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夜は短し歩けよ乙女/著・森見登美彦〜読書の秋に私の読書感想文〜

秋の夜長は楽しみたいもの
できることならお酒を少し飲みながら
そんな時に読んでいただきたい本がこちら

「夜は短し歩けよ乙女 著・森見登美彦」

名作かどうかと言えば名作でしょう。
私の大好きな1冊。
強いて言うなら世に出ている活字のみで構成された書物の中では圧倒的に1番好きと胸を張って言える書物。
今回はそんな物語と出会った私の物語を少しご紹介。

大学3年の梅雨の時期
人より少し遅れ、2年の途中から入部した写真部の新入部員歓迎会
その日私は素敵な諸先輩方と親交を深めるべく、お昼ご飯を抜いてまで夜の新歓を楽しみとして挑みました。
場所は天王寺。
阿倍野界隈の複数並ぶビルの中に佇む、居酒屋の座敷宴会部屋でお酒を飲むわ飲むわで大いに酔っ払いました。
ビール、酎ハイ、ウィスキーロック
諸先輩方との会話は写真のことなどそっちのけで、色に金に下世話な話ばかり。
それがまた良い酒の肴となり、近くにいた女子部員たちからは真っ白な目で見られ続け、半ば意地の張り合いで酒を飲みながら話していました。
3時間飲み続け、居酒屋を出た私はいつもより酔っ払い、親交を深めるべく来たはずの新歓で2次回の参加を辞退し、心と胃を痛めながら帰路につきました。
少々落ち込みながらも、苦しい吐き気に耐えながら、来る明日の頭痛に意気消沈し、色々なことで後悔をしていました。
電車に揺られているとそれだけでしんどさは増すばかり。
急行車両で次が私の自宅最寄り駅というところで、外の空気を吸いたく1度ホームに降り立ちました。
しかしながら寒くも暑くもない季節とはいえ、ただ電車を待つのも勿体なく、定期圏内でしたのでお財布に一抹の不安を抱える私もそっと改札を出て、駅直通のショッピング街を歩くことに。
とはいえ夜も10時を回り、あまり明かりのあるお店も少なく、かと言って喫茶店に入るのも胃が疲弊しており断念。
するとそこで目に入ってきたのが書店でした。
CDレンタルも行う書店に引き込まれるように入り、フラフラと引きずり込まれるように歩いて行くと、そこには小説の海が広がっていました。
黒いラック棚には多くの有名作家の小説がずらりと並び、どれも面白そうでたまりません。
ゆっくりと目で吟味し、棚の本を手で撫でながら見ていると、ある所で撫でる手がふっと止まりました。
そこには文庫サイズの白い表紙に、大きく可愛らしい女の子の大きな横顔が描かれた小説が刺さっていました。
帯には「山本周五郎賞受賞作!!!」と書かれており、私は自分でも気付かぬうちにその本をレジに持っていき、中身の乏しい黒い長財布からお金とポイントカードを出し、その本を買っていました。
本を買ったことにワクワクドキドキしながら電車に乗り、自宅のある最寄り駅からフラフラと千鳥足で歩き、途中コンビニで温かいほうじ茶を買って自宅に帰りました。
胃の気持ち悪さと本を買ったドキドキワクワクが相反し、微かな差でドキドキワクワクが私の中で優位に立ち、私はお風呂に入ることを諦め、居酒屋独特の強烈な臭いを身に纏いながら、万年床のベッドに入り、買いたての小説を紺色のビニール袋から取り出して読み始めました。
元々読書は好きな方でしたが、この時ばかりは気持ちの昂りようが尋常ではありませんでした。
なんとその小説の始まりは、今の私の状況に非常に似通った設定になっていたからです。
小説は主人公の男女が交互に語り手となる書き方で、物珍しい珍妙な言い回しや表現が初めは読みにくいとさえ感じますが、次第に引き込まれるようになり、私は先程までの気持ち悪さはどこへやら、本の世界に入り込んでいました。
小説は4章構成で、四季を彩った内容となっていました。
第1章は春を彩り、まだ夜は少し冷えるこの季節にもってこいの内容で、更に今の私の状況に酷似しているものですから、もうこれは止まらず進むわ進むわ、先程の酔いも覚めていき、気付かぬうちに私はこの小説に酔いしれていました。
そして私はハッとして時計を見ると時間は短い針が2時を指しており、明日の講義が1限目からであったことに気づき、時すでに遅しかと明日の朝を捨てることを決意するのでした。
第2章まで読み終えた私は、とてもこの小説を今すぐ読み切るのが惜しくなり、惜しみながらもレジで頂いたこの小説とは違う版元の栞を挟み、深い眠りにつきました。
案の定翌朝起きてみると私の頭は悲鳴をあげるように痛み、吐き気は無いものの内蔵全体が不快感に襲われ、苦しみに悶えました。
しかしながらいつもなら昨夜の行いを後悔しているところでしたが、今回ばかりは全くそう思わず、むしろ清々しい気持ちでいっぱいでした。
二日酔いの朝、必ずと言ってもいいほど今でも「もう二度と酒は飲まん!」と思うのですが、この時ばかりは「今すぐに本の中に登場したお酒を買って飲みたい!」とまで思っていました。
結局残りの2章はと言うと、3章はその年の秋の学祭終わりの日の夜に、4章はその年のクリスマスイブの日の夜に、酒を飲んだ後1人楽しく万年床のベッドで読み、感動を得ました。
その数年後この小説はアニメーション作品として映画化されるわけですが、そちらのご感想はまた如何程に。
この小説と出会ったことで、私の残り約2年ほどの大学生活はまた新たな彩りを放ち、今の時代にそぐわない学生生活を送ることとなったのですが、結局私のお財布から安心感が芽生えることはなく、常にお酒と小説にせがまれ続け、不安を持ち続ける自転車操業となるのでした。
1杯1杯また1杯
京都を舞台に奇想天外な物語を統べる乙女と私の物語。
天真爛漫で奇想天外な黒髪の乙女と、その黒髪の乙女を追いかけながら自己肯定を続けながらも全く素直になれない冴えない私の紡ぐ最高の京都学生物語。
春夜の四条木屋町先斗町界隈、真夏の下鴨神社に秋の京都大学の学園祭(京都大学と明言はされていないが)、そして真冬の糺の森
読んでみたら絶対今すぐ京都に行きたくなる小説!
奇才・森見登美彦氏が名作
夜は短し歩けよ乙女
表紙のイラストはこれまた超人気イラストレーターの中村佑介氏の一作
是非秋の夜長にお酒を飲みながら読んでいただきたい1冊!
オススメです!

お酒を飲み続け、ぐるぐる回る世界の中で私はまた言うのでした。

夜は短し歩けよ乙女

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