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八首抄

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記事一覧

八首抄 令和6年1月号

八首抄 令和6年1月号

高貝次郎選
淡淡と咲いてくれたね藤袴アサギマダラは来なくてもいい高田 香澄夕星が次第に離れゆくごとく遠くなりゆくいとこはとこら臼井 良夫西の方群青色に浮き立ちて秩父連山しづしづと秋佐田 公子入道雲・うろこ雲またひつじ雲空一面の空の欲ばり井手 彩朕子ひぐらしの涼しき声を聞きながら心の秘密かみしめている北岡 礼子放棄地に囲まれ揺るる蕎麦の花耕す人のいるは喜び髙橋 律子なんという巨大な魚のウロコ雲わたし

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八首抄 令和5年12月号

八首抄 令和5年12月号

宮本 照男 選

ただ独り昼の電車に揺れながら知らないひとの傍へに座る
臼井 良夫

ながながと止まらぬ愚痴の電話切るさよなら私は聖母ではない
高田 香澄

新しいシャツのタグを切り落とし淋しき朝の始まりとする
森崎 理加

秋風が夏の火傷にそっと触れ、宥めるように木の葉をゆらした
鎌田 国寿

ATMの暗証番号忘れたりのっぴきならざる峠越えなん
田口 耕生

我が事を祈った最後はいつの日か母にな

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八首抄 令和5年11月号

八首抄 令和5年11月号

永田 賢之助 選
草の上に風おくりつつ黒揚羽身を抜くように影をおとしぬ
高田 好

朝刊のテレビ欄に目を通し今日一日の予定を策す
伊関 正太郎

八月の六日に今年も鳴き初むるこほろぎは知るや原爆の日を
佐田 公子

核兵器共有のニュース乱れ飛ぶ今をいきつつ唖然 忽然
高貝 次郎

太陽も怒り心頭この暑さ北半球を焼き尽くすがに
西原 寿美子

青森の短き夏を盛り上げる天狗ネブタの睨み豪快
田口 耕生

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八首抄 令和5年10月号

八首抄 令和5年10月号

山口 美加代 選
四十七歳の娘はRXセブンにて走りぬけしか彼岸までをも
井手 彩朕子

八月の思い出は濃し母子四人敗戦引揚げ無蓋車の揺れ
上村 理恵子

激烈に舌にしびるるサイダーを立ちて飲み干す咲く鳳仙花
臼井 良夫

ラフマニノフピアノ協奏曲第2 昼の炎暑を耐へし夜の贅
高田 香澄

こうやって生まれてきたのか プールから小さき人を抱き上げる時
渡邊 富紀子

燃えあがれ陽に向かい咲く

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八首抄 令和5年9月号

八首抄 令和5年9月号

井手 彩朕子 選
歌一首なりたる朝の道々にドーナッ二つ買ってゆこう
山口 美加代

水の面は人の声にも揺れている秘密を抱える少女のように
高田 好

薄ごろもまとへる人の多くなり老の施設も夏は華やぐ
広瀬 美智子

わが胸の欠けたるピース無きままに花もて埋めん梅雨に咲く花
三上 眞知子

ぽつかりとぽかりと浮ける夕暮れの雲に置きゆく思ひの片
山北 悦子

祖父の家更地となれるを尋ね行き愛されたはず

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八首抄  令和5年8月号

八首抄 令和5年8月号

青山 良子 選
休戦が今すぐそこにあるやうな昼月が浮く菜の花畑
臼井 良夫

独り子でありし淋しさえんえんと九十歳を越えても続く
広瀬 美智子

ゆっくりと空に溶けゆく夕焼けを弱視の吾の心に刻む
児玉 南海子

ストーブを二台焚いても動かない私のからだに猫が添い寝す
菊池 啓子

小綬鶏のちょっと来いの声姿見せず呼ぶだけの鳥一度見てみたい
北岡 礼子

庭隅にひっそりと咲くオダマキの花は恥じらう風

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八首抄  令和5年7月号

八首抄 令和5年7月号

佐田 公子 選
クレマチスの咲くに遅速の序列あり白、紺、ピンク趣こぼす
