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【詩】春のわかれ

春のわかれ

 春のわかれ

あの日 とぼとぼと歩いた その足跡を
波がさらっていった 浜辺でもないのに 
 
 ぼくは あのとき 泣いていた
 のかも しれなかった

ただ 立ち去っていく背中だけがみえた

 あれは なんだったのか
 女といえばきこえはいいが
   
そうだ あの波は 街の白昼の断崖まで ぼくらが
わずかになった春をむしり取るように無言で働いた 
あのビルの解体現場まで たぶん 達していたんだ
もはや疲労は疲労でしかなく
心地よさはすでに掘り起こしようがなく

 金曜日 油断していた自由が
 月曜日には警察の拾得物係でやっかいになっている
 そんな気持ちが ふりそこねた雨のようでもあった

立ち去っていく背中がみえていた 
季節といえばきこえはいいが あれは明らかに 
断崖に身を投げにいく春の権利だった



#詩 #現代詩 #自由詩 #詩のようなもの #春

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