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はじめてのそば打ち

先日、手打ち蕎麦の試食会にお呼ばれした。

お客さんの旦那さんが手打ち蕎麦をやっているということで、すでに2,3回手打ち蕎麦をいただいたのだが、
実際にお蕎麦を打っているところを見るのは初めて。

あらゆる物作りに精通している師匠にならって、私もアートに限らず、いろんな物作りが気になってきたお年頃。

そば打ちを実演で見れるだけでなく、できたてを頂けるなんて。そんなありがたいことはない。

とても楽しみにそば打ちを見に行った。

①水回し

そば打ちはとても工程が多い。ざっとあげると、これくらいある。

①     水回し
②     こね
③     延し(のし)
④     たたみ
⑤     切り

まずは、「水回し」といって、粉全体に水が行き渡るように、指先で粉と水をよく混ぜ合わせる工程から始まる。

そば粉

ふるいにかけたそば粉とつなぎ粉を入れ、よくかき混ぜ、水を少しずつ入れていく。

このとき、一気にばーんと水をいれてしまうではなく、少しずつ水を入れて指先で混ぜなければいけないらしい。
粉全体に水が行き渡るように、指先で粉と水をよく混ぜ合わせる。

また、そば粉によって水の分量が違うので、そのつど調整しているのだとか。

えー、めっちゃ繊細じゃーんとか思っていたら、お声がかかった。

やってみますか?

なんと「水回し」をやらせて頂けるらしい。

撮影に集中していて、説明をきちんと聞いていなかったので、もう一度丁寧に教えてくださった。(お手数おかけしました。)

混ぜ方自体に厳格な決まりはないが、指先を立てて、きちんと混ぜ合わせていく必要がある。

混ぜるというだけなのに、それはそれは繊細にそば粉を扱う。やってみると、意外に難しく感じた。

まぜまぜ

ただ、面白かったのが、最初は白かったそば粉が、水を加えるたびに「蕎麦っぽい」色になっていくことだ。

本当にすこしずつ水分を含ませていっているということなのだろう。

混ぜ終わった!

②こね

そば粉を混ぜたら、今度は「こね」の作業に入る。

そぼろ状になったそば粉をひとつにまとめて、しっかりと練っていくのだが、そば粉を練るたび、職人さんの体が前後に揺れる。

このとき、手の力で押すのではなく、体全体を使って、しっかりと練っていく。

そば粉が練り上がったら、今度は「菊練り」をしていく。
「菊練り」とは、そばの生地を内側に練り込み、団子状にまとめる作業のことだ。

生地を押し伸ばして内側に織り込む作業をくり返し、まとめていくと玉の中心に菊の花のようなしわができるところから「菊練り」というのだとか。

菊練り

とはいえ、綺麗な菊の花のように練るのは難しい。
こちらも体験させて頂いた。

私は右利きなので、左で手を添えながら、右手でそば玉を織り込んでいく。

こちらも、ばかみたいな力業はいらない。

玉を転がすように動かしながら、右肩を手前中央に練り込む。
練り込むときは、右手の腹、小指下の膨らみを使うらしい。

真よこで菊練りの手つきを見せてもらいながら教えていただちたのだが、
やること多くね?意識すること多くね?とちょっと困惑。

それでも、見よう見まねでやってみた。


玉を転がしながら、右端を真ん中に織り込んで…

うん、ムズい。
全然菊の花みたいにならない。
力加減も全然分からない。

やはり、職人さんは鍛錬の世界だなと思って、菊練り体験は終わった。

一方、職人さんが菊練りをしていくと、そば玉の表面がつるつるしてくる。

このつるつるした面が、そばの表になるらしい。

これが終わると、「へそ出し」をする。

中の空気を押しだしながら、こね鉢のヘリにそって玉を回転させ円錐形に整えていく。

すると、ドラクエにでくる「スライム」みたいな形になる。

へそ出し

スライム型のそば玉も、それはそれで味わい深いが、スライムのつんと尖っているところは平にしていく。

尖っているところを下にして、そのまま上から両手で押して平らにすれば、
菊練りのときにできた中央のしわはなくなり、全体がつるんとした形になる。

これによって、全体が磨かれたようにツヤがうまれた。

ていっ
おお〜

そしたら、次は生地をのばしていく。

③のし

そば打ちで生地をのばすことを、「のし」というらしい。

「のし」によって、そば生地を薄く一定の厚さになるよう伸ばしていかなくてはいけない。

まだまだ、完成まで道のり長し。

まずは、手でそば玉を平たくのしていく。これを「地のし」という。

丸いかたちが崩れないよう、職人さんは手の腹でまっすぐ力をかけて伸ばしていく。

地のし

平たくなってきたら、今度は綿棒で伸ばしていく。このときも、丸が崩れないようにしなければいけない。

この過程を「丸だし」という。

丸だし

綿棒でのばすと、楕円になってしまいそうだが、職人さんは丸いかたちを崩さなかった。

これには、綿棒を動かすときの、独特な手の動きに秘密があるみたいだ。

まず、猫の手のようにしてめん棒を軽く握り、外側から内側に、力を入れずに軽く押し付けるように転がしていく。

めん棒を握る両手が中央に近づいたり、離れたりと、よく左右に動く。

こうすると、均等に丸く伸ばせるのだとか。

手に注目!

