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王の帰還 罪と慈悲の物語

★注意 この日記にはロード・オブ・ザリングのネタバレがあります。

ロード・オブ・ザ・リングと原作の指輪物語について書こうと思えば、いくらでも書けそうだが、今日は三部作目の王の帰還について。
先週の授業の課題はロード・オブ・ザ・リング三部作だった。
ゴールデンウィーク中ということで出したが、この映画も既に古典映画になりつつあるので若い人の課題には向かなくなってきている。
ただ、まぁ講師陣としては観ておいてほしいのよね。
物語作り、特にファンタジーを書きたければ、必ず通る道なので。

生徒の感想の中に「いくつかご都合があったが面白かった」というのがあった。
最後ゴラムだけが火口に落ちてフロドが助かったのはご都合だと書いた子がた。
いや、いいところに目をつけたね。
そこは全然ご都合ではなく、この作品が名作と言われるところなのだ。

フロドは火口に指輪を投げ込む寸前までいくが、ここで躊躇ってしまう。
人間以上の力を持つガンダウルフやガラドリエル、英雄アラゴルンさえも持つのを拒むほどの一つの指輪。
旅の仲間では高潔なボロミアでさえ正気を失ってフロドに襲い掛かってしまう。
映画だとイマイチ伝わりにくかったかもしれないがボロミアは原作では、立派な男なのだ。悪役が多いショーン・ビーンが演じていたので余計に
そう感じた人もいるかもしれない。

途中何度も挫けそうになりながらもフロドは誰にも出来ないことを為そうとする。
しかし、指輪の力は強大でフロドは「これは私のものだ」と指輪をはめて消え去ってしまう。
消えた瞬間にフロドに飛びついたのはゴラムだ。ゴラムはフロドの指を食いちぎり遂に指輪を取り戻す。
しかし、足を踏み外したゴラムは歓喜に包まれながら指輪ごと溶岩に飲まれ溶けてしまった。
一つの指輪は破壊され冥王サウロンは滅んだ。

確かに都合が良く思えるかもしれない。何故、フロドは助かったのか。
それは慈悲の心である。
一見怪物に見え、指輪を狙い自分の命を狙うゴラムをフロドは旅に同行させるのか。
確かに道案内は必要だったが、それは大きな理由ではない。
フロドはゴラムに自分を重ねていたからだ。
この世界で指輪長く持つ苦痛、苦悩を知っているのは義理の父親であるビルボ、自分(フロド)、そしてゴラムだけなのだ。
フロドは「私もいつゴラムのようになってもおかしくない」と思いゴラムの同行を許す。
ゴラムもフロドの優しさに触れて二つの人格で葛藤する。
そうゴラムも昔は「気のいいホビット」だったから。

それにしても映画版のゴラムはアンディ・サーキスの名演もあって超絶にウザい。
俺がサムだったらフロドの静止も聞かずにマウントパンチで再起不能にしていた可能性が高い。
でも、もしサムがゴラムを〇していたら指輪は破壊できなかったんだよね。

フロドは最後の最後で誘惑に負ける。
普通のお話だったら誘惑に負けずに捨てるかもしれない。
そうなると、英雄の物語になる。英雄だから偉業を成し遂げられる。
僕や私とは違うから出来たんだと。
指輪物語は違う。
英雄ではない普通の気のいいホビットが忍耐強く頑張るが、抗えない程強い力に敗北する。
しかし、欲に敗北したフロドが、欲に飲まれたゴラムに指輪を奪われる。

冥王サウロンはフロドが指輪の魔力に打ち勝てないことはわかっていたはずだ。
意志のある生命体が指輪の魔力には抗うことは不可能なのだ。
アラゴルンの祖先英雄イシルドゥアでさえ無理だったのだから。
はじめから「無理ゲー」というやつだったのである。
サウロンの思惑を破るには「運」が必要だった。

生命が利己的であればあるほどサウロンには有利だがフロドがかけた慈悲が不確定要素のゴラムを呼び込んだのだ。
ゴラム自体も闇の力の影響下にあったので、サウロン自身が作り出したと言ってもいい。

もし、フロドは指輪を手に入れることができても、すぐサウロンに奪われるか良くて第二ゴラムになるぐらいだろう。

おそらくアラゴルンもガンダウルフも戦で死んでしまうので、今度こそ闇の世界がくるだろう。

結局、自らが心を弄んだゴラムのせいでサウロンは敗北する。
ゴラムが足場の悪いところで我を忘れて跳ね回ったのも我を忘れるほどの狂気を指輪が与えたからだ。

フロドは物語的に死ななかったのはゴラムがフロドの業を背負って死んでくれたからだ(本人には、そのつもりはなかっただろうが)。

指輪への執着もゴラムが食いちぎった指と一緒に持っていってくれた。
フロドは指輪から解放されホビット庄へ帰ることができた。

英雄ではない「普通の人々」の小さい善意が世界を救う。
これが神話や、指輪以前に書かれた物語にはなかった要素。
英雄にはなれなくても誰でも普通の人にはなれる。
だから、指輪物語は世界中の人に愛されるんじゃあないかと思う。


指輪のことを書くと止まらんので、このへんで終わり!!


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