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結婚の話

「既婚者なの!?」とびっくりされることがよくある。
自分でもたまに忘れてるので「そういえば既婚者だった!」とびっくりする。

夫と結婚して今年で15年、一緒に住んで19年になる。引くくらい長い。
何故私のような酒と男にだらしないおばさんがこんなに長く結婚生活を続けていられるのか。それは、もちろん夫が優しくて異常に寛大なおかげなのだが、それはそれとして「恋人として付き合ったことがないから」というのも一因だと思う。


19年前、私はピンサロ嬢だった。高円寺と野方の間にあるボロアパートから高円寺のお店に自転車で通勤していたが、そろそろ引っ越ししたいと思っていた。
しかし、どの物件を見てもいまいちピンと来ない。帰って寝るだけの場所に月7〜8万円も払うのは、どうにも納得がいかなかった。
当時の私は衣食住のどれにも興味がなく、服は乳首とま●こが隠れればよかったし、食事もラーメンかパスタがあれば充分だった。住居に至っては、空き巣に窓をバキバキに割られても翌日まで気づかなかった程だ(その時は引っ越ししたてで、室内に布団と服とパソコンしかなかったため、何も盗られずに済んだ)。
とはいえ、知らない人が勝手に土足で上がり込んだ部屋に住み続けるのは、やはり抵抗がある。
引っ越しはしたいが、高い家賃は払いたくない。だったら、人と一緒に住んで家賃を半分にしよう!と思いついた。当時はまだシェアハウスなんて言葉を知らなかったので、「共同生活」と言っていた気がする。
同居人を探している最中、別件で大学時代の友人に会った。
彼は同じゼミの一つ上の先輩で、物静かな男だった。ゼミの飲み会でみんながワイワイ話している中、か細い声で面白いことを言っていたが、誰も聞いていなかった。
在学中に文芸誌の新人賞を受賞し、周りが大騒ぎになった時も、彼はいつも通り静かにはにかんでいた。
その当時、私は中退する直前でほとんど大学に行っていなかったが、たまたま廊下ですれ違ったので、
「相田君(仮名)、受賞おめでとー!」
と声をかけたら、ニコニコしながら何か喋っていた。もちろん聞こえなかった。

その相田君と数年ぶりに会った際、今も埼玉の実家に住んでいると言うので「私と一緒に都内で共同生活しない?」と提案したところ、彼は即座に「…うんっ」と答えた。
翌週には一緒に部屋を決め、若いカップルに部屋を貸すことを渋る不動産屋に「我々は結婚する予定だ」と宣言し、そのまま夫婦として共同生活を始めた。4年後、籍を入れて正式に夫婦となった。こうして、我々は1秒も付き合ったことがないまま結婚に至ったのである。

今だから白状するが、25歳当時「知らない人と結婚したい」という願望があった。
結婚というものを経験してみたいけど、自分のような性格は間違いなく向いてない。もしこの先結婚したいと思うような人ができたとしても、必ず離婚するだろうから、最初から知らない人と結婚して離婚した方が「そりゃそうだよね」と思えて気が楽だ。それに、知らない人同士の距離感の方が、案外長続きするかもしれない。そんな風に考えていた。
戸籍と人生をかけた実験に付き合わされる結婚相手からすれば、迷惑極まりない話である。

「知らない人」ではないが「学校でたまに会ってた人」と籍を入れた結果、「案外長続きするかも」という予想を遥かに超えて長年寝食を共にすることになった。
また、昨年別居して離婚の話を進めたにも関わらず、何事もなかったかのように暮らしているのも「必ず離婚する」という当時の予想を大きく逸脱している。事は思う通りには運ばないようだ。
最初「なんか変だし面白いな」くらいに思っていた人が、今や自分の一部のような存在となってしまった。夫は私のことを「作ったものを食べてくれる珍獣」だと思っている可能性が高い。

昔、夫が「お金なくなったら荒川沿いで住めそうな場所見つけるからね(小声)」と言っていた。ホームレスになっても2人で住む気らしい。
私も大概だが、一番やばいのは夫なのではないかと思う。



普段の家庭内での会話はこう

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