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今そこにある名所~みちのく盛岡編/連載エッセイ vol.104

※初出:知事認可・岩手県カイロプラクティック協同組合発行、「姿勢ッコくらぶ通信 vol.106(2018年・第3号)」掲載(原文ママ)。

おかげさまで、相も変わらず毎日を忙しく過ごさせて頂いている。

約3年前の「博士号取得」をピークとして、海外出張の頻度は(個人的には哀しい事に)年間1~2回程度と、だいぶ落ち着いてきているが、国内出張の方は高止まりのまま。

通常の「プロ対象のセミナー講師」としての出張に加えて、今年は一般市民を対象とした「大規模講演会の講師」として、地元・岩手の他にも、夏には兵庫、秋には石川から「ご招待」を頂戴している。

まぁ、仕事以外では全くの出不精な人間なので、こういったお誘いは非常にありがたい……寄る年波モンダイは置いておくとして。

さて、ひとたび「個人的未開エリア」を訪問すると、普段地理的に抑圧気味な県民気質への反発からか、空き時間を駆使して「街歩き」をしたくなるのがワタクシの性分。

そして、招致側の現地担当者が、その辺りの心情をわかっていたりすると、その街の要所を堪能できるような「駆け足ツアー」をセッティングして頂く事も多く、感謝感激である。

一方、あまり機会はないのだが、私の地元に県外から客人を迎えた場合、どこを巡ろうか。

もちろん食文化に関しては、さほど問題がない。

現在の私の活動拠点であり、生まれ故郷でもある盛岡では、「冷麺・じゃじゃ麺・わんこそば」の所謂「盛岡3大麺」が「不動のエース」格であろうし、最近では、全国の「コッペパン好き」から「聖地」としてあがめられている「Fパン」がある。
食通には「岩手短角牛」という手も捨てがたい。

しかし問題は、所謂「観光スポット」。
いや、岩手に名所名跡がないわけではない。
ただ、それらが広い県土に点在している為、気軽に「駆け足ツアー」として回れないのである。

例えば、世界遺産として名高い「平泉」は、盛岡から90km弱も離れている為に、旅行会社の企画する旅程的には、同程度の距離(約100km)の仙台観光と絡められる事が多く、なかなか県内他地域の観光活性化に繋がりにくいとの話も聞く。

そのような状況を鑑みて、私がいま、イチオシしたい「今そこにある盛岡的名所」……それが、東北新幹線・盛岡駅南改札口から階段を下りてすぐの「S書店@駅ビル」である。

このS書店、これまでも出版業界や本好きには有名な店舗であったが、最近、あるニュースをきっかけに、マスコミで全国的に取り上げられる機会が増えている。

そのニュースとは、総務省が行った2017年の家計調査で、全国の都道府県庁所在地・政令指定都市の1世帯(2人以上)当たりの書籍購入金額において、盛岡が全国1位となった事。

そしてこれは一過性のものではなく、過去5年間でも東北で1位を維持しており、2004年にも全国1位を獲得している。
つまり盛岡には、他の地域より幾分、読書に向き合いやすい環境があるという事らしい。

報道ではその理由として、宮沢賢治をはじめとする地元出身作家の名作に幼少時から触れやすい事、地元出身・在住作家の相次ぐ文学賞受賞やベストセラーの存在、全国きっての「サブカル首長」として名高いT知事自らが監修する地元ゆかりの作家による地元を舞台としたマンガ集の7年連続刊行……などが挙げられ、その「真打」として紹介されるのが、このS書店の様々な取り組みなのである。

出版書店業界で「岩手にS書店あり」と呼ばれ、数多くの「みちのく発ベストセラー」を産み出す「伝統的手法」として有名なのが、道行く人の足と視線をとめる熱量の高い「手書きPOP」であり、「新進的手法」として話題となったのが、表紙をオリジナルの手書きカバーで覆ってタイトルと著者名を隠して販売し、ヒットを記録した「文庫X」である。

実際、S書店には、その実績にあやかるべく、全国の書店から視察が絶えないそうである。

しかし、一般客として通い続けていると、そのような分かりやすい「手法」の向こうに浮かび上がる、書店側の「ものの見方・考え方」が感じ取られる。
そして、その「空気」に触れたくなり、更に足を運ぶようになるのだから面白い。

その言葉にし難い「雰囲気」の元を探る上で、ヒントになる書籍が現段階で「4冊」刊行されている。
そしてそれらを上梓しているのは、なんと「元」を含めた4人のS書店員自身なのだ。

時系列でいくと、まずは現在の「S書店DNA」の基礎を築いたI氏。

東京の書店勤務を経て、地元岩手のS書店(本店)へ移籍、やがて名物店長になった軌跡を綴った奮闘記で、高校時代の私が独特のPOPに引き寄せられて手に取った本が実は、I氏が文庫担当になって初めて販売を仕掛けた本だと知り驚愕。

続いては、現在のS書店@駅ビルを創りあげた前店長・T氏。

大通りのライバル店、そして実家の小規模書店を経て、旧知のI氏に誘われる形でS書店入り。
S書店DNAを継承発展させ、これからの時代の「街の本屋」を見据えた書(個人的には、この本からの読み始めを推奨)。

お次は、「文庫X」を生み出した、現時点でのエース店員ともいえるN氏。

その順風満帆とは呼べないかもしれない人生によって培われた独特でクールな観点が、次にどんな良書を「発掘」してくれるのか、そんな期待感が煽られる。

最後は、同じ駅ビル内に、異なったコンセプトの2号店を立ち上げ、現在、1号店の店長をしているM氏。

大きな存在であるT氏と若きカリスマ的なN氏の狭間に立ちながら、時にシニカルな文体で綴った文章は、4冊中最もクセが強いかもしれないが、それがまさにクセになる感じ。

……と、なにやら似非書評の様に書き連ねてしまったが、要はS書店に流れるのは、これからの時代にも必要とされる存在でいる為に、書店として今出来うる限りの事を仕掛けていこうという、「受け継がれる気概」なのだと思う。

その溢れる思いの形としての発現が、「POP」であったり、「文庫X」であったり、「次なる企画」なのであろう。

いつの時代も大切なのは「意図」であり、「方法」は後からついてくるのだ。
そして、その熱にあてられて人の心は動き、やがて大きな潮流を形作る……。

盛岡に電車でお越しの際は、是非ともS書店に足を運んで頂きたい。
そこには「書店」に形を成した現在進行形の「みちのく魂」がきっとあるはず。
そして何気なく手にした本を、騙されたと思ってレジまで連れて行ってあげて頂きたい。
そこには「自己の価値観の外側に繋がる扉」があるかも。

但しそこに、何かしらのエナジーチャージをする為、店内徘徊するワタクシの姿があったら……ソレはソレでそっとしておいて頂きたい次第である!!


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