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食卓の異邦人/連載エッセイ vol.101

※初出:知事認可・岩手県カイロプラクティック協同組合発行、「姿勢ッコくらぶ通信 vol.103(2017年・第6号)」掲載(原文ママ)。

ただいま日本は西側から、『超大型』と称される台風の猛威に曝され始めているようである。
一方私は、その真逆と言わんばかりの眩い夕日に照らされながらPCのキーを叩いている。

しかしその場所は、いつもの陸奥ではなく、韓国は仁川国際空港の出発ロビー。
そう、私は一昨日から約10ヵ月振りとなる韓国を訪れ、『国際カイロプラクティック会議(ICoC)2017』に参加していたのだ。

今回も20名程の日本の仲間達と会議に参加していたのであるが、その殆どが関西方面へ帰る面々であった為、軒並み飛行機は欠航。
無事に日本へ旅立てそうなのが、関東方面へ向かう私のみという、非常に困った状況となっていた。

そんな訳で、私以外の方々は、期せずして異国の地に『延泊』。

海外滞在の好きな身としては、内心『おいしいなぁ…』などと不届きな考えも過ぎりはしたが、私自身、無事に祖国へ到着したとしても、かなり際どい乗り継ぎで東京駅へ向かい、高速深夜バスに乗り、明朝に岩手へ戻った後、昼過ぎにはお客様に対応するという強行軍のスケジューリングを組んでいる為、ここは大人しく帰国するのが賢明である……と自分に強く言い聞かせている仁川の夕暮れである。

さて今回は残念ながら……というか、初めて『ICoCへ参加する岩手県人が私のみ』という旅程であった。

2010年に始まったこの会議、今まで何気に岩手から複数名参加するのが通例ではあったのだが……まぁ、年明けには恒例のアメリカ研修も予定され、それには史上最大数の岩手からの参加者を数える予定なので、皆にはそちらに備えてもらう感じで、今回は久々の一人旅と相成った。

距離と日程の都合上、私はソウルに前日入り。

翌日の午後に、他の日本人参加者と合流する予定である為、それまでは文字通り『独り』で時間を過ごす事となる。

……といっても、それ自体は然したる問題ではない。

韓国ハンソ大学院の博士課程に在籍していた頃は、当たり前の様に独りで渡韓し、『同級生』と合流するまでは、独りでホテルに滞在し、黙々と課題に取り組んでいた。

しかし実は厄介なのが……食事事情なのである。

いや、韓国料理が口に合う合わないの話ではない。

むしろ彼の地の料理は大好きである。
元々、唐辛子系の辛味は、盛岡冷麺で幼少時より鍛えられているせいか、全く苦にならないし、初めて訪韓した人が一様に驚くように、韓国料理は野菜をふんだんに使用するので、身体にも優しい。

だから、味や食材の問題ではない。

では、ナニが厄介なのかというと……その食事形態(フォーメーション)……。
つまり、韓国では基本、外食する際は複数人で臨むのが通例で、『独りご飯』という形態が想定されていない。

その為、独りで外食しようとすると、訪問できるお店が限られてしまうのだ。
(最近では、『ホンパッ:「ホンジャ・パブル・モッタ=独りでご飯を食べる」の略称』も認知され始めてきているが、まだまだ一般的ではない様子。)

そこで今回、問題発生。

私は海外に出張した際、また(お金を稼いで)来られます様に……と願を賭ける意味で、次回訪問時に行きたいお店をロックオンしてから帰国するようにしている。

そして、前回の訪韓時に、心へ刻み付けていたのが、最近、日本でも流行の兆しを見せている『タッカルビ(鶏モモ肉と野菜のコチュジャン甘辛炒め)』の有名店。

しかし、テーブルに備え付けられた大きめの鉄板で調理しながら食すその料理は、おおよそ『独りご飯』に似つかわしくない。
当然、お店としても『独り者』は、基本入店NGとの事だった。

困った……。

ここで代表的な『独りご飯』対応品種である『麺料理』に逃げるのは簡単である。
しかし、10ヶ月間も熟成させた『タッカルビ』への熱き思いを、このまま無に帰すのは正直忍びない。
途方に暮れた私は、異国の往来のど真ん中で、徐にスマートフォンを起動させた……。

すると……あった!! 

『独りご飯OKなタッカルビのそこそこ有名店』が!!

通常、海外ではケータイの電源はオフにする私であるが、その禁を破った甲斐があった。

口コミを参照すると、地元民だけでなく、欧米人の『独りご飯』もよく見受けられるとの事。
更に、繁忙時間帯を避ければ、なお宜しいとの事。
時刻を確認すると、その時点で午後3時前。

よし……イケル!!!!

繁華街のメインストリートから、一本外れた、それでもそこそこ賑やかな場所の2階に、その店はあった。
細い階段を、逸る気持ちを抑えつつ、しかし確かに上方を見据えて歩を進める私……。
さあ……このドアを開ければ、10ヶ月間、想いを馳せまくった『夢のタッカルビワールド』入国完了だ!!!!

『ア……アニョハセヨ~~……。』

そして、熱気に曝された私の網膜に映り込んだ風景は……現地の女性客達で賑やかに埋め尽くされた、ほぼ満席の店内の様子であった…。

『は……話がチガウ!!!!』 

呆然と立ち尽くす私を見て、状況を察した男性店員が、突き刺さるような他の女性客の視線を極力避けるように誘導してくれたのが、店舗の一番端にある、私のような大柄な男性であれば壁と袖刷りあう仲になれそうな、ミニマムな座席。

い……居た堪れない……。

しかし、そこは念願の『タッカルビワールド』。
息を潜めて、存在感を極力消し去りつつ、店員に向けて、チーズをトッピングしたタッカルビ一人前と、終盤に投入予定の焼き飯、そしてビールを注文した。

食べ放題のキムチを肴に、先に運ばれてきたビールを煽る。
このアウェーな雰囲気の中、存外にビールの減りが早い。

しかし、この気まずさも料理が運ばれてくるまでだ。
目の前の鉄板で、『食べてください食べてください、日本の御仁!!』とジュウジュウ音を立てるタッカルビさえ来てしまえば、あとはそれに没頭するのみ……実に楽しみだ……。

すると、厨房から出てきた店員と目が合う。
やれやれ、やっとお出ましか。
待たせやがって、コンチクショ~。
さあ、鉄板はアツアツで準備万端だぜ。
ヘイ、ブラザー……やっちまってくれ!! 
その真ん中へ……念願のタッカルビを……
さぁ……ダンク・イット!!!!

じゅ~~…………。 
ん……!? 
す……少なっ!!!!

そう……確かに『独りご飯OK』としていたとしても、元々は2~3人前を鉄板で賑やかに炒めながら、お喋りとともに食すこの料理。

鉄板の中央部にチョコンと盛られた1人前の量では、どう頑張ったって、貧相にならざるを得ないのである。

その後、無言で料理を食べ終えた私は、すぐさま席を立ち、会計に向かった。
見渡せば、私の後に入店者なく、私の前に退店者なし……。

まさにワタクシ、異邦人。
『ストレンジャー・イン・タッカルビワールド』な時間であった……。

しかし……やっちまった感を身にまといながら彼の地を歩きつつも、既にその繁華街内に次回訪韓時の訪問予定店をロックオンし始めている自分を確認する。

懲りないと言われればそれまでであるが、案外、そんな下らない気質が自分の行動を広げてくれていると強く信じる今日この頃なのである。
(言い訳!!笑)


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