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絶叫する息子_その1

息子は怒ると叫ぶ。叫ぶというか、絶叫に近い。
つい先日、どこかで昼食をとろうかとなり、息子はすぐにオモチャが付いてくるハンバーガーが良いと主張した。私はそうなるだろうなと予想していたし、きっと娘も賛同するだろうから、それでいいや思っていた。ところが、その日に限って、娘は「餃子とチャーハンが食べたいの!」と言った。そして夫も娘に賛同した。これはイヤな予感がする。私は、息子と私、娘と夫の二手に分かれて食事をしようと提案した。しかし、最近私にベッタリな娘は、どうしても私と食べたいと袖を引っ張る。

夫は、食べ物が絡むと頑として自分の意思を変えない傾向がある。食べ物に関しては譲歩する気がないらしい。たとえ、これから起こるであろう事がどんなに大変か想像できたとしても。私の心配をよそに「もう、お兄ちゃんだし、話せばわかるでしょ」とサラッと言った。そうして、「ハンバーガーはまた今度にしよう。」と息子に宣告した。

後は想像通り。「僕はハンバーガーが良かったのに!」と息子は怒り狂い、通路で転げ回った。

夫が近くフードコートのメニューを見せて、「これ見て、チャーハンとか餃子があるよ。ジュースもついてるよ」と、あれやこれやと息子の気を引こうとしたが、彼は自分の主張が通らないことを理解して、より一層泣きじゃくる。どうにかこうにか彼を空いている席まで連れて行ったものの、ソファーに突っ伏してずっと泣き続けた。結局、私と娘が昼食を先に食べ、その間夫はずっと泣きじゃくる息子の相手をすることとなった。

しばらくして、ようやく落ち着いた彼は、自分で食べたいものを決め、注文した。これで落ち着いて食事ができそうだ。私と夫が安堵した。しかし、運ばれてきた食事を見た彼が、またもや叫んだ。「りんごジュースが良かった!!!」

彼が選んだ食事はオレンジジュースしか選べなかった。そして彼はオレンジジュースを飲まないのだ。
「なんで確認しなかったの?」と私が慌てて夫に問いただすと、夫は「何度も確認したんだ。リンゴジュースはな無いよ、それでも良いの?って」と愕然として言った。よくよく彼の叫びを聞くと、彼の目に、娘が選んだお子様セットに添えられた200mlのジュースパックが留まり、彼にはそれがりんごジュースに見えたのだ。自分が選べなかったものを娘が手にしていると思って絶望したのだ。本当は、彼と同じオレンジジュースなのに。

私たちは再び振り出しに戻ってしまった。彼は自分で頼んだ食べ物に見向きもしないで叫び、泣き、また転げ回った。

無いものは与えられない。リンゴジュースくらい、探せばきっとすぐに手に入る。でも今回は自分で確認して決めたのだから、用意するのは何か違う。そう思った私は「リンゴジュースはないんだよ。おとうさんがちゃんと言ったよね。妹が飲んでいるのもオレンジジュースなんだよ」何度もそう言ってなだめた。しかし再び頂点に達した彼の怒りと悲しみはすぐにはおさまらず、床に座り込んで泣きじゃくり続けた。

私は彼が怒る理由がよくわかる。そもそも、彼が最初に「ハンバーガーが食べたい」と主張したのに、彼の主張は娘の一声で消されてしまった。理由もなく。そして「我慢すること」と押し付けられたのだ。私も「やっぱり別れて食べよう」と強く言えば良かった。私のミスだ。「そうだね、本当はハンバーガーの方が良かったよね。お母さんもそうだよ。みんなで楽しく食べられればなんでも良かったよ」心の中でそう思いながら、泣きじゃくる息子をなだめ続けた。

2回目の絶叫の後、だいぶ発散したのか、彼は突然シュンっとなって、床から起き上がり、椅子に座り、別人のようにもくもくと食べ始めた。あれだけ嫌がったオレンジジュースも飲んだ。そうして、長い、長い昼食が終わったその後、彼は何事もなかったように振る舞い、夜は叫び疲れたのだろう、寝入りも早かった。
みんな本当に疲れてしまった。しばらく外食はしないだろう。

その夜、反省会が行われた。
「ちゃんと話せば納得してくれると思ったんだよ。メニューには息子が好きなものもあったし。」疲れた顔で夫が言った。
私は「息子の希望は最初から決まっていたよ。”何故だめなのか”の理由もなく納得しろって無理だよ。」そう思ったが、心の内は話さなかった。落胆している夫に追い打ちをかけたくなかったし、夫も十分に理解しているはずだ。そして、私も全く上手く対応できなかった。

彼にこちらの意図を理解してもらうことがいかに難しいか、絶叫している彼をどうやって落ち着かせたら良いのか、絶叫する前に何ができるのだろうか。今後どうやって対応していくべきなのか、そうしているうちに、話題は息子から娘へ広がり、そういえば、最近娘も「お父さんいやなの!」と言い始めたな。子どもたちに関しては、申し訳ないけれど、しばらく君が(私)が中心となって対応したほうが良いのかもしれない。と、話は色々飛び、でも、ほとんどの話題に良い解決策は見いだせず、生産的とはいえない反省会だった。しかしお互い「疲れたね、大変だったね」と口に出せただけでも心が救われた。









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