赤い電車(ウラジオ日記6)

空港から町に出る手段は三つ。タクシー、バス、鉄道。

タクシーは値段交渉がめんどくさい。でもちょっとだまされるのも旅の面白さだと思っている。そんなことでいちいちムカつかない。日本で起こらないようなことはすべて魅力に思える。上海に友だちと行った時、白タクに騙された。僕はその鮮やかな手腕に感動していて、これが中国の悪か、いやチンピラか。とか思ってたのだけれど、友だちは思いの外落ち込んでいて驚いた。
でもお金を節約したかったのでバスに乗ろうかと思った。調べるとバスより電車が安いらしい。電車の方が安いし早い。国によって仕組みは違う。

7時半から始発が出る。まだ時間があるから、コンビニに寄って水を買った。

失敗した。

炭酸入りだ。
газированная か негазированная 。覚えた。

何回も振って炭酸を抜きながら飲んだ。炭酸が抜けても水にはならない。

やっと電車に乗る。チケットは車内で買えばいいらしい。しかし本当に美女が多い。しかもみんな違う顔をしている。当たり前だ。でもみんなが違うそれぞれの美しさを持っていると、言いたくもなる。

線路沿いを歩く人を時々見かける。道ではない、線路のすぐ横。制服を着ているようではない。フェンスも何もないからそれは多分自然のことだ。と思うと突然塀が現れて、視界を遮る。

その後、町を歩いていて思ったが、舗装されきってない道が多い。整備が行き届いてないというより、どうせ雪が降るから、しょうがないという感覚に見えた。道がいい加減だから、みな当たり前に線路の上を歩く。毎日がスタンドバイミー。

小さな川が線路の下に流れ込む。ピンク色の防寒着を着た母子が林道を歩いている。流れのない溜まりに釣竿を垂らす親父。青い上着を羽織って走る自転車の青年。なんでもないのに、切り取られた生活は魅力的に映る。

途中の駅から乗ってきた美女が隣に座る。本当にきれいで、柄にもなく緊張してしまう。

朝の電車は明かりが点いていなくて、トンネルに入ると真っ暗になる。明かりのない電車は居心地がいい。昔兵庫県の書写山というところで初日の出を見た。初日の出用に臨時で稼動するロープウェイにも明かりがなくて、真っ暗な深夜、暗い山道の上を過ぎていくロープウェイは居心地がよかった。
富士山で見た初日の出よりも書写山で見る初日の出は魅力的に見えた。それからしばらくしてメルカリで本を買った。送り主の住所を見ると書写山と書いてある。僕は思わずメッセージを送った。

ふと周りを見渡すと、誰も帽子をかぶっていない。ロシア人は帽子をかぶらないのか?それとも帽子はあのふかふかと毛皮をまとった防寒具のことで、だから冬がやってくるまでは被らないのか。

ガチャガチャと車内に音が響き渡る。節操なく、荷物をかき回す少女がいる。青い髪をした少女。アデルみたいな青色。何かに慌てているのか、緊張しているのか、慌ただしく荷物を開いたり、立ったり座ったりしている。人の目を気にして怯えるようではない。自分に似合う青い髪をきらきらとなびかせながら、ウラジオストクより手前の小さな町で彼女は降りていった。

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