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能力・実力はあるが器の小さいリーダーの問題について

非常に能力の高いリーダーが、道を踏み外したように組織を崩壊させていく事例を耳にする機会がありました。

彼ら彼女らは現代社会の評価基準で見れば優秀で、高い成果を出しているエリートです。

しかしながら、周囲のチームメンバーは疲弊し、閉塞感に苛まれ、本来のパフォーマンスを発揮できない状態に陥っているのです。


「人としての器」の研究に取り組み始めたのは、まさにこの問題意識がきっかけでした。

権力を持つ者に求められる資質は、成果を発揮するための能力・実力だけでいいのでしょうか?

たしかに、目に見える成果や実績は、わかりやすい形で評価することができます。

しかし、すぐには目に見えない器の大きさ、すなわち、人間性や包容力といった、人としての在り方こそが重要ではないでしょうか?

それなのに、現代の能力主義の社会では、能力や実力ばかりがもてはやされ、人としての器がしばしば軽視されているように感じます。


そこで今回は、能力・実力はあるけれど器の小さい人が権力を持つことの問題について考察していきたいと思います。

具体的には、リーダーのタイプを以下の4つに分類し、それぞれの特性と組織への影響を考えてみました。

1.能力・実力があり、器も大きい
2.能力・実力がなく、器が大きい
3.能力・実力があり、器が小さい
4.能力・実力がなく、器も小さい

能力・実力と器に関する4つのタイプ

1.能力・実力があり、器も大きい

これは理想的なリーダー像です。彼らは意思決定に優れ、高いパフォーマンスを発揮します。

さらには周囲の意見を尊重し、多様な意見を取り入れながら高い次元に昇華し、組織としての持続的な成長を追求します。

これにより、健全な組織文化が育ち、メンバーも成長と満足度を高めながら、組織の成功へとつながっていくのです。


2.能力・実力がなく、器が大きい

このタイプのリーダーは、残念ながら能力主義の社会ではなかなか評価を得られません。

しかし、器が大きければ、時間はかかるかもしれませんが、様々な能力を獲得し、自分らしさを発揮することができるようになるでしょう。

また、器が大きいリーダーは人望が厚く、メンバーの主体性を促進し、結果として、組織としての持続的な成長につながります。

したがって、このタイプのリーダーの人間性と振る舞いは、組織の長期的な成功に寄与する可能性があり、見過ごすべきではないのです。


3.能力・実力があり、器が小さい

このタイプのリーダーは、能力主義の社会ではしばしば称賛を得ています。

彼らの発揮能力や高いスキルや影響力は、短期的な成果を出すうえで重要となるからです。

しかし、その器の小ささゆえに、組織のメンバーの行動は必要以上に制限されて委縮し、組織全体のモチベーションやモラルに低下につながる可能性があります。

しかも、より大きな問題は、能力主義の社会において、実力のあるリーダーに対しては、誰も反論することができないところにあります。

したがって、このタイプのリーダーが権力を持ってしまうと、法に触れるような重大な問題が顕在化しないかぎり、その立場から外されることはありません。

そして、表面的には良好な成果が出ているように見えるため、誰もそれを諫めることができず、しかし内側から着実に腐敗が進行しているという可能性があるのです。


4.能力・実力がなく、器も小さい

このタイプのリーダーが権力を持つと、組織全体に大きな悪影響を及ぼす可能性があります。

しかし、能力主義社会においてはガバナンス機能が働くため、実際、このタイプはそもそもリーダーとして登用されづらい状況にあります。

また仮にリーダーになったとしても問題がすぐに表面化するため失脚しやすく長続きするケースは少ないように思われます。


まとめ

特に注意すべきは、「能力・実力があり、器が小さい」リーダーです。

彼らはマイクロマネジメントやパワハラといったグレーゾーンに傾きながら、組織全体のモラルを低下させ、最終的には組織を崩壊に導くことになるかもしれません。

したがって、短期的な成果を生んでも、長期的には組織の健全な成長を阻害する可能性があります。

この問題を解決するために、リーダーの評価や登用に関しては能力や実力だけでなく、器の大きさも考慮することが重要です。

リーダーに当たる立場の人が、器の大きさがどれほど重要であるかを理解し、それを周囲に働きかけるような気運を作り出すことが、組織の長期的な成功にもつながっていくでしょう。

これは、組織のリーダーに限らず、親や教育者や年長者といった一般的に権力を持つ方達にも、同様に当てはまることのように思います。

自分に能力・実力があるからこそ権力を行使できるという一種の驕りが、周囲に対して屈辱や憤りといった負の影響をもたらすことになるのです。

政治哲学者のマイケル・サンデル氏は『実力も運のうち 能力主義は正義か?』(早川書房)の中で、能力主義のエリートの傲慢さを指摘したうえで「運命の偶然性を実感することは、一定の謙虚さをもたらす」と書いています。

権力を持つ者が能力や実力を重視する社会の前提を自覚せず疑問を持たなければ、わかりやすい成果を出す人を今後も評価し登用し続けてしまい、能力主義はその純度を高めながら再生産し続けることになるでしょう。

その負のスパイラルから抜け出すためにも、私たちは目に見えない「人としての器」に関する知見を深め、他者に対する包容力と謙虚さを獲得していく必要があるのではないでしょうか。

より詳しく「人としての器」を学びたい方は、金曜の夜は”いれものがたり”にご参加ください。

これまでの研究成果のエッセンスを紹介し、対話形式で理解を深める入門版ワークショップです。


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