ブックガイド(79)「おもちゃ絵 芳藤」

創作者の人生に共感


 大絵師・歌川国芳の弟子である芳藤を主人公に、創作者の人生を描いている。最年長の弟子でありながら、後進の弟子たちより才能に劣るという自覚のある芳藤。回ってくる絵の仕事は美人画でも役者絵でもなく「おもちゃ絵」と呼ばれる子供の遊びのための絵なのだ。
 この芳藤というキャラに私は自分を投影して胸が詰まるような気持ちでページを手繰った。小説を書いて物語を綴りながらも、一向に知名度が上がらず、会社員という本業に振り回され、その作品すら書けずに心を病んだ自分。
 だが、ラスト。芳藤は自分の人生にしっかりと納得する。満足感を得る。人生を全うする。決して華々しい成功を収めるわけではなくとも。地道な努力の積み上げが、子どもたちの歓声や笑顔で帰ってくるのだ。その芳藤の心情に、「そうだ、そうだよ。だから書き続けるんだ俺は」と共感が湧いたのだ。
 江戸末期から明治にかけての情景が情感たっぷりに描かれて、まるで絵のような文である。(←私の最大の誉め言葉)

 才能やチャンスに恵まれることはなかったが、絵を描き続ける芳藤は、市井の職業人そのものではないか。私は気づかされた。すべての人の人生は「芳藤」なのだ。
 その気づきが共感につながって、静かな感動を覚えた。名作である。

「おもちゃ絵 芳藤」
「おもちゃ絵 芳藤」(文春文庫)


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