橋本 俊明

真先に告げたき人のおらぬこと母の水替え兄の水替える
児玉 南海子

軒下に吊られ揺れいる白きシャツ風になりたき私のように
高田 好

何よりも普通なること一番とわが書きながら少しさみしき
藤峰 タケ子

いたらなき娘を嫁がせる思ひして投稿の歌ポストにためらふ
谷脇 恵子

ふりむけば誰もいない春の風とうとう一人に

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八首抄  令和5年6月号

八首抄 令和5年6月号

渡辺 茂子 選
ひとひらの雲のゆくえに我が心預けておりぬ梅の香のなか
奥井 満由美

彩の絹莢二莢さみどりの口に弾けてああ春憐
毛呂 幸

ゆっくりと桜の下を歩きたり待っているよと蕾にエール
浦山 増二

尾根からの水を含みし雪片が時間差つけて春を呼び込む
藤田 直樹

早春の梅のさ枝に蕾着く音符のごとく春を奏でる
伊関 正太郎

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八首抄  令和5年5月号

八首抄 令和5年5月号

橋本 俊明 選
AIの機能搭載したようなピカピカオデコの美誠ちゃんが好き
高橋美香子

光さす天窓のある台所 菜を刻む音 母の 後姿
高田 好

パソコンのゲームにはパッパと反応す異次元めける孫の指先
成田 ヱツ子

年々に義理を欠くことの増しゆくと時世に合はす戸閉りもする
渡辺 千歳

道ならぬ道と知りつつ知ればこそむべわが園にかをる柏木
石谷 流花

寒き朝枝に刺したるみかん喰む鵯のせはしき陽

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八首抄  令和5年4月号

八首抄 令和5年4月号

水谷 和枝 選
友の弾くギターに合わせ歌いたり心を開き空に向かいて
藤田 直樹

蕭々として走りゆく雪原の風は帰りの道を知らない
臼井 良夫

カルテにて誕生日と知る看護師の祝ひの言葉にこころはなやぐ
斎藤 叡子

寒卵わりて小鉢にうつし見る囲いの中で終えし鶏
才藤 榮子

子にはこの親には親の思いあり飛行機雲の続く初空
高橋 美香子

原点を探すがごとくゆっくりと私はコーヒーいつもブラック
田中

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八首抄  令和5年3月号

八首抄 令和5年3月号

臼井 良夫 選
わが影を見ながら歩く夕刻に存在の無き悲しみを知る
藤田 直樹

道の上より見ればわが家の瓦の屋根が輝り返しをり
川口 六朗

暮れなずむ稜線続く房総のローマと同じ色の夕焼け
高橋 美香子

どの人も眼は美しと思ひつつマスクの顔に対きて物言ふ
広瀬 美智子

放浪の人もやうやく老いづきて残るいのちをわが傍におく
高田 香澄

天空の薄き空気を思いつつまぶたに描くマチュピチュ遺跡
建部

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八首抄  令和5年2月号

八首抄 令和5年2月号

広瀬 美智子 選
お墓には行けないけれどこの庭のさまざまな菊をすべてあなたに
高田 香澄

今年もまた着たら捨てよう繰り返し黒きセーターはクッションになる
篠原 和子

天空よりぶら下がるごと動かざるブランコに降る落ち葉しきりに
山北 悦子

おふくろと呼ばれる友はゆっくりとふり向く時におふくろの顔
児玉 南海子

運休の内陸線の駅舎あり玩具箱からこぼれたように
永田 賢之助

スメタナの祖国

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八首抄  令和5年1月号

八首抄 令和5年1月号

高貝 次郎 選
今日の君取り分け話が合うようで崩したる脚組みかえしたり
財前 順士

湯にひたるあなたの背は若いねと言葉に出して言へばよかつた
高田 香澄

十四号台風明けの庭に立ち「木守柿」とふ言葉にあそぶ
井手 彩朕子

尖塔のクルスは秋の光受け世のなべてもを清めむとする
佐田 公子

姉からの電話も消えて十五年空の青さを今日も見上げる
臼井 良夫

地蔵堂に群がる蟻の動きとはカオスに似たる秩

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