せたいと。

農業はかっこよくて夢のある仕事だと、特に同世代に伝えたいです。農業を通して地域と人をつなぐ、間に立てるような農家になりたい。そのために、若者が農業を身近に感じるきっかけをつくっていきたいと思っています。


岡本さんのフレッシュホップを使った「はじまりのハードサイダー #04」が発売しました!

りんご×ホップのお酒「ホップドサイダー」と日本の醸造技術「白麹」が融合。

紫波サイダリー×ぷくぷく醸造のコラボシリーズ第二弾として、りんごとホップのお酒「ホップドサイダー」が登場! 「はじまりのハードサイダー #04」は搾汁したりんご果汁に白麹の甘酒を混ぜ、そこにホップを添加して醸造したハードサイダーです。

りんごがもつ爽やかな酸味にホップのほんのりとした苦味が加わる「ホップドサイダー」の伝統的なスタイルに、日本の醸造技術である「白麹」を掛け合わせるのが今回の挑戦。白麹の酵素によって、新たなホップの香りを開花させることを目指しました。

味わいは、りんごの甘酸っぱさをベースに、まるでクラフトビールのヘイジーIPAを思わせるホップのトロピカルな香りや、爽やかな柑橘のニュアンスを感じさせるフローラルな仕上がり。ホップを使ったビアスタイルのハードサイダーということで、ソーセージやサラミなどの肉料理との相性は抜群。ビールの代わりに1杯目のお酒としてはもちろん、食中酒としてもお楽しみいただけます。

さらに、この商品のためだけに、紫波町地域おこし協力隊の岡本夏佳さんが初めてとなるホップの栽培にチャレンジしてくれました。希少な紫波産ホップの香りをぜひ感じてみてください。

シアトル出身で紫波サイダリーの醸造家を務めるミカ・ワレニウスさんと、日本酒×クラフトビールの可能性を追求するぷくぷく醸造の立川哲之さんのコラボだからこそ生まれたニュータイプな1本。

同時発売の赤ワイン粕を使った「はじまりのハードサイダー #01 2024」、オレンジワイン粕を使った「はじまりのハードサイダー #03」と飲み比べて、それぞれのユニークさを体感するのもオススメです!

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