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【詩】かなしみのアリバイ

かなしみのアリバイ


 かなしみのアリバイ 

かなしみはそれっきりだった
西日はどこまでも赤かったような気がする
葉が揺れて夏なのに散って
人の命の尽きた日にラムネ飲んで
おれは風の中にでた
愛すべきしがらみは
プラカードでこしらえた棺と一緒に燃え
野辺のけむりとなって消えていった

あの連山の端は
うつむいて笑うお前の横顔のようだ
ああ やっぱり 西日はあの端山の向こう側まで
赤く沈んでいたのだった
野あやめを焙煎したような匂いに
おれのからだはいまも騒ぐが
かなしみはあれっきりだった

釘打つ音は 遠ざかる夏の靴の音だ
人は分かる範囲しか理解しない この
あたりまえのことが
おれを かなしみから脱落させる

さあ もうじき夕映えの検視官がやってくる
お前の脱ぎ捨てていった白いソックスを
初蝉の哭くこの野辺に埋めよう
おれのかなしみのアリバイを
隠すために


☆松山足羽の句「初蝉の哭くかなしみそれつきり」のオマージュです。


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