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気まずいオムライス

私が通っていた学校は、お昼ご飯がお弁当制であった。

"お弁当"制とはいいつつも、
登校時にコンビニに寄って買ってくるものOKだった。
学校にやってくるお弁当屋さんから買う方法もあった。

そんな中、なぜか母は私に毎日弁当を持たせることをポリシーとしていた。
おかずはいつも前日のおかずの残りと、卵焼き、時には冷凍食品に頼ることも多かったが、気づけば起床してから10分以内にお弁当を完成させるお弁当マスターとなっていた。
寝起きの悪い私は朝食をなんとか飲み込みながら、母が流れるような動きで着々とお弁当を詰めていく圧巻の手さばきをいつもぼんやりと眺めていた。

ただし、この時私は中学生である。
思春期真っ只中で、つまらないことで母と喧嘩をした。
ある時は、風呂に入っておいでと言われただけで、指図されたくない!と怒ってみたり。
今思えば何がそんなに気に入らなかったのか、わかるような、わからないような。いちいち怒る元気があって羨ましい限りである。

そんなこんなで母と大げんかをした日の翌日、
初めて母はお弁当を作らなかった。
勝手にすれば?と言われ、売り言葉に買い言葉、
はいはい勝手にしますよーなんて言って、
お年玉が入った財布を持って家を出た。

強気で家を出たのだが、それまでずっとお弁当を持たせてもらっていた私は
どこで昼食を買えばいいかもわからず、とりあえず学校についてしまった。
学校に来ているお弁当屋さんから買うことにした。

その場合、朝に予約食券を買ってお昼に受け取りに行くかたちなのだが、
いつもお弁当を持参するため、その予約食券の買い方も知らない。
お弁当屋さんの受付の前でもじもじしていると、
偶然クラスメイトがやってきた。そんなに親しくないクラスメイトだが、
背に腹はかえられぬ。
その子に話しかけて、どうやって買うのか教えてもらいながらオムライスをなんとか予約し、お金を払って予約券を受け取る。
これでとりあえず昼食は確保できた。

お昼になって、受け取りに行く。
その日は放送委員の担当の日だったので、オムライスを持ってそのまま放送室に行った。一緒に委員をやっている同級生と放送を流しながら、合間でオムライスを食べる。
その同級生は私がいつもお弁当を持参しているのを知っているので「珍しいね」と言われた。

事情を話したかどうかはあまり覚えていない。
チキンライスが薄焼き卵に包まれて、ケチャップのかかったスタンダードなオムライスだったこと、
ちょっと硬めに揚がった唐揚げが一つ添えられていたことは覚えている。

完食したし、決して不味くなかったはず。
けれども、
母と喧嘩してそのままになっているせいか、
お弁当の有難さをうすうす感じ始めたせいか、
あのオムライスと唐揚げの記憶と映像は、重い気まずさと共に脳裏に焼き付いた。

母にお弁当を持たせてもらわなかったのは、
この日とそのあと何年か後の1日と、合わせてたった2日である。

それから何年も経ったが、昼食の持参が必要な用事があると母がお弁当を作ってくれようとする。
外で食べるのが気恥ずかしく、断ってしまうこの頃である。

家で時々、母が卵焼きを出してくれる。
多くの場合、それは食材を切らしているときで、
母は「食材がなくって、、」とちょっと申し訳なさそうにする。
私は久しぶりに母の卵焼きが食べられて、実は嬉しい。

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