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「今を生きる」

―思うようにいかない現実にぶつかった時、ついつい足りないものばかりに目が向いてしまう。周りと比較してこれがない、あれがないと、ないものを探してしまい、それが苦しみを招いてしまう―

先日聴いたラジオで言っていたことである。私はその言葉を聴き、
「ああ、本当にそうだなあ……」
と思い入った。

私はこの1年間、自分の「傲慢さ」にぶつかり、その壁に直面していた。
私は今まで自分は結構モテる方だと思っていた。年に3回は告白されるし、別れてもすぐ別の相手ができるしと、天狗になっていたのである。

去年の秋、当時付き合っていた男性とお別れをした。
結婚するという話も出ていて、それにも異論はなく、この人と生きて行くんだなと思っていた。
ただ、彼から毎日のように来る愛情表現を私は持て余し、関係性が進むにつれ、その温度差への罪悪感は強くなっていき、恋愛経験の未熟な私はその罪悪感への対処法として「別れる」という選択肢しか持っていなかった。
三日三晩かけて話し合い、私たちはお別れをした。
別れた翌日は、罪悪感から解放され爽快感があった。しかしその後、寂しさが襲い、彼の存在の大きさを思い知ったのである。
仕事が忙しいだろうにいつも話を聞いてくれていた。車を飛ばして遠い場所なのに会いに来てくれていた。私の能力を信じ、合いそうなセミナーを見つけて来てくれた。私を支え、背中を押してくれていた。
私はそれをしてもらって当たり前のことだと思い、自分のことしか考えていなかった。
自分の中の彼の存在の大きさに気付いた私は急ぎ彼に電話をし、もう一度付き合ってほしいと伝えた。
しかし彼はこの関係性は終わったと言い、何度か話をしたが私たちの関係が再度元に戻ることはなかった。
私は、私が願えば元に戻ると信じていた。しかしそうはならなかった。
人生で初めて、強く願っても思い通りにならないことが起きた。

それから一か月が過ぎ、2カ月が過ぎ、途中別の恋愛をしたがそれもうまくいかず、1年が経ったが私は自分の傲慢さを責め続けていた。
私が傲慢だった。子どもだった。全て自分の思い通りになると思っていた。
でも自分が本当に欲しいと思ったものは、気付いた時には手に入らない場所に行っていた。
私が傲慢だったせいで、相手の未来も潰した。ご両親の思いも踏みにじった。
行こうと言っていた四国のホテル、しまなみ街道、北陸の美味しい和菓子屋さん。
果たしていない約束が多くある。
そしてそれらの未来は私が自ら破り去った。
私が今まで人を人とも思わず気持ちを踏みにじり利用したこと、多くの男性にしてきた不誠実な行い、それらの行為の代償として自分が失った愛の大きさを思い知り、打ちのめされた。
毎日自分の傲慢さと愚かさを責めていた。

そんな日々を送っていたのだが、先日祖母宅に行き、ハッと気が付くことがあった。
私の祖母は89歳で、身体機能も低下し要求も多く手がかかる。先日会いに行った時も、
「タンスを片付けてほしい」「電気毛布を出してほしい」「パジャマを出してほしい」など要求は後を絶たず、内心イライラしながら対応していた。
しかし、祖母がズボンを履き替えるのを手伝っている時に、ふと祖母の足がゾウのようにむくんでいることに気が付いた。
「ばあちゃん、これ痛いでしょ?」
と言い、祖母の足をマッサージした。
すると祖母も、
「あ~気持ちいいな~~~」
と大人しく座り、要求も言わずマッサージを受けてくれた。
じっと止まってそうした祖母との時間を過ごしていて、ハッとした。
私は最近自分を責め後悔し、未来を思い悩み、自分のことでいっぱいいっぱいで、こうして目の前にいる人と一緒にいることをしていなかった。
耳も遠く思い通りにならない祖母。腰も曲がり無理させることもできない祖母。あと何年生きるか分からない祖母。
そんな祖母の前では自分を滅するしかなかった。
そしてそんな祖母と過ごす時間は、最近の私にとって台風の目のような穏やかな時間だった。

その日祖母宅から帰宅し、自分を振り返り私は「今」に抵抗していたんだな、と気が付いた。
行動力があること、決断が速いこと、人をよく見ていること、仏教心があること、好奇心が旺盛なこと、ITに強いこと、頭の回転が速いこと、物事を客観的に見ることができること、ソフトクリームが好きで見かけたらすぐ買うこと、そして何よりすごく優しいこと。優しすぎて引き受けすぎること。
彼のいいところは100くらいは悠に挙げることができる。
私は私に負けない強さを持つあなたに惹かれた。
そしてそれらの思いを持ち続けることを抵抗していた。誰か別の人といるなら忘れてその人を好きにならないといけないと思っていた。
祖母と過ごすことで私がすることは、それらの思いに抵抗しないことだと気づいた。

好きのままでもいいではないか。
一生思い続けてもいい。思いがあるまま別の人といてもいい。
その思いがあってもいいんだと、相手への尊敬、感謝、愛しさを受け入れた時に心は穏やかになった。
自分の思いをそのままにする先に、未来はある。

        【終わり】

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