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ショートショート 語りかける人

*はじめに
このショートショートはフィクションです。

僕は最近、ボーとしてしまうことが多い。
なぜかはわからない。

朝起きたときや、通勤途中や、仕事中でも、
ボーとしてしまう。

自分ではどうにもできない。
あまりにもひどいので、かかりつけの医者に
いくことにした。

「どうしました。」

「最近、ボーとしてしまうことが多くて、
困っています。」

「どんなときに、ボーとしてしまいますか。」

「しょっちゅうです。休み中ならいいのですが、
通勤中や仕事中でもボーとしてしまうので、
困ります。」

「それは、お困りでしょう。
ここは専門病院ではありませんが、私はその
方面の診察もしています。少し診させて頂き
たいのですが、よろしいでしょうか。」

「どんなことでしょうか。」

「催眠療法です。
眠っているあなたに語りかけることで原因を
探るのです。」

「わかりました。お願いします。」

僕はベットに横になる。

室内が薄暗く調整され、耳に心地よい
音楽が流れる。

僕はウトウトと眠くなってきて。。

「あなたは、私の声を聞きます。
私の声に安心します。」

「はい。安心します。」

「私の話しかけることには、
何でも答えます。」

「はい。答えます。」

「あなたは時間を遡り、
昨日の午後にいます。」

「はい。昨日の午後にいます。」

「あなたは、今、仕事をしています。
いつもと違うことはありますか?」

「はい。
見たことがない白い服の人がいます。
でもその人は僕にしか見えないようです。」

「何をしていますか?」

「僕に語りかけてきます。」

「なにを語りかけるのでしょう。」

「さあ、それは。。。」

「いつから、それは始まりましたか?」

「1週間ほど前からです。
突然、僕の前に現れて、
語りかけるようになりました。」

「1週間前、あなたに何がありましたか?」

「さあ、それは。。。」

最近、この手の患者が増えている。
1週間くらい前から突然白い服の人が
現れて、語りかけるというもの。
寝ているときだけでなく、起きてる時も
語りかけるのも一致している。
でも何があったか尋ねると、皆一様に
口を閉ざす。

今日はもう少し強い催眠誘導を試みた。

「あなたはわたしの声に逆らえない。」

「はい。逆らえません。」

「何でも話したくなる。」

「はい。話したくなります。」

「もう一度聞きます。
1週間前、あなたに何がありましたか?」

「はい。
見えてはいけないものが、
見えるようになったのです。」

「どういうことですか?」

「・・・」

「話してください。」

「はい。
わたしには残り時間が見えます。
同時にその人も現れるようになりました。」

「何をあなたに語りかけるのですか?」

「その人はこういうのです。

『あなたに見える残り時間は、
この世界の残り時間。
 
そのわずかに残る時間の後には
終わりが訪れる。
 
わたしは天使。

あなたたち全ての使い。
 
わたしは様々な形で
あなたにわたしを
思い出させようとしたけれど、
叶わなかった。

わたしは夢の中で、
悦びや、楽しさや、
嬉しさの感情を伝えた。

わたしは夢の中で、
憧れや、好感や、
ずっと一緒にいたいという
想いを抱かせた。

わたしは夢の中で、
希望や、満足感や、
幸福感を思い出させた。

でも、
すぐに忘れられてしまう。

あなたは、
わたしから離れ、
わたしを忘れた。

終りを迎える今、
わたしはこれまでの
様々な出来事を
あなたに語ってあげよう。
 
わたしにできることは、
あなたを
寂しくさせないことくらい。
 
いつでも
あなたに語りかけよう。
 
終わりは、もう目の前。

でも始まりもすぐそこ。

そして繰り返す。』
 
あなたにもその人は現れます。

残りの時間を眺めながら、
この話しを聞くことになります。

いつまでも、
いつまでも。」

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