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四畳半の部屋から

私が今まで暮らした1番狭い部屋は四畳半だった。
ワンルームにキッチンとユニットバスがついていて、なぜかベッドとデスクが備え付け。
クローゼットはなく、ベッド下の空間が唯一の収納スペースだったから、そこに衣装ケースをいれていた。

洗濯機を置くスペースなどない。
1階にランドリーコーナーがあったため、洗濯物が溜まると3階から1階までせっせと通った。

大学の学生宿舎だったその部屋に、18歳の4月から20歳の3月まで暮らしていた。


その部屋で過ごしていた時間を、私はやけに鮮明に覚えている。
狭い部屋の中に工夫して配置した冷蔵庫や本棚。
畳ベッドの質感。食卓代わりに使っていた丸くて白い折り畳みテーブル。
やけに良いデスクチェアの座り心地。
なぜかカードキーだった鍵を閉める時の感触。
やむをえず洗濯物を部屋干しした時の狭さ。

起きて1歩で炊飯器に辿り着くから、起き抜けにのそのそとご飯をよそって食べていた。
小さなキッチンはIHの一口コンロで、大した料理はしていない。

部屋は狭いのに本をどんどん買ってしまい、本棚の上にさらにカラーボックスを乗せたところ、地震のたびに恐怖を抱くことになってしまった。

部屋の空気感や日差しの入り方まで、なぜだか本当によく覚えているのだ。


あの部屋は私の安全基地だった。
ようやく手に入れた、心から安心できる家だった。
当時お付き合いしていた人がいて、やたらと部屋に来たがっていたけど、男子禁制・一日3回警備員見回り・全廊下に監視カメラ設置という性質を説明し、丁重にお断りし続けた。

それがなくても、私はあの部屋に他人を入れたくなかったと思う。
実家から父の車に乗せてきた、本当に必要なものだけをおいたあの部屋は、私自身だったから。


今でも、「一人暮らし」を考えるとあの部屋のことを思い出す。
今の私には、下の子が高校を卒業するまでの残り15年間、1人で暮らす予定は全くないのだけど。

だけど、あの部屋に帰りたいなと思うことがちょっとだけある。
多分この先も、こんな気持ちが顔を出すことは続くだろう。
あの四畳半で過ごした日々が、今に続いているから。


これは子どもたちにはいえない、母の秘密の話。

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