8.深夜散歩と怪異譚

あれは少し肌寒かった頃、11月だった。東京深夜の温度が好きで散歩をよくしてた。毎回決めてたことは『自分が自力で帰ってこれないところまで行く』だった。なんとなくで方角を決めて、歩いたことのない方の道をいく。

池袋から少し行ったところ、(今でも当時でも場所は全く分からない)高速道路の高架下にひっそりとした公園を見つけた。深夜2時だから周りに人は全くいなかったが、ブランコに揺られる女性がいた。自動販売機の灯りぐらいしかなかったはずなのにやけに目立って見えてハッっとしたのを覚えている。なぜだか分からないが直感的に"何かを待っているんだ"と思った。
正直なぜかは未だに全く分からない。ゆらーゆらーとブランコに揺られて顔は全く見えなかった。東京ではこんな深夜にも人がいて、誰かを待ってる。壮大で懐がふけぇやなんてぼんやり考えた。

それからしばらく細い道を選んで歩いた。気が付いた時には大きな団地のなかに迷い込んでいた。何回曲がっても同じところに行きつく。夢でも見ているのではないかと錯覚して不思議な気分になった。着込んでいたこともあって少しだけ背中に汗をかいていた。それが冷たく背を流れるのを感じて、ゾッとした。大きな団地。人の気配も灯りも全くない。もちろん深夜だから当たり前なのだが住んでいる人の気配も全くないのに近くの公園は新しくて妙な違和感を感じた。パッと後ろを振り返るとカーブミラーに自分だけが映っている。自分を見ている自分だけが映っていた。

夢うつつのような感覚でまた同じ道を引き返してまた迷う。不思議な感覚で少し胸が高揚する。速足で歩いて着いた先には小さな神社があった。灯篭の灯りがいやに真っ赤で目立っていて視線はそこに誘導されるように自然と向いた。狐がこっちを向いていた。私はそちらへ歩いていき、手を合わせて祈った。なんとなく。そこから右手側へ歩いていき、開けた道路で車の走行音が聞こえた途端に身にまとっていた空気が変わるのを感じた。

今でもそこがどこだったのかは分からない、ただ深夜に散歩をして迷っただけとも思えるし、なんだか狐に化かされていたのではないかとも思えるし、異世界にしては和風で古風すぎたので違うような気もするが考えられなくもない。深夜の散歩は案外悪くない。でも特段おすすめもしない。
一つ言うことがあるとするならばしっかりと充電したiPhoneは携帯しておいた方がいいということだけである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?