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アーティスト桃太郎と仲間たち、カエルの背中革命

アーティストという人たちと話をすると、世間の常識や一般的な安定とかけ離れた生活をしていて、いろんな生き方があるのだな、と興味深くききます。

世の中には、どうやって成り立っているのかよくわからない商売や、どうやってそこまで到達するのかよくわからない職業があると思います。スズメの交尾は見たことがなくても(見たことありますか?)、スズメの繁栄が成立しているように、プロセスがわからなくてもいろんなことが事実としてあるわけです。

私は職業アーティストの知り合いがいなかったもので、そもそも友人も知人も少ないから無理もないのですが、どうやって生きてるんだろう、と想像しづらいところがあります。

ある時アメリカから来た2人の青年と話をしました。

彼らは、私が住む島にある、アートギャラリーが主催するレジデンスという制度で滞在していました。アーティストは、居住空間を備えたアトリエに、1ヶ月間無料で住んで制作活動ができます。その滞在中に、アトリエ一般公開の日があり、客は無料で見学でき、アーティストは自分の作品を説明したり、会話したり触れ合える日です。

この無料で楽しめるアクティビティを相方と私は気に入っていて、時々、バスで1時間かけて見学にいきます。ギャラリーからしたら、作品を買いもしないのに度々やってくる、1円の足しにもならない肩透かし客なわけですが、人が多い方が賑わっている雰囲気が出るでしょうから、我々はその活気に一役買っていると自負しています。金魚すくいの屋台で、水に金魚が1匹しか泳いでいないよりも、赤いのやら黒いのやら出目金とかたくさん泳いでいる方が盛り上がりますよね。

このギャラリーで話をしたのは、20代半ばくらいかなという気さくなエマくん。もう1人、小柄でさらに若そうに見える青年、リキくん。

私たちはてっきり彼らがアーティストだと思って会話していたのですが「僕らはアシスタントで、アーティストじゃないんだ」と言うので私たちは驚きました。レジデンスに、そこに家族やパートナーを連れてくる人は見たことがあっても、アシスタントを引き連れてくる人は見たことがなかったもので。しかも2人も。

もし、動物園にホッキョクグマを見に行って写真を撮っていて、よくよく見たらホッキョクグマじゃなくて飼育員さんだったら、びっくりしますよね。

私たちはそのアーティストには会わなかったのですが、結果としてアシスタントの青年たちとの会話をとても楽しみました。

エマくんとリキくんは、ニューヨーク在住。「ニューヨークはなんでもあるよ、想像し得るありとあらゆることが見れるし起こってるし、クレイジーな店もあるし。でも、ここもいいね、あるものは限られてても充分で、意外と楽しくやってけるんだなって思うよ」と、アメリカ英語で若者らしくカジュアルに、フランクに、モニャモニャと話します。

彼らは学生時代からの親友。「僕らが通った学校は、ニューヨークの郊外なんだけど、たまたま金持ちの子供が多く通う学校でさ。みんな休暇にどこに行くとか、持ってる船の話とかをしてたんだけど、僕たちだけ普通の家庭の子どもだったから、僕らは仲良くなったんだ」と教えてくれました。エマくんの家族はメキシコ出身、リキくんの家族はブラジル出身だと言いますから、おそらく彼らは移民第二世代なのでしょう。

エマくんは、アーティストのアシスタントですが、彼自身はフォトグラファーです。アシスタントを雇えるなんて、このアーティストはずいぶん成功しているんだね、と私の相方が言うと「ここにレジデンスに来ているアーティストに超成功してる人なんていないよ」と笑いながらエマくん。

そうは言っても、アシスタント2人に給料を払えて、海外まで連れてくるなんて、その財力は職業アーティストとしてある程度成功していないと叶わないのではと想像するのですが。

エマくんがアーティストと出会ったのは、アーティストの女性が道で荷物をトラックに積み込んでいて、それを通りかかったエマくんが助けてあげたとこから、会話して、意気投合して、手伝うことになったんだよね、みたいなきっかけでした。犬が桃太郎にきび団子をもらって旅に出た感じでしょうか。

詳細は私の記憶の中で虫食いになっていて、大なり小なり違うかもしれません。ただし、彼はハローワークに行ったわけでもないし、採用募集を見て履歴書を送ったわけでもないことは確かです。

どこで出会いや仕事のきっかけがあるかわからないものだな、と私は感心して聞いていました。そしてエマくんが親友のリキくんにも声をかけて、一緒にアシスタントをしているといいます。桃太郎と犬に、猿が加わりました。リキくんはエンジニアだそうですが、モゴモゴ言っていたので悩める青年のモラトリアム期間なのかもしれません。

エマくんは米国育ちですが、家族はメキシコ出身ですから、彼も親族がいるメキシコに行くことがあるという話をしていて、「メキシコのジャングルはすごいんだよ」と教えてくれました。

「アメリカ人にすごく人気のエリアがあって、海がきれいでみんなが写真撮るために旅行に来るようなところなんだけど。とても美しいよ。それから、ジャングルがあるんだけど、そこで、ヨガをするんだ、マッシュルームを食べて。静かにヨガをしていると、目の前をいろんな見たこともない野生動物が通りすぎていくんだ。圧巻だよ。それで夜はテクノ音楽のパーティーがあるんだ。」

心静かにジャングルの中でヨガをやって、までは私も想像できなくはないのですが、マッシュルームからテクノパーティーとなると私のイマジネーションの範囲外です。「ジャングル、ヨガ、マッシュルームはネイチャーでナチュラルな感じだったけど、テクノで突然現代的だね」なんて、わけのわからないコメントをしていました。

エマくんは「そうそう、メキシコは先住民の人たちがいるから、彼らの生活はナチュラルで自然な素材を使うよね。スピリチュアルだよね。祖先とか死とか、そういうのを近くに感じる文化だよね。カエルを舐めるの知ってる?」と言いました。

私は一瞬聴き間違えたのかと耳を疑い「なにを舐めるって?」ときき返すと、「カエルの背中を舐めるんだよ、ナチュラルなドラッグ成分みたいなものが分泌されてるんだよ」とエマくん。

カエルの背中を舐めるなんて、私には懲罰にしか聞こえないのですが、どこの馬の骨とも知れないカエルの背中を舐めてまで、何かしらの感覚を得たいとは、人間の飽くなき探究心は、底抜けなものです。

いきなり、見ず知らずの人に引っ掴まれて、背中を舐められるカエルも、私以上に驚いてることでしょう。気の毒なものです。カエルだって、同意してない、と訴えたいかも知れませんし、PTSDに悩んでいるかも知れません。

いつか、心の傷を抱えるカエルたちが集団で立ち上がり、反乱や革命が起きるかも知れません。ホワイトハウスの前に大量のカエルたちが現れ、交通機関が麻痺し、街はパニックに陥るかも知れません。

もし、ニュースでカエルの暴動を見たら、「きっとあの子たちも背中を舐められた過去があるのかな」と思い出してあげてください。

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