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みちのく席取り合戦絵巻/連載エッセイ vol.48

※初出:知事認可・岩手県カイロプラクティック協同組合発行、「ほねっこくらぶ通信 vol.50(2009年2月)」掲載(原文ママ)。

通信発行のスケジュール上、毎度毎度いささか時期外れにはなってしまうが、親愛なる読者の皆様、あけましておめでとうございます。

我が岩手は例年になく穏やかな新年を迎え、私自身も昨年の様に元旦から車で国道上をスピンする事なく(ほねっこ通信vol.44参照)、すこぶる順調な仕事始めを迎えております。

(昨年のXmas付近が締切だったこの原稿に、年明けの状況を述べているこの業務進行自体、『どこが順調ぢゃ!!』という当通信編集長T氏の声なきツッコミには敢えて耳を閉ざすとして…。)

この駄文もいつまで続く事やら…まぁ、今年も付かず離れず気軽にお付き合い頂けたら幸いである。

さて昨年はこれまで以上に日本列島を駆け回った一年であった。

悲しいかな、その傾向は今年なお色濃くなりそうなのだがソレはさておき、公共の交通機関を数多く利用していると、時として思わぬ事態に遭遇する事がある。
新年最初のネタは、昨年末に起きたある『旅情サスペンス』をご披露する事としよう…。

その日私は、東京で開催される、海外のカリスマ・カイロドクターが講師を務める某セミナーに参加する為、早朝の新幹線を利用しようと朝霧の中ホームに立ち、滑り込んできた車両を覗き込んで座席の空き具合を確認しようとした。

大概にして私の県外出張の基点となるSH駅はそのローカルさ故、利用者数もたかが知れており、座れさえすればOKな状況で新幹線を利用する場合に、指定席を予約する必要はほぼ皆無であった。
しかしながら私は忘れていたのである…。
その日が連休初日である事を…。

そういえば窓口に指定席完売の表示が出ていたが…この事だったか…。

予想に反して混み合う車内の様子を察して、私は…
『バランスエクササイズ3時間コース(単に、揺れる車両内でただ立ち尽くすだけの運動=またの名を「拷問」)』
…を覚悟し、肩を落としかけた。

ところがである。
私が先頭で並んでいた車両前方入口周辺のみ、ポッカリと座席が空いているではないか!!
その数、約20席。
私は狐につままれた様な気分で車内へと突入した。

見下ろすと何故かその座席群には全て、未開封のペットボトルと恐らく菓子類が詰まっているであろう小袋が『子ども懇親会』で配られるおやつの様に鎮座している。

『JRの新手のサービスか?』と思いきや、そのスペースの一角で、困惑する他の乗客を見ない様、明らかに車外へ視線を逃がす存在がポツリと独り…。

そう、その人(以下、A氏)はあろう事か『自由席の陣取り』を敢行していたのである!!

1つ2つならまだしも、これ程の大掛かりな規模の『領地確保』には、さすがに私も遭遇した経験はなく、次の駅を目指し走り始めた車内で他の乗客同様、呆然と立ち尽くしていた。

しかしA氏がシラを切る以上、このままでは不穏な空気が漂いかねない。
ここは『水曜どうでしょう班』に次ぐ旅のスペシャリストを自認する私が状況を打開せねば!!
…と勝手な使命感に燃え、声をあげた。

『これぇ…マナー違反ですよねぇぇ…座りますよぉぉ…。』

ドウゥ~ン…!!

