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脊柱管狭窄症の教科書

理学療法士のHANAKOです。
noteでは、有料記事で臨床に役立つ情報を伝えていきます。

今回は、脊柱管狭窄症について解説していきますね。
この記事を読んでいただければ、脊柱管狭窄症への対応が出来るようになると思います。


- はじめに・・

理学療法士や作業療法士、柔道整復師などのリハビリスタッフが病院やクリニック、介護施設などで勤務すると、脊柱管狭窄症はとても多く対応する疾患の一つです。

書籍や勉強会、セミナー動画などで脊柱管狭窄症を学ぶと、腰椎の伸展ストレスをどのように減らすか、ということを主とした介入が推奨されている場合が多いように思います。

ただ、、

  • なぜ間欠性跛行が起こるのか、、

  • なぜか立位や歩行時より、座位で症状が強くなる、、

  • レントゲン所見で腰椎の前弯が減少しているのに、さらに後弯方向へ誘導するのか、、

など、本当に学びたいことは答えが見つからないことが多いです。

この記事では全般的な脊柱管狭窄症の解説に加えて、臨床経験で得た知識をもって皆さまの治療の一助となるよう、今回は間欠性跛行に着目して書いていきます。


- 概要

脊柱管狭窄症の定義は、明確なものがありませんが、

『腰椎部の脊柱管あるいは椎間孔の狭小化により、神経組織の障害あるいは血流の障害が生じ,症状を呈するもの』

といわれています。

脊柱管狭窄症は主に腰椎部に現れやすいため、まずは正常な腰椎の略図を紹介します。

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脊柱の中央に硬膜で覆われた脊柱管(青色)があり、その中を脊髄・馬尾神経が走行しています。その周囲を囲む椎間板(緑色)や黄色靭帯(ピンク色)などが脊柱の位置を保ち、脊柱の運動を円滑に行います。

一方、以下は狭窄した場合の略図となります。

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脊柱管の前方からは②椎間板や④骨棘・すべりなどで狭窄させ、後方からは③黄色靭帯や椎間関節などの肥厚により狭窄されます。
また、広義の脊柱管狭窄症として、椎間孔部分で狭窄を受ける椎間孔狭窄症も含まれています。


- 分類と好発部位

脊柱管狭窄症は狭窄する場所により、3つに分類されます。

1-1.馬尾型

脊柱管の中心部分が圧迫される場合は馬尾型となります。

脊髄はL1~L2で終わり、L2~の脊柱管内は神経束になって尾側へ伸び、それぞれの高さから分岐します。この神経束が馬の尾っぽに似ていることから、馬尾と呼ばれています。

そのL2~の脊柱管部が圧迫を受けることで症状が現れるのが馬尾型です。主な症状は、両側の下肢のしびれ・痛み・冷感などの異常感覚、排尿障害(膀胱直腸障害)などです。

1-2.神経根型

脊柱管から分岐した後の出口付近で圧迫される場合は神経根型となります。

左右に神経が分岐した後に圧迫を受けるため、多くは片方側に症状が現れます。主な症状は殿部から下肢にかけての痛みです。

1-3.混合型

馬尾と神経根の両方とも狭窄している場合は混合型となります。


2.好発部位

障害される腰椎レベルにより症状が異なりますが、

  1. L4/L5

  2. L3/L4

  3. L5/S1

上記の順に好発します。
腰椎の脊柱管を圧迫しますが、分類で記載したような脊髄の障害ではなく馬尾型となるのは、L3~下位腰椎に狭窄が起こるためです。


- 診断

1.診断項目

腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン2021によると、脊柱管狭窄症と診断されるには以下の4項目を満たす必要があります。

  1. 殿部から下肢の疼痛やしびれを有する

  2. 殿部から下肢の症状は、立位や歩行の持続によって出現あるいは増悪し、前屈や座位保持で軽減する

  3. 腰痛の有無は問わない

  4. 臨床所見を説明できるMRIなどの画像で変性狭窄所見が存在する

診断する施設によってはMRIが導入されていない場合もあるため、すべてを満たすことが困難なケースもありますので、問診・身体所見・レントゲンで脊柱管狭窄症の治療を行う場合が多いです。

2.腰部脊柱管狭窄症サポートツール

診断の補助的なツールとして、日本脊椎脊髄病学会が作成した腰部脊柱管狭窄症サポートツールもあります。

ABI(Ankle brachial pressure index)
ATR(Achilles tendon reflex)アキレス腱反射
SLR(Straight Leg Raising

カットオフ7点(感度92.8%、特異度72.0%)で運用し、本ツールは糖尿病の既往、ABIなどの項目も含まれるため、脊柱管狭窄症と同様に間欠性跛行が現れる末梢動脈疾患を鑑別するツールとして用いることが可能です。


- 主な症状

脊柱管狭窄症の代表的な症状は、間欠性跛行、下肢の神経症状、膀胱直腸障害などがあります。

1.間欠性跛行

一定時間・距離を歩くと殿部やふくらはぎなどに痛み・しびれ・疲労感などが現れ、しばらく休憩したり前屈みになると症状が治まります。

脊柱管狭窄症において最も特徴的な症状ではありますが、閉塞性動脈硬化症などの末梢動脈疾患でも同様の症状が現れるため、鑑別が必要です。

2.下肢の神経症状(痛み・しびれなど)

狭窄している神経領域に筋力の低下やしびれ・冷感などの神経障害が現れます。症状が長期間となれば手術などで狭窄部が改善しても神経症状に変化がない場合もあり、状況に応じて手術を検討していきます。

3.膀胱直腸障害

狭窄が高度になると便秘や尿失禁・尿閉(尿が出なくなる)になる場合があります。膀胱直腸障害は進行すると不可逆的となるため、早期に手術検討が必要です。

また、脊柱管狭窄症は加齢に伴い発現するため、同様の内科疾患も併存している患者さんは多いです。他科への受診歴のある患者さんには、医師と相談しながら治療を進めていく必要があります。


- 薬物療法

脊柱管狭窄症のガイドラインで薬物療法を推奨しており、症状や画像所見などをもとに処方内容を医師が検討しますが、理学療法士も治療を行う上で薬の理解は必要です。

1.馬尾型もしくは混合型には、リマプロストの投与を推奨

馬尾型・混合型は神経へ血流の障害が生じるため、日本整形外科学会では血流改善を目的としたプラスタグランジンE1誘導体製剤であるリマプロストを推奨しています。

2.神経根型もしくは腰痛には、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の投与を推奨

神経根型もしくは腰痛にはNSAIDsが推奨されています。消炎鎮痛薬のため、神経根部の炎症や腰痛を和らげる作用がありますが、一方で腎機能や消化器機能に障害がある場合は注意が必要です。


その他、メコバラミン(補酵素型のビタミンB12)やプレガバリン(末梢神経障害性疼痛治療薬)など、症状に応じて処方されます。



以上、脊柱管狭窄症の解説となります。

上記内容をふまえ、臨床でどのように脊柱管狭窄症向けの治療を行っていくか、主に間欠性跛行について書いていこうと思います。


- 臨床のナゼ / 間欠性跛行編

1.間欠性跛行はナゼ起こるのか・・

間欠性跛行は、先ほどの通り一定時間・距離を歩くと症状が現れ、前屈姿勢や座位で安静にすると緩和し再度歩行可能となる、間欠的な跛行をいいます。

なぜ歩行動作により症状が誘発されるのか、、

それは、歩行動作によって起こる股関節と腰椎の連動性と代償動作が関与します。

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