そしたら、次は「四つだし」といって、角をだして丸い生地を四角くしていく。

このときも面白い動きをしていて、生地を伸ばしたかと思えば、くるくると捲いて、中央を軽く抑えながらのばしていく。

四つだし

するすると生地を棒からとくと、見事にひし形になっていく。

さっきまで丸かったのに…

これを何回も繰り返したら、気がつくと、丸かったはずの生地が四角くなっていた。

四角くなったぜ!

今度は「本のし」
部分的に丁寧にのしていき、形を崩さないよう、全体の厚みを均一にしていく。

とはいえ、厚みが均一かどうかなんて、端からみていて全然分からない。

横から確認することもあるが、職人さんはめん棒に生地をまきつけたときに厚みを確認しているのだとか。

生地ののび具合をみながら、「本のし」を丁寧に進めていく。

そば生地をのばしていくと、のし板からはみ出てしまうので、めん棒に巻き付けながら作業を進める。

このとき、真上から少しずつ力をかけて伸ばすのが大事らしい。これまた、繊細な作業だ。

しかし、「本のし」が終わると、ムラのないツヤのある生地ができあがった。

すごく綺麗だ。

この生地の美しさが伝われ!

④たたみ

生地の美しさに気を引かれていたら、生地に打ち粉が振りかけられはじめた。

そして、薄く均等にのばされた生地が手際よくたたまれていく。

職人さんはたたんだ生地を指さして、「クセでこっち側が厚くなってしまうんで、これが課題なんです」とおっしゃっていたが、全然わからなかった。


鍛錬を積んだら、そば生地の厚みも分かるようになるのだろうか…。

畳まれたそば生地も美しい

⑤切り

そば生地をたたみ終わったら、いよいよ最後の工程のカットに入っていく。

そば生地をまな板にのせ、さらにその上に「コマ板」をのせて上から軽く押さえる。

コマ板に包丁を垂直にあてて切り、包丁を少し傾けてそば一本分コマ板をずらし、また切っていく。


こちらの工程も体験させていただいた。

まず、こま板を手で押さえるのだが、職人さんは人差し指と小指だけで押さえていたのを、私は5本すべて使わせて貰った。

せっかくの手打ちそば。できるだけ綺麗に切りたい。

そして、包丁の持ち手を握るだけでなく、人差し指、もしくは人差し指と小指で包丁と支える。

よし、構えは万全だ。

※こちらは職人さんがやってくださってます。

職人さんは蕎麦を大体1mmくらいの厚さで切っているように見えたので、私もそれくらいの太さを目指してコマ板を合わせた。

包丁は垂直に、ずれないように…
ストンと切った。

このとき、私は押し切りをしてしまったが、普段使っている包丁と同じように、少し前にずらしながら切っても良いらしい。

では、もう一度。

包丁を傾けて、コマ板を少しずらして、切る。

これをリズミカルにトントンと切っていけるといいらしい。

むず。
でも、とりあえず、やってみた。

すると、そうめんのようなほっそいそばが出来上がった。
おかしいな、職人さんと同じくらいの太さで切ったはずなのに…。

そばが切り終わったら、そっと手で持って粉を払う。

これで、そばが完成!
道のり長かった。

※こちらの蕎麦は職人さんが切ってくださったものです。

いよいよ試食

切らせてもらったお蕎麦は、やり方を教えてもらいながらゆでた。

手打ち蕎麦は繊細なので、箸でがしがしと混ぜてはいけない。

お湯が沸騰したら、パラパラと蕎麦をゆでて、そのまま待つ。ゆであがったら、網でささっとすくい、水でぬめりをとって、氷水でしめる。

これによって、そばがしまり、強いコシがうまれるらしい。

そして、ゆであがった蕎麦はすぐに食べたほうがいいと聞いたので、私も例にならってすぐに頂いた。

うめえ。

スーパー売っているような機械打ちのおそばは柔らかいが、私がいただいた手打ち蕎麦にはちゃんとコシがあった。

しかも、表面がつやつや光ってやがる。

どうしてそうなるのかは分からないが、そば打ちは、沢山の工程を踏まえて丹念に作られていることが分かった。


水を混ぜる、練る、のす、たたむ、切る、ゆでる…
これら全部をぬかりなくやって、ようやくおお蕎麦ができあがる。

今回は、わざわざ蕎麦の実まで育てたらしい。

いつもすでに作られた手打ち蕎麦をいただいているが、こんなに手間をかけて作ってくださっていたとは。
ありがたい限りである。

「雑にやらない」「ズボラはだめ」
師匠から常日頃言われている言葉を思い出す。

「もの作り」は全般において、大雑把ではいけないのだな、と改めて思うばかりであった。


私の師匠、現代アート作家・日比野貴之のnote。

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