誰に向けられたとも言えぬ私の…
『控えめな一喝=またの名を「大きな独り言」』
…と、意を決し腰を下ろした座席の軋む音が車内にこだまする…。

静寂…。

乗客、後に続かず + A氏、引き続き無視 = 私、戦死…。

のぉぉ~かえって気まず~い!!
ある意味、『拷問』である…。

(ちなみに約1名ご高齢の男性が、座席に置いてあるモノ自体に気付かず、勢いよく座った途端に尻の下で炸裂した破裂音に驚きつつ、その後何事もなかったかのように席に落ち着くという、人生の含蓄を感じさせる事変が1件あった事を付け加えておこう。)

そうこうする内に、南へ向かう新幹線は行く先々の田舎駅で停発車を繰り返し、その都度、空いている席を発見したホーム上の笑顔が車内へ入った途端に曇っていく光景が繰り返されていた。

車両を繋ぐデッキにも乗客が溢れ始め、件の『空き座席』を遠巻きにして、遂には座席通路にも乗客が立ち始め、同時に理不尽な状況に対する静かな怒りのオーラも立ち込め始めていた…。

まさに一触即発の状況である!!
しかし誰も動かない!!
まだ動かない!!
今こそ目覚めよ東北人!!
東北人よぉぉ~…!!

結局…その場の空気に耐え切れなくなった私がスックと立ち上がり、デッキへ向けて歩き出した。
数車両後方にいるであろう車掌へ事態を報告する為にである。

ここまで殺伐とした雰囲気になってしまったら、後はこじらせない様、乗務員に任せるのが一番。
状況を聞いた車掌は『間もなく伺います!!』と答え、私は一足先に自席のある車両へと踵を返した。

幾つかのデッキと立ち乗りの乗客の間をすり抜け、自席のある車両へと戻る。
雰囲気は相変わらず最悪であったが、それが間もなく解消される事を知っている私の心は晴れやかでさえあった。
あの…静寂を破る怒声が耳に届くまでは…。

『ちょっとアンタ…これ何なん?』

通路を挟んで私の左斜め後方から聞こえてくる関西弁交じりの声の主(やはり東北人ではない、以下B氏)は、遂に均衡を破り、A氏に詰め寄っている様だ。

しかしそこはA氏、針のムシロな状況に数十分耐え続け死守してきた座席群を簡単には手放さない!!

押し問答が何度か繰り返され、B氏の怒りはピークを迎えようとしていた!!
固唾を呑んで見守る他の乗客達!!
車両内の緊張感は最高潮を迎えた!!
あともう少し待てば、平穏がもたらされる事を知らずに…。

結局(リターンズ)…またもや空気に耐え切れなくなった私はスックと立ち上がり、今まさに火花が堪忍袋に引火せんばかりの両人と、そして車両中の乗客へと向けて口を開いた。

『先程私が車掌に声を掛けて来ました。
 Aさん、これは明らかなマナー違反ですよ。
 荷物をどけてください。
 後ろに立っている方々も
 どうぞお座りください…』。

車内の固まった空気がフッと溶ける音が聞こえた。
A氏は不服そうな表情を浮かべたが、『間もなく(遅せ~よぅ!!)』到着した車掌にも注意され、渋々ペットボトルと菓子袋を回収し始めた。
あっという間に乗客で埋まる座席。
いつもと変わらぬ光景が広がった…。

思えばA氏も不憫である。
その後の状況から推察するに、彼女(実は若い女性)はツアー添乗員の様であり、指定席を確保できなかった分、始発駅からその新幹線に乗り込み、ツアー客の為の座席を確保していたらしい。

荷物撤収後、半ベソ状態で携帯電話の先の上司と思われる人物へ状況を報告している姿や、途中の駅から乗り込んできたツアー客達へ必死に頭を下げる姿を見るにつけ、なんだかコチラが悪い事をしたような気分になり、私は慌てて瞼を閉じ、居眠りを決め込む事にした。

そして、薄れゆく意識の中、私が最後に思った事…それは…

『爺ちゃんオケツに潰された菓子袋は誰の手に渡ったのであろう…?』

…という知る術のない疑問であった…。

旅にアクシデントはツキモノである。
今年の私は果たして如何なる状況に遭遇するのか?
さてさて次号は年に1度の恒例アメリカ研修ネタの予定である。
乞うご期待!!


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