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【詩】黄昏ている


黄昏れている

自転車が黄昏ている
ブランコが黄昏ている
物干し台が黄昏ている
ブラウスが黄昏ている
ジャングルジムが黄昏ている
コルセットが黄昏ている
鉄棒が体育館裏が素敵な先生が黄昏ている

黄昏ている たそがれている

スーパーマーケットが黄昏ている
きみの作ったおいしかったオニオンスープが黄昏ている
コンビニエンスストアも黄昏ている
カップラーメンも茶碗蒸しも黄昏ている
街のカップルも警察官もお医者さんも隣りの三毛も
みんなみんな 黄昏ている

ほうづきが黄昏れている
さかなのさんまが黄昏れている
テレビのなかのヒロシが黄昏ている
きみの笑っている顔も黄昏ている

黄昏ている たそがれている

ぼくの初恋が黄昏ている
ぼくの夢が黄昏ている
ぼくの自由が孤独が
ぼくの私生活が
取れかけたシャツのボタンのように
きみの眼の中で黄昏いる

したがって

ぼくの世界文学全集は黄昏て
ぼくのマルテの手記も黄昏て
ぼくの資本論もムスタキも黄昏て

もちろん

いまぼくの横で
ぼくのものではない緑の帽子を
編んでいる君も黄昏ている

外ではもう
黄昏がたそがれている



私生活のささやかな事件がふたつ。

ひとつめ。ぼくの筑摩書房の世界文学全集を見て、妻が断捨離ねとひと言。
ふたつめ。その妻が最近小さな帽子を毛糸で編んでます。アニメのキャラクターのもののようです。先日、その子の生誕祭を娘とやっていました。


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