映画レビュー(56)「ワンスアポンアタイム・イン・ハリウッド」
おなじみタランティーノ節を堪能した。
この作品は、あの1960年代末のハリウッド映画と、悲劇の女優・シャロン・テートに対するタランティーノの愛が詰まった映画である。
二人のモデル
ブラッド・ピットとディカプリオの役は、それぞれ、ハル・ニーダムとバート・レイノルズだと言われている。映画「キャノン・ボール」でおなじみのコンビだ。
バート・レイノルズはテレビ出身の俳優で、「トランザム7000」とか「キャノンボール」とか、十代の頃にスクリーンで出会っている。ハル・ニーダムはスタントマンで映画の監督もやったという人物で、物語同様二人は親友だったという。実は、この映画にも出演がオファーされていたのだが、その前に病没してしまった。
時代色の再現が見事
当時のヒッピー風俗、日本ではフラワームーブメントだのニューエイジなどと持て囃されていたけど、実際の現地では鼻つまみものだったことが描かれていて驚いた。
確かにそうだろうなと思う。ヒッピーなどになれたのは家が金持ちの大学生などで、学費のために兵役に就いていた貧しい青年層など、ベトナムから帰国したら殺人者扱いで、同じ世代で戦争に行ってない連中がフリーセックスだLSDだロックミュージックだのと楽しんでいれば腹も立とうと思う。
ちなみに、その怒りを描いたのが「ランボー」第一作である。
作中では、ラジオから流れる音楽、テレビに映るドラマなど、凝りまくっている。そしてシャロン・テート事件。
この事件は、1969年、チャールズ・マンソン率いるカルト教団の信者三人がポランスキーの家で、妻のシャロン・テートと友人二人を殺した事件。マンソンはシャロンの前にその家に住んでいたテリー・メルチャーが、マンソンの音楽をメジャーデビューさせられなかったことを恨みに思っていたという。しかも犯人は死刑判決を受けながら、州法の改正で死刑が廃止され終身刑に減刑されていた。
憧れの女優を救いたい
タランティーノは1963年生まれ。チャールズ・マンソンにシャロン・テートが殺されたころはまだ幼児である。映画ファンのタランティーノは物心ついたころにすでに亡くなっていたシャロン・テートに、恋焦がれていたのではないか? だからこそ作品の中では、マンソンファミリーを彼女の隣の家に忍び込ませて、犯人たちを残酷に殺している。せめてスクリーンの中で死刑にした感。
あの火炎放射器の下りは「イングロリアス・バスターズ」っぽい。
作品内では、若いヒッピー娘とシャロン・テートによく似た印象を与えている。どちらも足を投げ出して座るシーンがある。ヒッピー娘は車の助手席、シャロンは映画館。この自由奔放な姿が、また69年の風俗なのだ。殺されたシャロン・テートはヒッピーたちに対しても偏見のない、むしろ同じ種族のような女性だったのに。
エンディングはイタリア映画?
エンディングの誰もいなくなった駐車場の鳥瞰シーン。流れる音楽もエンドロールの文字も、まるで、イタリア映画のムード(ジュゼッペ・トルナトーレ味)が横溢している。
私は、この映画はタランティーノ監督にとっての「ニュー・シネマ・パラダイス」なのではないかと思った。ハリウッド映画とそれが生んだ夢に対する愛である。
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